213 / 1,640
第3章 救出編
魔落 12
弾かれるような不思議な感覚を味わったあの地点から離れ、歩くこと半刻。
昨夜休んだ横穴のように、野営に適した場所がなかなか見つからない。
大きな岩さえ見当たらない。
このままでは横壁の近くで休むことになってしまう。
それは避けたいところだが、いつまでもこうして歩いている訳にもいかないだろう。
俺はともかく、セレスティーヌ様の体力が持つとは思えないからな。
この地下大空洞に入って3日目。
その前は、テポレン山越えを敢行していたセレスティーヌ様。
余裕なんてあるはずはない。
それなのに。
「どうしました?」
隣を歩くセレスティーヌ様の様子を見ると、こちらに微笑んで問いかけてくれる。
「いえ……」
笑顔でいてほしい、なんて言ってしまったから無理をさせているのかもしれない。
気を遣ったつもりが、逆に気遣ってもらっているなんてな。
情けない話だ。
しかし、彼女は本当に凄い。
大貴族のお嬢様で、こんな華奢な身体なのに、ここまで頑張って。
胸の内には不安もいっぱいあるだろう。
身体もかなり辛いはずだ。
それなのに、一切弱音を吐かないんだから。
ホント、強い女性だ。
「何を考えているのですか?」
「セレスティーヌ様のことを考えていました」
「えっ?」
歩む足を止め、こちらを凝視するセレスティーヌ様。
と思えば、顔を背けてしまう。
「それは、その……、どのようなことをお考えになっていたのでしょう?」
顔をこちらに向けることなく、消え入りそうな声で聞いてくる。
「すみません。悪い意味じゃないです」
「と、いいますと?」
「こんな過酷な環境で頑張っているセレスティーヌ様は大したものだなと。感心しておりました」
「っ!?」
さらに顔を背け。
こちらに背を向けるセレスティーヌ様。
「あっ、ありがとう、ございます」
俺の耳だから拾えたものの、聞き取れないくらいの声量。
「いえ」
俺に背を向け立ち止まっているセレスティーヌ様。
何というか……。
気まずい。
「……」
「……」
「コーキ様、もう大丈夫です。行きましょう」
立ち止まること数分。
そう言って歩き出すセレスティーヌ様。
顔を背けたままだが、足取りは軽い。
「もう少し探して良い場所がなければ、壁に沿って休みましょうか」
「はい。でも、私はまだ歩けますので、ゆっくり休める場所を探しませんか」
確かに、まだ余力はあるみたいだが……。
「では、もう四半刻だけ探しましょうか」
「はい」
元気な返事だ。
この大空洞。
ずっと同じような薄明かりに照らされているため昼夜の区別がつかない。
俺の懐中時計がなければ、時間など全く分からなかっただろう。
そういうわけだから、その気さえあれば休まずに探索を続けることもできるんだよな。
つまり、セレスティーヌ様に休んでもらって俺だけ探索することも可能だということ。
とはいえ、彼女を1人にするわけにはいかないからな。
やはり、一緒に休むしか術がない。
四半刻の間に、野営地を見つけることができればいいんだが。
などと考えている間に四半刻は過ぎ去り。
適切な場所は見つからないまま。
「今日はもう休みましょうか」
「……そうですね」
「では、この壁際で」
「はい」
横穴というほどではないが、1メートルほど軽く窪んだ横壁があったので、今夜はここで休むことに決定。
「では、夕食の準備をしますので、休んでいてください」
「いえ、私も手伝います」
「……」
「今夜は携帯食ではなく初めてのお肉を食べるのですから、手伝わせてください」
今日の昼までは何とか携帯食で済ますことができたので、まだ魔物肉は口に入れていない。
切り分けた肉の塊を魔法で凍らせ、ショルダーバッグに入れたままだ。
今回はその肉を焼くだけなんだが……。
「駄目でしょうか?」
「……分かりました。お願いします」
貴族のお嬢様が料理なんてしたことはないだろうが、これくらいなら問題ないか。
それに、気分転換にもなる、かもしれないな。
「では、今から解凍しますので、そのあと!?」
何だ!
この気配は?
「コーキ様!」
「セレスティーヌ様、お静かに!」
まだ距離はあるが、確実にこちらに近づいて来る。
この気配は?
……。
尋常ではない。
この大空洞内で出くわしたどの魔物とも違う。
強烈な圧力を伴ったこの気配。
ただ、これに近い気配をどこかで感じたような気もするが。
「魔物ですか?」
囁くように訊ねてくる。
「ええ」
「……」
俺の緊張感が伝ったのか、セレスティーヌ様の顔もこわばっている。
「少し様子を見ます」
状況によっては、やり過ごすという手もある。
ただ、こちらも身を隠せているわけじゃない。
魔物に見つかる可能性も高い。
「……はい」
魔力を眼に集め、視力を強化する。
この辺りは大きな岩もないので、かなりの距離まで視認が可能だ。
……。
よし、見えてきたぞ。
ゆっくりと4足で歩いている巨体の魔物。
1頭だけだ。
薄明りの中ではあるが、その身体は赤黒く見える。
そして頭が2つ。
いや、3つだ!
ダブルヘッドならぬ、トリプルヘッドか。
そんな魔物の話は聞いたこともないが……。
頭以外はダブルヘッドに似通っている。
気配もそう、ダブルヘッドに近いんだ。
とすると、こいつはダブルヘッドの亜種なのか?
しかし、この圧力。
ダブルヘッドの比じゃないぞ。
そんな強力な魔物が一歩ずつ近づいて来る。
その距離は、もう50メートルもない。
「コーキ様、これは!?」
セレスティーヌ様の目にも入ったか。
そして、その圧力も感じているようだ。
距離は30メートル。
「あっ!」
小さな悲鳴を上げるセレスティーヌ様。
それも、仕方がない。
あの魔物が、こちらに目を向けたのだから。
大空洞内の中央を歩いていた魔物、トリプルヘッドが壁に向かって歩き始める。
俺たちに向かってだ。
これは戦うしかないな。
「セレスティーヌ様、ここから動かないでください」
「コーキ様!」
「ええ、行ってきます」
「……」
セレスティーヌ様に、そんな悲壮な顔は似合わない。
「大丈夫ですよ」
「……はい」
「大丈夫だと言ったでしょ、貴女の笑顔があれば」
「……そうでしたね、はい」
ぎこちない笑顔。
それでも、笑顔は笑顔だ。
でもまた、無理やり笑顔を作らせてしまったな。
「では、待っていてください」
「無事に! どうか無事に戻ってきてください!」
「もちろんですよ」
さて。
戦うとしましょうか。
お嬢様の笑顔のために!
あなたにおすすめの小説
ひだまりのFランク冒険者
みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。
そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。
そんな中
冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。
その名は、リルド。
彼は、特に何もない感じに毎日
「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。
この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!
TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。
その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。
競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。
俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。
その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。
意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。
相変わらずの豪華客船の中だった。
しかし、そこは地球では無かった。
魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。
船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。
ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ……
果たして、地球と東の運命はどうなるの?
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
[完]異世界銭湯
三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。
しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。
暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…