30年待たされた異世界転移

明之 想

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第1章 オルドウ編

露見


「普通人とは何ですか?」

 聞いたことないぞ。
 文字通り普通の人、この人からしたら魔法を使えない人を指すのか。

「知らないの?」

「はい」

「本当に普通人なのね」

「私は普通の学生です。その普通人とはいったい何なのですか? さっきの氷と炎、あれも何ですか?」

 好奇心に負けてしまった。

「それも分からないのよね」

「はい」

 俺の魔法が知られる危険はあるけれど、聞いてしまったものは仕方がない。
 というか、あれだ、あんな不思議現象を聞かない方が不自然だろ。

「……」

「……」

 だんまりか。
 俺には聞いてきたのにな。

「話せませんか?」

「今は……そうね」

 まあね、簡単に話せるような内容じゃないというのは理解できる。

「そうですか」

「悪いけど、そういうこと。あ、痛ぅ!」

「やっぱり、その傷大丈夫じゃないですよ。さあ、まずは病院行きましょ」




 その後、俺の自転車の後ろに乗せて、かかりつけの病院とやらに運ぶことになった。
 その病院は、こんな時間でも対応してくれるらしい。

 傷に関しては、水で洗った後に応急処置をしただけだったのだが、それで十分だと彼女が言うもので、本当に軽く手当てをしただけとなっている。

 実を言うと、治癒魔法をこっそり使ってしまった。
 ほんの少し使っただけなので、気付かれることはないと思う。

 わずかな治癒魔法でも使わないよりはましだ。

 回復系の魔法が苦手な俺の治癒では完治させることはできないから、いずれにしても病院には行く必要があるんだけど。

 まあ、彼女は普通人じゃない、魔法も使える超人だからな。
 問題ないだろう。




「では、私はこれで」

 無事病院に到着したので、帰宅させてもらおう。
 長居は無用だ。

「名前も教えてくれないのね」

「あなたも教えてくれないじゃないですか」

 そうでしょ、魔法美女さん。

「こちらは、その、事情があるから……」

「こちらには事情などありませんが」

 あるに決まっている。
 非常に重要な事情が。

「そちらは今日のことは無かったことにした方が良いみたいですしね。それなら、こちらも何も見ていません、そもそもあの公園にもいなかった、ということでいいんじゃないですか」

「っ!」

「お互い名前も知らない。それでいいと思いますよ」

 なんか最近こんなことばっかり言っているような気がするな。
 今の俺の状況では仕方ないとは思うけれど、中途半端感が拭えない。

「それでいいの?」

「はい」

「そう……」

 そちらの魔法には、非常に興味がある。
 けれど、この女性の背後には複雑な組織とか存在していそうだし、こちらのことが露見したら芋づる式に複数人にばれてしまいそうな気がする。

 そんなことになったら異世界から追放の可能性も。
 それだけは避けないと。

「分かったわ」

「では、もう会うこともないかと思いますが、お元気で」

 だから、これ以上関わるのは止そう。

「……そうね」

「では、これで」

「ちょっと待って、あの……」

 うん?
 ほんのりと頬を染めて躊躇している。

「何でしょう?」

「あの……その、今日はありがと」

 そう言って、病院の中に脚を引きずりながら駆けて行った。

「……」

 なに、その仕草。
 さっきまでの態度とのギャップに、一瞬息がつまる。

 ……。

 はぁ。

 何と言うか、興味深い魔法使いさんだったな。
 もう会うこともないと思うと……。

 異世界の件が露見する危険がないのなら、色々と話を聞きたかったのだけれど。
 こればかりは仕方ないことだな。





 現代日本の魔法使いさんと別れた翌日。
 日本とオルドウの二重生活を再開した俺は、驚きの事実を目にすることになってしまった。

「ステータス」


  有馬 功己 (アリマ コウキ)

20歳 男 人間

HP  110
MP  155
STR 183
AGI 125
INT 211

<ギフト>
異世界間移動  基礎魔法  鑑定初級 エストラル語理解

<所持金>  
630メルク

<クエスト>
1、人助け 済
2、人助け 済


<露見>

地球    2(点滅)/3
エストラル 0/3



 新しい表示が現れたのだ。
 しかも、非常に残念なもの。

 露見って……。

「はぁ」

 これって。
 4/3になったら、異世界間移動のギフトを喪失するんだよな。
 ということは、当然オルドウに移動ができなくなる。

 それはまあ、神様から聞いていたから分かっていたけれど。
 実際こうやって目の前に示されると、焦ってしまう。

 ……。

 で、さらに問題なのは地球の欄に2が点滅しているということ。
 これ、間違いなくあの女性だよな。あと、あの男も。

 しかし、たったあれだけのことで、露見するものなのか?
 異世界のことまで知られているとは、到底思えないのだけれど。

「はぁぁ」

 ここで俺が何を言っても、表示は変わらないか。

 ホント……。
 まいったなぁ……。

 まさか2人に知られるなんて、あと1人に知られたら終わりじゃないか。
 なんてことだ。

 ……。



 などと、落ち込んでいたのだが、その後明らかになった事実で少し心が軽くなった。
 というのは、数字の点滅。

 露見2/3の2という数字が点滅しているってところがポイントだったんだ。
 この数字を鑑定したところ、点滅は未確定を表すと判明したんだよ。

 助かった。

 でもさ、そりゃそうだよな。

 昨日の状況で異世界の存在までバレるはずがない。
 仮に魔法を見られていたとしても、すぐさま魔法イコール異世界とはならないはず。
 こちらとしては異世界の存在を知られなきゃいいのだから。

 というか、露見の判定厳し過ぎるだろ。

 現時点で、あのふたりが異世界の存在に思い至っているとは思えない。
 そもそも、俺が何らかの異能を使ったことに確信を持っているわけでもないだろうし、その異能だって魔法と思っているとは限らない。

 これで点滅しているってさ。

 厳しいですよ、神様。

 ……。

 まあ、でも、仮に俺が魔法を使えるということが露見しても、魔法だけならいいんですよね。
 異世界の存在が露見しなければ?

 まさか、違う?
 この状況で点滅しているってことは、魔法だけでも駄目とか?
 いや、さすがにそれはないよな。

 ……。

 分からない。
 俺に分かるわけがない。

 神様からメッセージ的なものがあれば、助かるんだけれど。

 ……。

 まあ、最悪の状況を想定しておく方がいいな。

 とにかく、今後は何も知られない方がいい。

 とすると、俺が一般人だということをあの女性に納得してもらうのが最善だ。
 それが無理なら、超能力者ってことでもいい。

 俺の魔法使用発覚からの異世界露見だけは絶対に阻止しないと。

 でも、もうあの女性と会うことはないかもしれない。

 ……。

 それは、それでいいのか。

 彼女の中にある俺の記憶が薄れれば、露見表示も消えてしまうだろうから。
 多分……。



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