30年待たされた異世界転移

明之 想

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第5章 王都編

王都冒険者ギルド 1

 良い時間だった。
 思いもかけず楽しい時間を過ごすことができた。
 ファミノのためにした舞踏だったのに、こちらの心が洗われたような気さえするよ。

 コルドゥラとの騒動の後だから、ことさらそう感じてしまう。

「……」

 さてと。
 予想外の出来事が相次いで時間を使ってしまったが、まだ8刻にもなっていない。
 散策する時間は残っている。

 向かう先は王都の北。
 当初の予定通り、貴族区との境界までは足を運ぶとするか。

 軽くなった足取りで散策を再開。

 街並みと白亜宮を眺めながら北上する歩みは、午前中に比べるとスムーズなもの。
 さすがに、中央大通りにも慣れてきたかな。

 気になる店に立ち寄りながら進んでも、8刻になる前には商業区を抜けてしまった。

「……」

 この先の行政区は商業区ほど広くないとのことだし、訪れたい場所があるわけでもない。
 この調子だと、日が暮れる前には宿に戻れそうだ。

 と、行政区に入る前に大きな広場が目に入ってきた。
 さっきの広場より、ひと回り大きい。
 円形の大広場だ。

 はは。
 これまた、素晴らしいじゃないか。
 自然と建造物が見事に調和しているぞ。

 こんな場所で、少し眺めを楽しみたいところだが……。
 今はまだ踊っている人たちがいるんだよなぁ。

「……」

 また、次の機会にゆっくり休憩することにしよう。

 円形大広場に後ろ髪を引かれながらも、中央大通りをさらに北に歩き続ける。

 行政区は、商業区に比べると大規模な建造物が多い。
 通りの西側には商業ギルド、その隣に冒険者ギルド、さらに各種ギルドが並び、最奥には教会が見られる。

 東側には、衛兵所や裁判所など幾つもの王立機関が連なっている。
 こちらの最奥は役所……市役所みたいなものか。

 役所と教会の北には、大通りを遮るようにして造られた小さな堀と内壁。
 その堀に架かる橋の先、北へ抜ける門の前には槍を持った衛兵たちの姿が見えるな。

 ここから先が貴族区のようだ。


 行政区に入ってからは、すぐだったな。
 あっという間にここまで到着してしまった。
 この先には進むこともできないし、戻るしかないか。

 とはいえ、まだこんな時間。
 このまま宿に戻ってもいいのだが……。

 少し立ち寄ってみるかな。


 立ち寄った場所は、大通りの西側にある3階建ての建物。
 冒険者ギルドだ。
 とりあえず冒険者ギルドくらいは見物しておくべき、という理由で足を運んだけなので長居するつもりはない。

 さっと見学して、宿に戻るとしよう。

 ということで、さっそく中に入ってみる。

「……」

 ほう!

 床も天井も石造りか。
 オルドウの冒険者ギルドの床は木製だったけど、王都は総石造り。
 しかも、高価そうな石。

 さすが王都の冒険者ギルドだけのことはある。

 ただ、ギルド内の構造は規模こそ違うものの、オルドウのそれとほぼ同じ。
 正面に受付が並び、横にある大壁には依頼を貼り出すための掲示板が設置されている。

 そんな王都キュベルリアの冒険者ギルドも夕方のこの時間は空いているようで……。

「……」

 うん。
 ギルドに入ったはいいが、特にすることもないな。
 宿に帰るか。
 なんて思っていると。

「あれ、コーキさん?」

 2階に続く階段の手前で、意外な人物に声をかけられた。

「コーキさん、まさか王都で仕事でもするんですか?」

 驚いたような表情で話しかけてくるのはウィルさん。
 宿を出た今朝と同じ男装のままだ。

「いえ、私は少し立ち寄っただけですが……。ウィルさんこそ、冒険者ギルドに用でもあるんですか?」

 王都には個人的な理由で訪問すると言っていた。
 その理由が冒険者ギルド?
 そんなわけないよな、多分。

「冒険者ギルドには、ちょっとした用事があったもので。あっ、でも、それが王都に来た目的ではありませんよ」

「そうでしたか」

 とはいえ、王都での実質初日に冒険者ギルドに来るほどの用事とは何だろう?
 まっ、ウィルさんにも色々あるか。

 ところで、後ろの2人は誰なんだ?
 そんな俺の疑問が顔に現れていたのか。

「あっ、こっちは私が以前お世話になったカロリナとヴァルター、さんです」

 すぐに、ウィルさんが紹介してくれた。

「ふたりは夫婦で王都に暮らしているんですよ」

 ウィルさんの横に立っているのは、共に四十年配の男女。
 ひとりは、いかにもご婦人といった装いの少し恰幅の良い女性。
 もうひとりは、かなり大柄な筋肉質の男性だが……。

 明らかに、ただものじゃない雰囲気を醸し出している。
 気を抑えてはいるものの、ここまでの気はなかなか抑えきれるものじゃないからな。

 先刻の剣姫に続いて、この人も相当の腕を持っていそうだ。



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