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第2章 エンノア編
エンノア 2
「はい。ですから、我々も決して魔落には近づかないようにしています。コーキさんも魔落には近づかないでください。といっても、魔落に行くには円筒の縁から下までかなりの距離を下りないといけないので、行こうと思って行けるものでもないのですけどね」
「その魔落に下りる道はあるのですか?」
「ないです。なので、簡単に行けるものでもないのですよ。もちろん、縁から落ちたら行けますが、あの高さから落ちたら命はないでしょうから」
円筒の内側を下って魔落に行くことは困難だということか。
「なるほど。それで、魔物が魔落から出てくることはあるのですか?」
「まずないですね。円筒の高さも理由ではありますが、そもそも魔落にいる魔物は瘴気に集まっているようなものですから、そこから離れることはないようです」
「それは良かった」
「驚かせてすみません。魔落は危険ですが、普通にテポレン山で暮らしている分には問題ありませんので。というわけで、魔落に繋がるこの先は通行止めとなっているわけです」
納得の理由だ。
「分かりました」
テポレン山にはそんな恐ろしい場所が存在するんだな。
しかし、オルドウでは全く耳にしなかったぞ。
魔落の存在をオルドウの人々は知っているのか?
疑問に思ってフォルディさんに訊ねてみると、おそらく知らないのではないかと教えてくれた。そもそも、テポレン山の北側7合目辺りは人が訪れるような場所ではないとのことだ。
「現在使用していな通路や広場はまだありますが、現状使用している施設で見学可能な場所は一通りご案内させていただきました。いかがでしたでしょうか?」
「素晴らしいです。感動しましたよ。地下にこんな町があるとは想像もしていませんでしたから。整備された通路も沢山ありましたし、広場のような空間も先ほどの場所以外にも複数あって。これはもう迷宮都市と言ってもいいですね。まるでカッパドキアのようでした」
直径3~5メートル程の円状の空間がチューブのように縦横無尽に張り巡らされている様子はまさに圧巻。長い通路では距離も1キロ以上あったのではないかな。
その広大さに驚くばかりではなく、薄明かりに照らされた静寂に満ちた通路を歩いていると、冥界にいるのではないかと勘違いしてしまいそうになったりもした。まるで、ペルセポネーにでもなったような気分だったな。
「それは、良かったです」
とにかく、この地下の中では終始何とも言えぬ不思議な気分になり、悠久の時を感じるような、そんな気持ちにもなってしまった。
本当にもう、案内されている途中からはただ感動するだけだったよ。
結局のところ、この地下空間は本当に素晴らしい、この一言に尽きる。
複雑な通路、地上への出入口、数個存在する広場、そこに建設された住居などの施設、これらが相まって異世界の地下迷宮都市と言っても過言ではない、そんな様相を呈しているように思える。
素晴らしいとしか言えないよな。
ただ残念なのは、テポレン山の山腹に複数存在する地上への出入口については1つしか見せてもらえなかったこと。これはまあ、村の防御を考えたらやむをえないことか。
「ところで、カッパ……とは何でしょう?」
「ああ、私の故郷にある地下都市の名称です」
「コーキさんの故郷にも地下に町があるのですか?」
「え~、まあ、そうですね」
「そうなのですか! エンノアだけじゃなかったのですね」
思わずカッパドキアという固有名詞を伝えてしまったけど。
これって地球の実在を知らせたとか、そういう事にはならないよな。
……。
あとで、ステータス確認しないと。
「カッパかぁ……。見てみたいですねぇ」
とりあえず、地球の地名を告げるのは控えた方がいいな。
それと、カッパじゃなくて、カッパドキアだから。
「それで、エンノアというのは?」
「我々は自身のことをエンノアと呼んでいるのです」
「エンノア族ということですか」
「そういうことになりますかね」
「なるほど……」
テポレン山に住むエンノア族ということか。
そんなエンノア族のフォルディさんに、いろいろ話を聞かせてもらおうかな。
「いくつかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。ただ、返答を許されていないものもありますので、そこはお許しください」
「了解です。ではまず、フォルディさんや皆さんは完全に地下で過ごされているのですか?」
「いえ、この地下から繫がった山の中腹に人目につかない小さな集落も作っております。そこで過ごすこともありますが」
そんな場所もあるのか。
「ここ数年は地下から出ることも少なくなりました、特に昨年からは」
「理由を伺っても」
「山の東方にある国といざこざがありまして……。今はその国の民と顔を合わせたくないのですよ」
「なるほど、そういうことですか」
「ええ……。あの、コーキさんはその……」
「心配無用です。私は西方の国キュベリッツから来ました。とはいえ、キュベリッツ出身でもないのですが、もちろん、東方のレザンジュ王国出身でもありません」
「そうでしたか」
安心したように頷くフォルディさん。
「今は地下で過ごされているということですが、食料はどうされているのでしょう?」
「地下で栽培可能な作物と山に出て動物を狩ることで手に入れています」
地下で栽培可能な作物?
この地下にはヒカリゴケのようなものによって照らされた薄明かりがある。
もちろん、俺の知るヒカリゴケとは似て非なる物だろう。
地球産と異なり、それ自体が発光しているようだからな。
ちなみに、この苔を鑑定してみたところ、光る苔と出てきた。
見たままだ……。
もう少し詳しい情報が欲しいが、俺の鑑定ではこんなものなんだろう。
しかし、こんな弱い光で作物が育つものなのか?
「その作物とはどういったものでしょう?」
「ベオというものです。挽いて粉にして使っています」
小麦のようなもの?
そんなものがこの地下で。
「そうでしたか」
「夕食に出されると思いますので、ぜひ召し上がってください」
「それは楽しみですね」
どんな味がするのか興味深いな。
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