30年待たされた異世界転移

明之 想

文字の大きさ
184 / 1,578
第3章 救出編

ダブルヘッド 7

しおりを挟む

 大きく開かれた口の奥から現れるのは、そう。
 ダブルヘッドの固有魔法、炎獄の黒炎だ!

 ダブルヘッドの攻撃の中でも最も威力があると恐れられている黒炎の魔法。
 超高熱で対象を焼くだけでなく、黒炎を受けた傷痕は相応の対処をしなければ腐り壊死してしまうこともあるという凶悪な魔法だ。

 この黒炎、まともに受けるとただでは済まない。

 とはいえ、こちらも対処する術はすでに考えている。
 この黒炎、口を大きく開いた状態から発動までに少し時間がかかるらしいからな。
 なら、待ってやる必要はない。

 短剣を取り出し、素早く魔力を纏わせる。
 そして、投擲!

 うなりをあげて飛来する短剣が、狙い違わず大きく開かれたダブルヘッドの口の中に突き刺さった!

「ゴッ、ゴボッ!」

 その短剣を標的に。

「雷撃!」

「オォォォ!」

 効いてるぞ!
 さあ、もう一発だ。

「雷撃!」

「ウゴォォロォォ」

 声にならないような悲鳴を上げて左の頭が沈黙する。
 よろめくダブルヘッド。

 こんな状態の相手を逃す手はない。
 2歩でダブルヘッドの首元に飛び込み。

 濃密な魔力を纏わせた剣を一閃!

 ドズン!

 よし!
 今度は上手くいった。
 それなりの抵抗を感じたものの、剣を振り切ることができた。

 当然。

 ドン。

 地面に転がる左の首。
 その首を前にして立ち尽くすダブルヘッド。
 己の首が落ちたという事実を信じられないのだろう。

 もちろん、ここを逃すはずもない。
 振り切った剣を返し、右の首に斬りかかる。

 ザスッ!

「グギャァアァ!」

 が、駄目だ。
 こちらは手応えが足りない。
 切断には至らず、傷を負わせただけ。

 首元に入った剣を抜き取り、距離をとる。

 何が足りないんだ!
 2撃目は纏っていた魔力が薄れていたのか。
 それとも、雷撃との連撃が必要なのか。

 ……。

 もう一度だ!

「信じられない!? ダブルヘッドの首を斬ったわ」

「本当に?」

「新人冒険者が単独で倒してしまうのか」

「あり得ない……」


 気合を入れ、再度剣に充分な魔力を纏わせ。
 ダブルヘッドに向き合う。

 すると。

 ダブルヘッドが怯えた様子で、俺から距離をとるように後退した。
 さっきまでの威圧感は完全になくなっている。

 なるほど。
 こいつ死線をくぐり抜けた経験がないのか。

 なら、これはもう俺の敵じゃないな。
 残っている右の首を落とせばいいだけ。
 時間の問題だ。

 ただし、再生能力は厄介だな。
 左の首が再生される前に片を付けないと、面倒なことになるか。

 よし、次で決めてやる!

 一歩踏み出そうと軸足に力を入れたところで。

「ええ!?」

 岩の中からの叫び声。
 今まで以上に大きなその声に、思わず振り向いてしまう。

「逃げていくわ!」

 うん?

 一瞬の躊躇ののち、ダブルヘッドに視線を戻すと。

「なっ?」

 こちらに背を向け、飛ぶように逃げていくダブルヘッド。
 こちらを振り返ることもしない。
 その必死の様子に、わずかながら力が抜けてしまう。

「……」

 あの速度で森の中を逃げられると、追いつくのは簡単じゃない。
 それでも、不可能というほどでもないか。

 すぐに追うか?
 いや、その前に。

「ダブルヘッドが逃げたわ」

「逃げたな」

「ああ、逃げた」

「ダブルヘッドが人から逃げた」

「……」

「新人冒険者からな」

「ありえないわ」

「ああ」

「……」

 何かいろいろと喋っているが、そんなことより。

「もう安全ですから、出て来てください」

 巨岩の中に隠れている冒険者に声をかける。

「ああ……。ありがとう」

「助かったわ。あなたは命の恩人よ」

「心から感謝する」

「……」

 冒険者と思われる4人が出てきた。
 全員見覚えがあるような気がするが……。

 血と汚れでよく分からないな。
 まあ、冒険者ということなら、どこかで見かけたこともあるんだろう。

「他にはいませんか?」

「ええ、この4人だけよ」

「そうですか」

 やはり、シア、アル、ギリオン、ヴァーンはいないのか。
 そうかぁ……。

「それで、傷は大丈夫ですか?」

「結構やられたが、まあ大丈夫だ」

「私も」

「なんとかな」

「……」

 ひとりはずっと黙っているが、とりあえず問題はなさそうだな。

 それなら。

「では、すぐにオルドウに戻ってください。私はまだ捜索を続けますので」

「え、捜索を?」

「危険じゃないのか」

「バカ言え、あのダブルヘッドを追い返したんだぞ」

「そうだったな」

 あの4人を見つけるまで、特にシアとアルを見つけるまで安心はできない。
 ここでゆっくり話をしている余裕もない。

「無事にオルドウまで戻ってください。それでは」

 駆け出そうとする俺に、4人の中から1人の冒険者が近づいてくる。

「……これを」

 そう言って差し出したのは回復薬。
 しかも、これは低級じゃないぞ。
 高級な回復薬じゃないのか。

「私は怪我をしていませんよ。あなたが使えば良いのではないですか」

 これは簡単に手に入るような物ではない。

「俺の傷は大したことはない」

「そうですか」

 で、どうしろと。

「今後のこともある。受け取ってほしい」

 くれるというのか。

「ですが、これは高級品です」

「助けてくれた礼だ。それに……前の借りもある」

 借り?
 ということは、この人と関わりがあったと?
 顔も髪も血と泥で汚れていて、誰だか分からないんだが。

 とはいえ、誰ですかとは聞きづらい。

「だから、黙って受け取ってくれ」

「……そうですか」

 こんな高級品を貰って申し訳ない気がするが、今はここで時間を潰している場合じゃない。
 とにかく、捜索に戻らないと。

「とりあえず、いただいておきます。後ほどまた」

 使わなかった場合は返そう。
 使った場合は代金を払うことにしよう。

「では、これで」

 今度こそ振り返らず駆け出す。
 そんな俺の背中に。

「俺はゾルダーだ。以前のことは、その、すまなかった」

 叫び声が投げかけられる。

 ゾルダー……?

 そうか、あいつだったのか。
 シアの魔法訓練中に絡んできた酔っ払いだ。

 しかし、全く分からなかった。
 顔が汚れていたのもあるが、態度が以前とは全く違ったからな。

「……」

 とんでもない奴だと思っていたが。
 酒が入っていないと、案外まともな奴なのかもしれないな。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

転生チートは家族のために ユニークスキル『複合』で、快適な異世界生活を送りたい!

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

Gランク冒険者のレベル無双〜好き勝手に生きていたら各方面から敵認定されました〜

2nd kanta
ファンタジー
 愛する可愛い奥様達の為、俺は理不尽と戦います。  人違いで刺された俺は死ぬ間際に、得体の知れない何者かに異世界に飛ばされた。 そこは、テンプレの勇者召喚の場だった。 しかし召喚された俺の腹にはドスが刺さったままだった。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

処理中です...