30年待たされた異世界転移

明之 想

文字の大きさ
365 / 1,578
第5章 王都編

王都 4

しおりを挟む
 まずは、ハード系のパンに肉と野菜を挟んだサンドイッチのようなものを一口二口と頬張る。
 肉もパンも日本のそれと比べるとかたいが、噛みきれない程ではない。
 それに、噛んでいると旨味が出てくるようだ。

 ちょっと癖になるような味かもしれない。

 次にいただくのは、具沢山のスープ。
 すじ肉のような肉片と何種類かの屑野菜といった決して高価とは言えない具材がゴロゴロと入っていて、ボリューム満点の一品。

 味付けは……塩だけかな。
 それでも肉と野菜から出汁が出ているのだろう。
 優しい甘みが感じられる。
 具材も口の中で溶けるほど柔らかい。
 少々肉の臭みが残っているのが難点だが……これも慣れれば問題ないか。

 うん、サンドイッチもスープも良い味だ。 
 こっちの世界の屋台も侮れないな。

 と、せっかく良い気分で食事をしていたのに……。
 広場の一隅から聞こえてくる喧騒が、その気分を台無しにしてくれる。


「おい、何をしたか分かっているのか。お前みたいな下等民が俺様のような貴族に」

「す、すみません」

 2人の若者が揉めているようだ。

 いや、違うか。
 あれは……。

 貴族らしき若い男が、平民の若者を一方的に責めている。

「お前みたいな難民がキュベルリアの風紀を乱すんだ」

「そんな……」

 2人の周りには、俺が食べていたのと同じサンドイッチらしき物が散乱している。

 なるほど、衝突してぶちまけてしまったというところか。
 どこかの里村を思い出してしまう。

「お前みたいな者に触れられただけでも穢れるというのに、俺の靴まで汚してくれるとは!」

「そうだぞ、無礼にも程がある」

「そうだ、そうだ」

 貴族の後ろにいる2人は取り巻きのようだな。

「この汚れ、どうしてくれる!」

 ん?
 靴なんてほとんど汚れてないじゃないか。

「すみません、すみません。今拭きますので」

 責め立てられた若者が、自分のシャツで貴族の靴の汚れを拭おうと屈んだところ。

「ぐはっ!」

 貴族の蹴りが若者の顔にまともに入った。

「そんな汚いモノで拭かれると、余計に汚れるわ」

「うっ、うう……」

 酷いことをする。
 靴の裏で顔面を蹴られた若者は鼻と口から出血しているぞ。

「……」

 オルドウでは、あまり見かけることのない光景だ。

「ああ……」
「なんて酷い……」
「かわいそうに……」

 周りの人々は遠巻きに眺めるだけ。
 同情はしているものの、誰も動こうともしない。


「うぅ……すみません」

 貴族と庶民の関係はこんなものなのか?

 セレス様やシア、アル。
 エリシティア様にウォーライルさん。

 俺の知っている貴族とは全く違う。
 最近は貴族への忌避感も少し薄れていたというのに。

「……」

 しかし、これはどうしたらいいんだ?

 この場で下手に介入すると、逆に迷惑をかけるという可能性もある。
 貴族がこのまま謝罪を受け入れるなら、それで良しとするべきなのか。

「お兄ちゃん!」

「ファミノ、よしなさい!」

 そんな声が聞こえたと思ったら。
 10歳にも満たないような小さな娘が、若者のもとへ駆け寄ってきた。

「お兄ちゃんを、ゆるしてください」

 まだ幼い少女が地面に蹲る若者を庇うようにして貴族に謝罪する。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ゆるしてください」

「ファミ、来ちゃ駄目だ」

 若者が少女を庇おうとするが、少女も譲らない。

せがれをお許しください」

 そこに一歩遅れてやって来た男性。
 少女と若者の父親と思しき男が地面に額を擦りつけるようにして謝罪を始めた。

 ん?
 あの父と娘……。

 さっき食べたサンドイッチを屋台で売っていたふたりだ。

「難民が3人そろったか。ちょうどいい。王都の害虫である難民を俺が駆逐してやろう」

「難民の駆除とはさすがです」

「王都の清掃になりますなぁ」

「その通りだ」

 父親ではなく、若者を庇う少女のもとに歩み寄る貴族。
 腰に差していた剣を鞘ごと持ち上げ……。

 本気か!?
 さすがに、これは見逃せないぞ。

 周りで静観している民衆の間を一瞬で駆け、少女のもとへ!
 と、こちらとは反対側で眺めている民衆の間を走り抜けてくる者がいる!

「ありがたく罰を受けるがいい」

「きゃあ!」

「ファミ!」

 鞘が少女の頭に降りかかる、なんてことはさせない。

 少女の前に飛び出し、左手で貴族の振り下ろした剣の鞘を受け止めてやる。
 非力な貴族の坊ちゃんの振るう剣だ。
 掴むなど造作もない。

「なっ!?」

「えっ!?」

「!?」

 まさか掴まれるとは思っていなかったんだろう。
 貴族の若者が剣を持ったまま固まっている。

 そして……若者の左前方。
 僅かに距離を置いて立っているのは、俺と同様走り寄って来た女性。

 俺の方が早いとみて、足を止めたようだ。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

Gランク冒険者のレベル無双〜好き勝手に生きていたら各方面から敵認定されました〜

2nd kanta
ファンタジー
 愛する可愛い奥様達の為、俺は理不尽と戦います。  人違いで刺された俺は死ぬ間際に、得体の知れない何者かに異世界に飛ばされた。 そこは、テンプレの勇者召喚の場だった。 しかし召喚された俺の腹にはドスが刺さったままだった。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...