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第4章 異能編
和見家 2
しおりを挟む幸奈がやつれて見える。
「……」
「武志、元気そうだった?」
「……話したわけじゃないから良く分からないが、まあ、元気には見えたな」
「そう、元気なのね」
安堵の吐息をゆっくりと漏らす幸奈。
「ここしばらく武志は家に戻っていないのか?」
「……うん」
「そうか……」
武志は橘と一緒に、どこかにいるんだろう。
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れていく。
「幸奈……大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫」
気丈にも微笑む幸奈。
全くもって大丈夫とは思えない。
「そうか……。幸奈、これから少し外に出ないか?」
だから、ついこんな言葉も出てしまう。
「ありがと。でも、ごめん、もう夕食だから」
「ああ、そうだよな」
「うん」
「分かった。じゃあ、また今度な」
「うん、またね」
このまま幸奈と別れることに少なからず躊躇を覚えるものの、今はどうすることもできない。
「……ああ」
笑顔を頬にはりつけた幸奈に見送られ踵を返す。
そのまま足を進めて数歩。
どうしても気になり振り返ってしまう。
そこには、今にも消えてしまいそうなほど儚げに見える後ろ姿。
家へと戻って行く幸奈の姿があった。
***************
<和見武志視点>
今日は失敗した。
いや、違う。
今日も失敗したんだ。
前回のあの公園と同様、今日も相手を結界に閉じ込めること自体は成功した。
ただ、その後が……。
あの公園では中から結界を破られてしまったから、さらに強度を増して簡単には破壊されないように作っていたのに!
「はぁ」
今回は結界を強化した上に、さらにその中にガスを入れるという作戦だったので、あいつらを結界内に閉じ込めることに成功した時点で勝利を確信していた。
実際、あいつらは僕の結界から出ることはできなかった。
それなのに……。
決して油断していたわけじゃないけど、あんな奇襲を受けるなんて想像していなかったから。
「……」
橘さんが確保したといっていた人質が時間通りに現れなかったのも誤算だった。
でも、あの奇襲は……。
仮に人質がいたとしても、結局はあの奇襲でやられてしまったのかもしれない。
それ程までの恐ろしい攻撃だった。
橘さんが言うには、驚くべき速さと正確な攻撃を仕掛ける体術の達人のような男だったらしい。
僕は意識を失っていたから見ていなかったけれど、異能を全く使わず体術だけで橘さんを圧倒したらしいんだ。
橘さんをだよ。
はっきり言って信じられない。
「……」
異能を使わなかったということは、あのサングラスの男は普通人。
ただの普通人が、瞬間移動の異能を持つ橘さんに勝てる?
全く信じられない。
けど、現実として敗れた橘さんがそう言っているのだから信じるしかないんだ。
それでも、隙を見て僕を連れ出してくれた橘さんはさすがだと思う。
捕まった3人は自業自得かな。
あいつら、結界も人質も必要ない、今回は3人だけで相手をやっつけてやる、なんて自信満々に言ってたのに。
何度も勝手に行動するし、簡単にやられてしまうし。
ホント、何なんだよ!
「……」
そんな3人との共闘も、僕の結界でこっちに有利に進んでいた。
あの奇襲さえなければ……。
あの男、いったい何者なんだ?
顔を隠していたので、良く分からなかったけど……。
もしかして、前回の公園で古野白と一緒にいた男なんじゃないか?
あの時も暗くて距離も離れていたから、はっきりと顔を確認できたわけじゃない。
でも、似ているような気がする。
まっ、その男についても何も分からないんだけどさ。
「……」
あいつ、次も現れるかもしれないな。
異能を持たない体術の達人。
今度こそは上手く結界内に取り込まないと。
今日も橘さんがいなければ、今僕はここにはいなかったはずだから。
そう……。
もし、僕が捕まっていたら、今頃どうなっていたんだろう?
あいつらに捕まって、拘束されていたら。
もう姉さんに会うことができなくなって……。
考えると恐ろしくなってくる。
「……」
橘さんの下で働くようになったこと自体は後悔していない。
それでも、やっぱり、異能を持つ者たちの世界には完全に慣れることができていない。
この世界は普通の日本とは全く異なる原理で成り立っている世界。
最近まで普通の高校生だった僕に、すぐに順応しろというのが無理な話だ。
それでも、僕はやらなきゃいけない。
そして、お金を稼がないといけないんだ。
姉さんを助けるには、力とお金が必要なんだから。
まだ高校生でしかない僕が大金を稼ぐには、橘さんの下で働くのが最善のはずなんだから。
でも、もし僕が失敗したら。
敵に捕まったら……。
姉さんを救い出せなくなる。
姉さんが壊れてしまう!
姉さんが……。
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