30年待たされた異世界転移

明之 想

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第5章 王都編

王都 4

 まずは、ハード系のパンに肉と野菜を挟んだサンドイッチのようなものを一口二口と頬張る。
 肉もパンも日本のそれと比べるとかたいが、噛みきれない程ではない。
 それに、噛んでいると旨味が出てくるようだ。

 ちょっと癖になるような味かもしれない。

 次にいただくのは、具沢山のスープ。
 すじ肉のような肉片と何種類かの屑野菜といった決して高価とは言えない具材がゴロゴロと入っていて、ボリューム満点の一品。

 味付けは……塩だけかな。
 それでも肉と野菜から出汁が出ているのだろう。
 優しい甘みが感じられる。
 具材も口の中で溶けるほど柔らかい。
 少々肉の臭みが残っているのが難点だが……これも慣れれば問題ないか。

 うん、サンドイッチもスープも良い味だ。 
 こっちの世界の屋台も侮れないな。

 と、せっかく良い気分で食事をしていたのに……。
 広場の一隅から聞こえてくる喧騒が、その気分を台無しにしてくれる。


「おい、何をしたか分かっているのか。お前みたいな下等民が俺様のような貴族に」

「す、すみません」

 2人の若者が揉めているようだ。

 いや、違うか。
 あれは……。

 貴族らしき若い男が、平民の若者を一方的に責めている。

「お前みたいな難民がキュベルリアの風紀を乱すんだ」

「そんな……」

 2人の周りには、俺が食べていたのと同じサンドイッチらしき物が散乱している。

 なるほど、衝突してぶちまけてしまったというところか。
 どこかの里村を思い出してしまう。

「お前みたいな者に触れられただけでも穢れるというのに、俺の靴まで汚してくれるとは!」

「そうだぞ、無礼にも程がある」

「そうだ、そうだ」

 貴族の後ろにいる2人は取り巻きのようだな。

「この汚れ、どうしてくれる!」

 ん?
 靴なんてほとんど汚れてないじゃないか。

「すみません、すみません。今拭きますので」

 責め立てられた若者が、自分のシャツで貴族の靴の汚れを拭おうと屈んだところ。

「ぐはっ!」

 貴族の蹴りが若者の顔にまともに入った。

「そんな汚いモノで拭かれると、余計に汚れるわ」

「うっ、うう……」

 酷いことをする。
 靴の裏で顔面を蹴られた若者は鼻と口から出血しているぞ。

「……」

 オルドウでは、あまり見かけることのない光景だ。

「ああ……」
「なんて酷い……」
「かわいそうに……」

 周りの人々は遠巻きに眺めるだけ。
 同情はしているものの、誰も動こうともしない。


「うぅ……すみません」

 貴族と庶民の関係はこんなものなのか?

 セレス様やシア、アル。
 エリシティア様にウォーライルさん。

 俺の知っている貴族とは全く違う。
 最近は貴族への忌避感も少し薄れていたというのに。

「……」

 しかし、これはどうしたらいいんだ?

 この場で下手に介入すると、逆に迷惑をかけるという可能性もある。
 貴族がこのまま謝罪を受け入れるなら、それで良しとするべきなのか。

「お兄ちゃん!」

「ファミノ、よしなさい!」

 そんな声が聞こえたと思ったら。
 10歳にも満たないような小さな娘が、若者のもとへ駆け寄ってきた。

「お兄ちゃんを、ゆるしてください」

 まだ幼い少女が地面に蹲る若者を庇うようにして貴族に謝罪する。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ゆるしてください」

「ファミ、来ちゃ駄目だ」

 若者が少女を庇おうとするが、少女も譲らない。

せがれをお許しください」

 そこに一歩遅れてやって来た男性。
 少女と若者の父親と思しき男が地面に額を擦りつけるようにして謝罪を始めた。

 ん?
 あの父と娘……。

 さっき食べたサンドイッチを屋台で売っていたふたりだ。

「難民が3人そろったか。ちょうどいい。王都の害虫である難民を俺が駆逐してやろう」

「難民の駆除とはさすがです」

「王都の清掃になりますなぁ」

「その通りだ」

 父親ではなく、若者を庇う少女のもとに歩み寄る貴族。
 腰に差していた剣を鞘ごと持ち上げ……。

 本気か!?
 さすがに、これは見逃せないぞ。

 周りで静観している民衆の間を一瞬で駆け、少女のもとへ!
 と、こちらとは反対側で眺めている民衆の間を走り抜けてくる者がいる!

「ありがたく罰を受けるがいい」

「きゃあ!」

「ファミ!」

 鞘が少女の頭に降りかかる、なんてことはさせない。

 少女の前に飛び出し、左手で貴族の振り下ろした剣の鞘を受け止めてやる。
 非力な貴族の坊ちゃんの振るう剣だ。
 掴むなど造作もない。

「なっ!?」

「えっ!?」

「!?」

 まさか掴まれるとは思っていなかったんだろう。
 貴族の若者が剣を持ったまま固まっている。

 そして……若者の左前方。
 僅かに距離を置いて立っているのは、俺と同様走り寄って来た女性。

 俺の方が早いとみて、足を止めたようだ。


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