30年待たされた異世界転移

明之 想

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第4章 異能編

魂を揺らす者 5

 意志に反して止まってしまった右手。
 壬生少年の腕を掴んだ左手も動かない。
 
 映像も浮かんでいないのに体が止まって!

 と!?

 さっきとは比べ物にならないような震えが襲ってきた!!

「今のは本当に危なかったですよ」

 急激に襲って来た震えで体に力が入らない。

「でも、もう動けないでしょ」

 動かないが動けないに変わっていく。
 手も足も、すべてが……。

「くっ!」

 これは、まずい。
 震えがきつすぎる。

 力の抜けた俺の左手から壬生少年の腕が離れる。
 もう一度捕まえようと思っても。
 手が伸ばせない。

 あまりの震えのため、身体が言うことをきかない。

 ゴトン。

 異能抑制具が右手から、こぼれ落ちる。
 腰を折り、身を屈めてしまう。

「ぅぅ……」

 駄目だ。
 動けない。
 震えが止まらない。

「……」

 これも揺魂なのか?

「もう感嘆の言葉もないですよ。これを受けて倒れないなんて、ホント」

「な、な、んだ?」

「その上、喋ることもできる」

「……い、の、うか?」

「ええ。震えが止まらないでしょ」

「……」

 映像はない。
 恐怖もない。
 もちろん、寒くもない。

 それなのに、震えが止まらない。

 これも揺魂の力……。

「ぼくの異能は揺魂と言いましてね。魂に働きかけることができるんですよ。効果は様々あるんですけどね。今の有馬さんのように魂に直接恐怖を与えてやると、大抵は震えで動けなくなります。中には、すぐに失神する者もいますし」

 魂に直接恐怖を?
 俺自身全く恐怖など感じていないのに、魂が恐怖を感じていると?

「……お、お、し、えて、いい、のか」

「有馬さんは特別ですよ。まっ、ぼくの異能を知ったところで対処なんてできないでしょうから、問題はないですし」

「……」

 その通りだ。
 すぐ目の前にいるというのに、何もできない。

「ぅぅぅ……」

 これ以上、立っていられない。
 我慢しきれず膝をついてしまう。

「まだ膝立ちで耐えるんですね。うーん、恐ろしいなぁ」

「……」

「でも、どうです。そろそろ、ぼくに手を貸す気になりましたか?」

「そ、んな、わけ、な、い」

「そうですか」

 壬生少年が震える俺のもとから離れていく。

「こういうの趣味じゃないんだけど」

 鷹郷さんたちのもとに歩を進めている。

「強情な有馬さんが悪いんですよ」

「な、にを」

「それと、手を出してきたのは有馬さんが先ですから。許してくださいね」

「な、に、する?」

「うん? 脅すんですよ。有馬さんを」

 橘の投げたナイフを拾い、古野白さんに近づく壬生少年。

「こういうことです」

 そのナイフを古野白さんの首筋に押しあてた。

「!!」

 拾ったナイフを古野白さんの首にあてたまま壬生が口を開く。

「有馬さんが仲間になってくれないというのなら、この美しい肌に傷がついちゃいますよぉ」

「そ、んな、こと、し、てみろ」

「ぼくはこの人たちに興味はありませんし、そもそも有馬さんに恨まれたくはないので、ホント、こういうことしたくないんです」

「……」

「でも、有馬さんがぼくの話を聞き入れてくれませんから」

 お前の仲間になどなれるはずないだろ。

「それとも、聞き入れてくれるのかな?」

「……」

「残念だなぁ。これはもうね、有馬さんの責任ということで」

「や、めろ!」

「そう言われてもねぇ」

 ナイフが薄く首をなでる。
 そして……。
 にじみ出た鮮血が古野白さんの首を伝う。

「!?」

「ああ、大丈夫ですよ。薄皮一枚切っただけですから」

 こいつ……。

 けど、古野白さんは、どうして目覚めない?
 あれくらいの傷じゃ駄目なのか?

「気持ちは変わりましたか?」

「……」

 俺を仲間に引き入れたいという壬生少年。
 それを考えての行動だとするなら……。

 俺の心証を害することを避けるため、過度な行動は取らないはず。
 なら、古野白さんの命を奪うことまではしない、はず。

 だが……。

「まだ足りないようですねぇ」

「……」

 どうする?
 まだ動けないのに。
 震えが止まらないのに。

「ぅぅ……」

 古野白さんを傷つけられたくない。
 それに、それだけで済まないかもしれない。

 あとで治癒魔法で治せる程度ならまだしも、それ以上なら……。

「では、今度はこの綺麗な顔に傷がつきますよ。それとも、他の2人にしましょうか?」

「ま、て!」

 さっきから気と魔力を体内で循環させようとしているが……。
 震えで集中できない。
 こんな状態では、動けるまで回復するのにまだまだ時間がかかる。

 回復したとしても、直後に再度揺魂を使われたら……。
 また同じことが起きるのか?

「ぼくが聞きたいのは、そんな言葉じゃないんですよ」

「……」

 この状況を打開するためには?

「……」

 もう……。

 露見を心配している場合じゃないな。
 その段階は過ぎている。

 ならば、覚悟を。
 覚悟を決めるしかない!



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