30年待たされた異世界転移

明之 想

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第4章 異能編

魂の重さ


 そのまま歩くこと数分。

「コホッ!」

 また咳が出始めたぞ。

「コホッ、ゴホッ!」

 明らかに数が増えている。
 顔色も良くは見えない。

「セレスティーヌ様?」

「ゴホッ……大丈夫です」

「……」

「このまま下りましょう、ゴホッ!」

 この咳の様子。
 どうしても前回と同じに見えてしまう。

 20日以上の時間差があるはずなのに。
 どうして同じ咳が……。

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!」

「セレスティーヌ様、やはり休みましょう」

 そして、少しだけ残っている回復薬を飲んでもらおう。

「いえ、大丈夫です」

「しかし」

「ゴホッ」

「ここまで来たんです。無理する必要はありませんから」

「……ゴホッ」

 咳が止まないじゃないか。

「ゴホッ」

 嫌な予感がする。
 どうしても考えてしまう。

「セレスティーヌ様!」

「ゴホッ、だいじょう、ゴホッ!」

 大丈夫じゃない。

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホゥ!! ……えっ?」

 咳を止めようと口に当てた手に。
 その手のひらに、ほんの僅かに朱が残っている。

「血……」

 あの光景が脳裏に!

「っ!」

 まずい。
 まずい、まずい!

 ここで前回と同じことが起こったら、どうなるんだ!?

 時間遡行は?

「……」

 駄目だ。
 手に入っていない。
 まだ、クエスト5を完了していないんだ。

 じゃあ、もしここでセレス様が倒れたら?

「ゴホッ……」

 もう、戻ることができない!
 そんなこと!

「これは、血、でしょうか?」

「間違いありません。セレスティーヌ様、今すぐ休んで回復薬を飲んでください!」

「ゴホッ、ゴホゥ!」

「セレス様!」

 また血が!

 どうする?
 どうすればいい?

「今、セレスって呼びました? えっ、どうして? ゴホッ!」

 どうすればいいんだ!

「どうして、セレスと? ゴホッ、ゴホッ!」

 ああ、違う。
 今は、まず回復薬だろ。

「そんなことより、回復薬の残りを飲んでください」

 強引に回復薬を手渡す。
 それを咳込みながら流し込むセレス様。

「ありがとうございます。少し楽になりました。でも、どうして……」

「よかったぁ」

 これで治まってくれたら。
 そうしたら。

 今はもう、あまり信じられない希望にすがりつくしかない。

 そうじゃなければ……。

 やめてくれ!
 時間遡行が手に入ってないんだ。

 だから。

「行きましょう」

 少しでも先に進まないと。
 前回と同じ場所まで下れば、クエスト5の救出完了とみなされて時間遡行が手に入るかもしれない。

 こっちの希望は強く残っている。

「下りましょう」

「……はい」

 それなのに。
 1分も経たないうちに。

「ゴホッ、ゴホッ!」

 咳が!!
 そして……。

 セレス様が蹲ってしまった。

「セレス様?」

「ゴホッ、ゴホッ!」

「セレス様!」

「ゴホッ、ゴホゴホッ!」

 その手が赤に染まる。

「くるしい……」

 だめだ、まずい!

 まずい!
 まずい!

 まだ手に入ってないんだ。
 けど、前回転送された地点まではもうすぐ。

 それなら。

「セレス様、失礼します」

 セレス様を背中に背負い。

「えっ? コホッ」

 駆ける。

「コーキ様? ゴホッ!」

 駆ける!

「ゴホ、ゴホッ」

 首にかかる熱い吐息。

「……ゴホッ、ゴホッ!」

 首元が濡れる。

 ……駆ける。

「はあ、はあ……」

 苦しそうな息遣い。
 休ませてあげたいけど、ごめん、セレス。

「うぅ……ゴホッ」

 駆ける!

「ゴホッ、ゴホ、ゴホッ!」

「……」

 まだか?
 ステータスは?

 まだ手に入らないのか?

「ゴホッ、ゴホッ……。ゴホゴホッ!」

 くっ!

「セレス様、もう少しで……」

 言葉が詰まる。
 もう少しで何だというんだ!

 このセレス様にとっての命はひとつだけなのに。

 俺は今のセレスを……。

「……」

 けど。
 それでも、駆けるしかない。

「ゴホ、ゴホッ! く、くるし……」

 ステータス!

 まだなのか?

「はあ、はあ……ゴホッ!」

 まだか?
 まだなのかよ!

「コーキさ……ゴホッ……」

 あの場所は……。
 ああ、すぐそこだ。

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!」

 そこに見える。

「ゴホッ、ゴホゥ……」

 セレス、もうすぐだ。

「コー……」

「……」

「……」

「……」



「……えっ?」

 背中に感じる重さが変わった。
 軽い?

「セレス様?」

「……」

 背中に問いかけるが、返事はない。

「セレス?」

「……」

「セレス、セレス!」

 足がとまる。
 とまってしまう。

「セレス……」

 背中からゆっくりとセレスを下ろし。
 両腕で抱きかかえる。

「……」

「……」

「そんな……」

「……」

「また」

 またなのか?

 なんで!!

「……」

「セレス……」

 口元を、頬を赤く染め、瞳を閉じたまま……。

 ……。

 ……。

 ……。




 また俺を置いて、いってしまった。


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