30年待たされた異世界転移

明之 想

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第5章 王都編

姫様

「少し痛いですが、我慢してください。ウォーター!」

「くっ」

 患部に手をかざし、水魔法で汚れを洗い流していく。
 綺麗になったところで、治癒魔法を発動。

「無詠唱! 魔法名すら口にせず治癒魔法を!?」

 しまった。
 口にするのを忘れてしまった。

「はは。さすがだぜ、兄さん」

「……」

 無詠唱の魔法の使い手はオルドウではほぼ見られない。
 それでも、王都には存在すると聞いている。
 野盗のリーダー格も完全無詠唱ではないものの、魔法名だけで風魔法を使っていた。

 それなのに、ここまで驚くとは……。

 失敗したな。


「先ほどの大規模な魔法といい、素晴らしい腕ですな」

「……いえ」

 無詠唱はともかく、治癒魔法の腕は大したものではない。
 あまり期待されるのも困りものだ。

 現に、こうして脇腹と脚の傷を治すのにも結構な時間がかかってしまう。


「っ! 痛くない!」

 ようやく、1人目の治癒終了。

「完全に治ってる?」

 申し訳ない。
 完全じゃないんだ。
 簡単に傷を修復しただけ。
 まだまだ脆い状態だから。

 というか、痛みも残ってるだろ。

「……傷は塞がっていますが、完治したわけではありません。しばらく無理はしないでください」

「あっ、はい! ありがとうございます!」

 深く頭を下げたまま、頭を上げようともしない。

「その気持ちだけで十分です。もういいですから」

「は、はい!」

 ほんと、気持ちだけで十分だよ。


「急がせて申し訳ないのですが、次もよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです」

「それでは、この者を」

 という風にして、治療を続け。
 それなりの時間を費やし、全員の治療を完了。

 一応、助かる見込みのなさそうな者の治療も行ってみたところ、ひとりだけ救うことができた。

 俺の治癒魔法のレベルも上がっているのかもしれないな。



「治癒魔法の前に、水魔法を使うと効果が上がるのですね?」

 治療を終え一息ついているところに問いかけてきたのは治癒魔法使い。
 隣で治療していた騎士だ。

「ええ。このような傷の場合、患部を洗い流した方が治癒魔法の効果が高まりますから」

「なるほど。まだお若いのに……勉強になります」

「……」

「このサイラスも治癒魔法を使える衛生兵なのですよ」

 ウォーライルさんが、その騎士を紹介してくれる。

「サイラスの魔力も尽きるところでしたので、本当に助かりました」

「いえ、力になれて良かったです」

 ということで、野盗の拘束と負傷者の治療も終了。
 あとはウィルさんの待つ馬車に戻るだけだ。

 って、まあ……。

 すぐには戻れないか。
 さすがに、もう分かってる。

 なので。
 とりあえず、ジンクにはウィルさんの待つ馬車の方に連絡に走ってもらうことに。
 早めに安心してもらいたいからな。




「エリシティア様、全て終わりました」

「うむ、ご苦労であった」

「はっ」

 治療終了を報告するウォーライルさんに、労をねぎらう姫様。
 さっきからずっとそうだが、この2人はまさに姫と忠臣といった感じがする。
 セレス様とシア、アルとはまた違う主従関係なんだろうな。

「貴殿も更なるご助力、痛み入る」

 っと、こちらにも言葉を!

「……いえ、救える命を救うことができて、私も嬉しいですから」

「殊勝なものだな」

「……」

 この姫様、漂わせる雰囲気は上位者の持つそれに違いない。
 それなのに、お姫様という感じはまったくしない。
 どちらかというと王子様のように思えてしまう。

 男装しているのに柔らかい雰囲気を持つウィルさんとは真逆だな。

「ところで姫様、紹介もまだですので」

 そうだった。
 俺もジンクもまだ名乗ってもいない。
 戦闘に治療と急いでいたとはいえ、失礼なことをしてしまった。

 けど、これで不敬だとか、勘弁してくれよ。

「ああ、そうであったな」

「では、私から」

「よい、命の恩人が相手だ。私が名乗ろう」

「はっ」

「エリシティアだ。一応、レザンジュの第一王女をやっておる」


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