30年待たされた異世界転移

明之 想

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第2章 エンノア編

結界 1


 俺の数歩前で焦った様子を見せる古野白さん。

「油断していたわ! やられた!」

「何がですか?」

「分からないの?」

「ええ」

「本当に?」

「……はい」

「そうなのね……。ちょっと、こっちに来て」

 彼女の傍らに歩み寄る。

「ここ、ノックしてみて」

「こうですか。って、えっ?」

 言われた通りにノックしてみると……。
 何かに当たっている。
 何もない空間なのに。

 これは?

 今度は掌で触れて……。
 明らかに抵抗を感じる。

「分かったでしょ」

「……」

「物理結界に閉じ込められたのよ」

「……」

 何だそれ?

 いや、もちろん意味は分かる。
 分かるけど、やはり驚いてしまう。

 現代日本の異能には、そういうモノもあるのか。

「つまり、ここから出ることはできない。そういうことですか?」

「そう……なるわね」


 まさか、現代日本で物理結界に閉じ込められるなんていう事態が起きるなんて!
 驚きと、そして不謹慎ながら、少しばかりの高揚を感じてしまう。

 不安は……感じないな。

「敵対する異能者の仕業ですか」

「多分そうね」

「あの氷の矢を放ったあいつでしょうか?」

「それはないと思うわ。2つの異能を操れる者はほとんど確認されていないから。だから、他の異能者がいるはずよ」

 異能はひとりにつき1つまで、そういうことか。
 とすると、2つどころか更に複数の魔法が使える俺は異能者としては怪し過ぎる。

 これは、ますます俺の力を知られる訳にはいかなくなったな。
 異世界露見に繋がる危険が十分にある。

「なに呆けているの」

「いえ、これって危機的状況なのではと思いまして?」

 明らかに、古野白さんはピンチだよな。

「その通りよ」

 怒ったように返してくる。

「どうします?」

「それを考えているの」

 まあ、そうだろうけど。

「どれくらいの範囲で囲まれているのでしょう?」

「そうね。まずは、それを調べましょ」

 ふたりで調べた結果、半径2~3メートルくらいの半球上の結界に覆われていることが判明した。

「近くに異能者は見当たりませんね」

「見られたくないから、その辺に隠れてるんでしょ」

 ああ、なるほど。
 しかし、こういう状況でも顔や姿を見られたくないんだな。

「遠隔で使っている可能性は」

「ないと思うわ。離れていても20メートルくらいだと思う。この種の物理結界は対象との間に遮蔽物がない場所でないと使えないはずよ」

 とすると、公園の外にいる可能性が高いな。

 しかし、20メートルか。
 それなら、こちらが気付けない場所から結界に閉じ込めることもできる。
 いつでも閉じ込めることができるんじゃないか。

「こんなにも簡単に閉じ込められるものなんですね」

「普通は簡単じゃないわよ。これほど堅固なものなら、対象から一定の距離内で数分の集中が必要なはずよ。それに、人目につく場所では仕掛けてこないから」

 色々と制約があるんだな。

「今回はこちらの隙に付け込まれたわけですね」

「……そうね。あちらに結界使いがいるなんて、考えていなかったから」

 そういうことか。

「ところで、このまま放置されるんですかね」

 結界が張られてから数分経つが何も起こっていない。

「それは、どうかしら?」

 ってことは、放置もありか。
 特に攻撃を仕掛けられることもなく放置されると。

 まさか、何時間も。
 さすがに、それはないか。

「この結界はいつまでもつのですかね」

「術者の力によるけど、数時間はもつでしょうね」

「ということは、結界が解けるのを待てばいいんですね」

 ここで数時間過ごさなければいけないけど、そのうちに解けるのなら問題ない。

「再度結界を張られなければね」

 再度結界を張られると、さらに数時間。
 朝までこのままだと、見世物になりかねない。
 というか、騒ぎになるな。
 それは敵方も避けたいのではないだろうか。

「敵はこちらをどうしたいのでしょうか。辱めたいだけとか」

「それはないと思うけど……」

「では、毒ガス攻撃とか」

「あり得るわね」

 あり得るのか?

 密閉空間にどうやってガスを入れるんだ?
 一部に穴を開けることができるとか。
 それとも異能か。

「毒ガスを使える異能者はいるのですか?」

「噂には聞いたことがあるわ」

 いるのか。
 だとしたら、可能性はあるな。

 そのわりに何も仕掛けてこないけど。
 準備が必要だとか?

 まっ、その前に脱出しないとな。

「破壊できるか試すしかないわね」

「そうですね」

「危ないから、後ろに下がっていて」

 言われたとおり、彼女の背中に回る。

「いくわよ」

 その言葉と共に、彼女の前に炎が溢れ出てきた。
 

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