30年待たされた異世界転移

明之 想

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第2章 エンノア編

宴 2


「ユーリア、ちょっと落ち着けって」

「でも」

「ユーリアちゃんの気持ちは分かるわ。私もユーリアちゃんもコーキ様に命を救ってもらったものね」

「そうなんです。なのに……何も恩返しができなくて」

「だから、魔法を覚えて恩返しがしたいのよね」

「はい!」

「恩返しがしたいのは私も一緒よ」

「そうですよね」

「そういうことなら、ボクだって命を助けてもらったのだから恩を返したい。コーキさん、何かボク達にできることはありませんか?」

 3人そろって、こちらを見つめてくる。

「ホント、そういうのはいいですから。フォルディさんとは話をしましたよね」

「ですが、このままという訳にもいきません」

「そうです」

「私もそう思います」

「俺達だって命を助けてもらったぞ!」

 周りから、俺が治療した方たちが続々と集まってきた。

「ぜひ我々にも何かさせてください! できる事なら何でもしますので!」

 口々に声をあげてくる。

「……」

 まいった。
 これは、収拾がつかないぞ。

 誰に聞いたのかは覚えていないんだけど、この大陸の南部の人たちは情に厚い人が多いらしい。なので、感謝の表現も必然的に大きなものとなるようだ。

 オルドウもエンノアも南部に位置するわけだから、そういうことなんだろうな。

「皆の気持ちは分かるが、コーキ殿が困っておられるではないか。せっかくの宴の場で、主賓を困らせてどうする。今は皆控えるように」

 事態を見かねたスペリスさんが、皆さんに注意してくれた。
 助かった……。

「分かりました。ですが、我らの気持ちはひとつです」

「分かっている」

「コーキ様、必ず恩は返しますので」

「……はい」

 気迫に押されて、思わず頷いてしまった。
 その返事に納得したのか、皆がさっきまでいた場所に戻って行く。

「コーキ殿、お許しください。ただ、皆の気持ちに嘘偽りはございませんので」

「スペリスさん、大丈夫、分かっていますから」

「ありがとうございます」

「返したくても返せない。みんな同じ気持ちなんですよ」

 アデリナさんがそっと呟く。

「……」

 確かに、受けた恩を返せないというのも、それはそれで辛いよな。

「分かりました。何かありましたら皆さんの力をお借りしますので、その際はよろしくお願いします」

「早くその時が来てほしいです」

「ホントですよ」

「全くだ」

 ……なんだろう。

 この人たちと一緒にいると、心の中の澱が消えていくような気がする。

 不思議だな……。

「でも、ユーリアちゃん、コーキ様に魔法を教えてもらったら、また恩が増えるんじゃないのかしら」

「そうですね。でも、その後にまた返します。今度はわたしがコーキ様を守りますから」

「それは頼もしいわね」

「はい!」

 本当に頼もしいが、この話題はこの辺りで終わりにしてもらいたい。

「ところで、アデリナさんにユーリアさん、様は止めてもらえませんか」

「命の恩人なのですから、コーキ様と呼ばせてください。それと、コーキ様の方こそ、もっとくだけた口調にしてもらいたいです」

「そうですよ。ユーリアと呼んで下さい」

「……分かりました、アデリナさん、ユーリアさん」

「もう!」

「ふふ、分かってくださいましたか」

「ボクもコーキ様と呼んだ方がいいかな?」

「フォルディさん、それは止めてくださいね」

 この話題もよそう。薮蛇になりそうだ。

「そろそろブラッドウルフの肉が焼けるんじゃないですか?」

「ホントだ。ちょっと見てきます」

「私も見てきますね」

 残ったのはフォルディさんと俺のふたり。

「コーキさん、何か色々とすみませんでした」

「いえいえ、楽しかったですよ」

「だったら、いいのですが」

「本当にそう思います。……ここはいいですね。本当に良い場所だと思います」

「それは嬉しいですね」

「私も嬉しいんです」

「はは、同じですね」

「ええ」

 お互いに笑い合ってしまう。


「コーキ様、焼けたようですよ。一緒に食べましょう」

 ああ、いただくとしよう。


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