30年待たされた異世界転移

明之 想

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第1章 オルドウ編

夕連亭 22


 どういうことだ?
 手も足も、今の一撃を放つ直前の体勢で固まったように動かなくなってしまっている。

「フフ、これは使いたくなかったのですがねぇ」

「……」

 どうしたらいい?

「一度使うと当分使えませんからね。大変なんですよ」

「何をした?」

 動揺を悟られないように。
 そして時間を稼ぐように、オルセーに話しかける。

「ほう、話すことができるのですか」

 身体は動かないが、口だけは動く。

「大した抵抗力だ。やはり、あなたは危険ですね」

 近づいてきたオルセーが俺を足蹴にする。
 それは俺に衝撃を与えるようなものではなく、ただ弄ぶように顔や頭を踏みつけるだけのもの。

「くっ」

「ほら、動けないでしょ。そういうものです」

「すぐに動いてやる」

 その言葉に勢いはない。
 本当に身体の自由を奪われたとなると……。

 首を斬りつけられた記憶が、あの感覚が頭を過ぎる。

 ……。

 ふき出した汗が頬を伝う。

 まずい!

「それは、まさか、マリスダリスの刻宝!?」

「そんな物まで持っているの、オルセー!」


 まずい、まずい!
 恐怖が襲いかかってきそうだ。

 ……。


「ええ、そうですよ。私くらいになりますとね、このような国宝級の魔道具も所持できるのですよ」

「そんな、どうして?」


 くっ!

 またかよ。
 情けない。

 こんな所で恐怖に怯えている場合じゃないだろうに。

 はは……。

 自分の不甲斐なさに笑えてくる。

 今まさに死地にあるというのに、ただそれを恐れているだけなんてな。

 こんな情けない奴は死んでしまえばいいんだ。

 だから、腹をくくれ。
 それに、そう、あの時とは違う。
 まだ致命傷を負ったわけでもない。


「フフフ、どうしてでしょうねぇ」

「国でも所持することができないような宝具なのに…」


 現状を冷静に認識しろ。
 なんの道具を使ったかは知らないが、動かない理由があるはず。
 問題は筋肉か神経か?

 焦る気持ちを抑え、高ぶった意識を静めて探っていく。

 なっ、これか!

 驚くことに、全てのチャクラが完全に閉じていた。
 さらには、身体全体に流れる気が有りえないくらいに停滞している。

 前回の人生で、魔力循環の鍛錬の一助となればと思い学んでいた気功。
 その時間の中でも経験したことがないような沈滞。

 信じられない状態だが、それでも、これが原因なら……。

 気を練り直し生体エネルギーを循環させる。
 強引に無理やりにでも閉塞したそれをこじ開け流す。
 第1チャクラ、第2チャクラと続け……。

 よし、とりあえず、少しずつ流れ始めた。

 だが、まだまだ身体は言うことを聞かない。


「まあ、ベリニュモナの護宝と違って使い捨てではない特級の宝具ですから、あなたが驚くのも無理はないですよ」

「ひょっとして、盗んだの?」

「人聞きの悪いことをいいますねぇ」


 それなら、魔力も流してやる。
 魔法を使えない状態でできるか分からないが、試すだけだ。

 どうだ!

 おおっ、魔力を動かせるぞ。
 よし、これでどうだ。


「なら、あなたがどうして」


 よし、いいぞ。
 よし、よし!

 これなら、少し時間が経てば。


「秘密です」

「……」

「さて、話は後でゆっくりとするとして、先にこの男を処分しましょうかね。厄介な男みたいですから、どうしてやりましょうか」

「やめてください」


 今の今まで体内循環に集中していた俺だが、ふと意識を戻すと。
 俺を足蹴にしているオルセーの横にウィルさんが立っている。

 まさか、俺を庇ってくれるのか。


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