30年待たされた異世界転移

明之 想

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第5章 王都編

舞踏会 2

「お嬢さん、私と踊っていただけませんか?」

「えっ! えっ!?」

 驚きで目を丸くしている。

「お父さん?」

 目を丸くしたまま、父親の顔を窺うファミノ。
 ルネアスさんは娘を見て、一瞬ためらったものの。
 俺の目を見ながら頷いてくれた。

「いいの!」

「相手をしていただきなさい」

「うん! うんっ!!」

 いい笑顔だ。
 これだけで、思い切った甲斐があるというもの。

 ただ、次の瞬間。
 こちらを振り向いたファミノの瞳には陰りが。

「冒険者のお兄さん、わたしと? ほんとに?」

「もちろん」

 心配は要らない。
 陰りを消してくれたらいい。

「お兄さん!!」

 そう。
 子供には笑顔が一番だよ。

「……」

 さて。
 そろそろ3曲目も終わるころだ。
 ならば、仕切り直しを。

「お嬢さん、一緒に踊っていただけますか?」

 ファミノの小さな手を迎えるように、手のひらを差し出す。

「はい!!」

 俺の手のひらに小さな手が重なった。

「うれしい! わたし、うれしいよ!!」

 今度は泣き笑い。
 それも悪くない。
 けど、この場に涙は似合わないかな。

 取り出したハンカチをゆっくりと頬に当ててやる。

「ありがと、お兄さん」

「どういたしまして」

 さあ、3曲目が終わったぞ。

「では、踊りましょうか」

「うん!!」

 タイミングよく4曲目が流れ始める。
 これも聞いたことのない曲だが、どこかワルツに似ている。
 なら、そんな感じで。

 ステップを踏む。
 ファミノも俺を見て、周りを見ながら足を合わせる。

 見よう見まねで。
 足を動かしていく。

「……」

 まだ、少しかたいな。

 すると。

「あっ!」

 俺の足を踏んだファミノの顔が曇る。

「お兄さん?」

「……何かありました?」

「えっ?」

「私は何も感じてませんよ」

「……」

「せっかくの時間です。思う存分楽しみましょ」

「でも……」

「何も気にせず楽しむのが一番です。私もそれが楽しいですから」

「……」

「さっ、続けますよ」

「うん!」

 まだかたい。
 ステップもおぼつかない。
 けれど、笑顔だ。

 今はそう。
 目の前の時間だけを楽しめばいい。


 4曲目も終盤。
 舞曲が進むにつれて、ファミノのステップも少しずつ軽やかなものに変わっている。

 右に左に、左に右に。
 軽く跳ねるような、喜びに満ちたステップ。

 もう笑顔が崩れることもない。



「……終わっちゃった」

 4曲目が終了。
 と同時に手を離そうとするファミノ。

「5曲目がありますよ」

「まだ、いいの?」

「当然です」

「やった!」

 5曲目が始まった。


「ふんふん」

「……」

「ふふ、ふんふん」

「……」

 大人と子供。
 その上、素人のコンビ。
 お世辞にも上手いとは言えない舞踏だろう。

 ただ、それでも。
 ファミノの顔は喜びで溢れている。
 子供らしい屈託のない笑顔が、これでもかと輝きを放っている。

 なら、それでいい。
 それで充分だ。




 街に流れる舞曲が終了し、俺とファミノの舞踏会も終了。
 ただし、広場の熱気はまだ完全には収まっていない。

 広場の至るところで楽器を取り出し演奏を始める人の姿が目に入ってくる。
 当然、それに合わせて踊る面々も。

 半数程度の人が広場に残って、舞踏会の余韻を楽しんでいるようだ。


「ねぇ、お兄ちゃん」

「うん?」

「ちょっとだけお願い」
 
「……」

「お父さんも!」

「ファミノ……」

「ねっ、ねっ、少しでいいから。3人でいいでしょ?」

「……」

「ルネアスさん、ノリスさん、私が周りを見てますから、少しだけどうですか?」

 まだ結構な人数が広場に残っているとはいえ、彼らは演奏と踊りに夢中。
 こちらのことを気にする人など、まずいないだろう。
 俺が警戒すれば何も支障はない。

「大丈夫ですよ」

「……」

「……」

「お父さん、お兄ちゃん」

「……分かったよ」

「やったぁ!!」

 いまだ四方から聞こえてくる楽器の演奏の中。
 3人の親子がステップを踏み始める。

 その姿はもう……。

 言葉にもできないな。


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