297 / 1,640
第4章 異能編
和見家 2
幸奈がやつれて見える。
「……」
「武志、元気そうだった?」
「……話したわけじゃないから良く分からないが、まあ、元気には見えたな」
「そう、元気なのね」
安堵の吐息をゆっくりと漏らす幸奈。
「ここしばらく武志は家に戻っていないのか?」
「……うん」
「そうか……」
武志は橘と一緒に、どこかにいるんだろう。
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れていく。
「幸奈……大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫」
気丈にも微笑む幸奈。
全くもって大丈夫とは思えない。
「そうか……。幸奈、これから少し外に出ないか?」
だから、ついこんな言葉も出てしまう。
「ありがと。でも、ごめん、もう夕食だから」
「ああ、そうだよな」
「うん」
「分かった。じゃあ、また今度な」
「うん、またね」
このまま幸奈と別れることに少なからず躊躇を覚えるものの、今はどうすることもできない。
「……ああ」
笑顔を頬にはりつけた幸奈に見送られ踵を返す。
そのまま足を進めて数歩。
どうしても気になり振り返ってしまう。
そこには、今にも消えてしまいそうなほど儚げに見える後ろ姿。
家へと戻って行く幸奈の姿があった。
***************
<和見武志視点>
今日は失敗した。
いや、違う。
今日も失敗したんだ。
前回のあの公園と同様、今日も相手を結界に閉じ込めること自体は成功した。
ただ、その後が……。
あの公園では中から結界を破られてしまったから、さらに強度を増して簡単には破壊されないように作っていたのに!
「はぁ」
今回は結界を強化した上に、さらにその中にガスを入れるという作戦だったので、あいつらを結界内に閉じ込めることに成功した時点で勝利を確信していた。
実際、あいつらは僕の結界から出ることはできなかった。
それなのに……。
決して油断していたわけじゃないけど、あんな奇襲を受けるなんて想像していなかったから。
「……」
橘さんが確保したといっていた人質が時間通りに現れなかったのも誤算だった。
でも、あの奇襲は……。
仮に人質がいたとしても、結局はあの奇襲でやられてしまったのかもしれない。
それ程までの恐ろしい攻撃だった。
橘さんが言うには、驚くべき速さと正確な攻撃を仕掛ける体術の達人のような男だったらしい。
僕は意識を失っていたから見ていなかったけれど、異能を全く使わず体術だけで橘さんを圧倒したらしいんだ。
橘さんをだよ。
はっきり言って信じられない。
「……」
異能を使わなかったということは、あのサングラスの男は普通人。
ただの普通人が、瞬間移動の異能を持つ橘さんに勝てる?
全く信じられない。
けど、現実として敗れた橘さんがそう言っているのだから信じるしかないんだ。
それでも、隙を見て僕を連れ出してくれた橘さんはさすがだと思う。
捕まった3人は自業自得かな。
あいつら、結界も人質も必要ない、今回は3人だけで相手をやっつけてやる、なんて自信満々に言ってたのに。
何度も勝手に行動するし、簡単にやられてしまうし。
ホント、何なんだよ!
「……」
そんな3人との共闘も、僕の結界でこっちに有利に進んでいた。
あの奇襲さえなければ……。
あの男、いったい何者なんだ?
顔を隠していたので、良く分からなかったけど……。
もしかして、前回の公園で古野白と一緒にいた男なんじゃないか?
あの時も暗くて距離も離れていたから、はっきりと顔を確認できたわけじゃない。
でも、似ているような気がする。
まっ、その男についても何も分からないんだけどさ。
「……」
あいつ、次も現れるかもしれないな。
異能を持たない体術の達人。
今度こそは上手く結界内に取り込まないと。
今日も橘さんがいなければ、今僕はここにはいなかったはずだから。
そう……。
もし、僕が捕まっていたら、今頃どうなっていたんだろう?
あいつらに捕まって、拘束されていたら。
もう姉さんに会うことができなくなって……。
考えると恐ろしくなってくる。
「……」
橘さんの下で働くようになったこと自体は後悔していない。
それでも、やっぱり、異能を持つ者たちの世界には完全に慣れることができていない。
この世界は普通の日本とは全く異なる原理で成り立っている世界。
最近まで普通の高校生だった僕に、すぐに順応しろというのが無理な話だ。
それでも、僕はやらなきゃいけない。
そして、お金を稼がないといけないんだ。
姉さんを助けるには、力とお金が必要なんだから。
まだ高校生でしかない僕が大金を稼ぐには、橘さんの下で働くのが最善のはずなんだから。
でも、もし僕が失敗したら。
敵に捕まったら……。
姉さんを救い出せなくなる。
姉さんが壊れてしまう!
姉さんが……。
あなたにおすすめの小説
ひだまりのFランク冒険者
みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。
そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。
そんな中
冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。
その名は、リルド。
彼は、特に何もない感じに毎日
「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。
この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。
ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて…
幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。
王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。
なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。
自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。
11月14日にHOT男性向け1位になりました。
応援、ありがとうございます!
WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!
TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。
その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。
競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。
俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。
その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。
意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。
相変わらずの豪華客船の中だった。
しかし、そこは地球では無かった。
魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。
船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。
ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ……
果たして、地球と東の運命はどうなるの?