30年待たされた異世界転移

明之 想

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第3章 救出編

魔落 25

「セレス様、では、行きましょうか」

「違います」

「……」

「セレスです」

 澄まし顔で、そう答えるセレス様。

 まあね。
 確かに、約束はしたけどさ。

「……」

 こちらを見つめたまま、視線をそらそうともしないよ。

 はぁ。
 分かりました。

 呼べばいいんでしょ。
 それで気が済むなら、安いもんだ。

 ホント、昨夜は大変だったんだから……。

 殺して、なんて言葉。
 もう二度と口にしてほしくないよ。

 とはいえ、まあ。
 昨夜のことは、あれで良かったんだろう。
 セレス様が心の奥にずっと溜めていた鬱憤。
 それを晴らすことができたようだから。



 昨夜、夕食後。
 今まで俺に話していなかった多くのことをセレス様が語ってくれた。

 神娘についても詳しく。
 自分が神娘としてどのように生きてきたのか、またその非凡な能力についても苦しい胸の内を吐露するかのように、ゆっくりと話してくれた。

 ワディンの地において数100年に1人現れる特別な力を持つ神の子であり、彼の地に大いなる繁栄をもたらす者として殊更に尊重されている神娘。

 そんな神娘たるセレス様は、自分の持つ異能を上手く使いこなせていなかった。
 さらには大きな失敗も経験し、以来ずっと焦りと不安を抱いていたらしい。

 そんな中での今回の逃亡劇だったと。

 あんなことを口にする気持ちも理解できるというものだ。

「……」

 まあ、それでも。
 昨夜話し終えたセレス様は、吹っ切れたような表情をしていた。

 鬱憤を晴らし、胸の内を明かし、それで心が軽くなったのなら良かったんだ。

 と、ここまではいい。
 問題はここから。

 その後のセレス様。
 どういうわけだか、セレスと呼んでくれと言って聞かないんだよなぁ。
 いくら拒絶しても、まったく聞き入れてくれない。

 どうも、呼び方に対するこだわりだけは、ここから脱出するにあたり譲れないらしい。
 しまいには、「呼んでくれなきゃ、また昨夜みたいになるかも」なんて言い出す始末。

 そこまで言われれば、もう仕方ない。
 とりあえず、ふたりきりの時のみという条件で了解したのだけれど。
 そもそもこの大空洞内では、ずっとふたりきりなんだよな。

 ……しかたない。

「セレス、行きますよ」

「はい!」

 いい笑顔だ。

 と、こんな感じで気持ちも新たに探索を再開したわけだが、その日は全く成果を得ることができなかった。

 相変わらず魔物と戦うだけで、脱出の手掛かりは全く掴めていない。

 色々と偉そうに語った翌日も結果を出せない俺がひそかに落ち込んでいる横で、セレス様は元気な姿を見せてくれている。

「……」

 セレス様が元気なうちに何とかしないといけないよな。




 探索再開後3日目。
 今日は調べたい場所がある。

 ここ最近は大空洞内の壁や横穴、そして転移を発動するB地点を重点的に調べてきたのだけれど、ひとつ軽視していた場所があって。

「ここですよね」

「ええ」

 それが、ここだ。
 転移の終点であるA地点。
 ここを詳しく調べていなかったんだ。

 もちろん、何度か調べてはいる。
 それでも、B地点ほど念入りには調査していない。
 ということで、今日はここを徹底的に調べることにする。

 とはいえ、ここには何もないんだよなぁ。
 B地点のような弾力空間があるわけでもないし、特に怪しい物もない。
 目に入ってくるのは、ただの砂地の地面と左右の横壁だけ。

「どこを調べたらいいの、かしら?」

「端から調べましょう」

 とりあえず色々と試してみよう。

「りょーかい」

「奇妙な箇所がないか調べてみますね。セレス……も何か気付いたら教えてください」

「はい、分かった、わ」

 セレス様に対する口調が今ひとつ定まらない俺だけど、彼女も同様みたいだ。


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