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第5章 王都編
手合わせ 3
人剣無境!
静なる剣!
幻影の異名にふさわしい。
「……」
「……」
ヴァルターさんの発する気は、対峙中とは思えないほど静穏にして柔らかなもの。
その気に誘引され、訓練場が静寂に、そして緊張に支配されていく。
訓練所にいる誰もが動きを止め。
物音ひとつも発することなく。
沈黙の中、ただこちらだけに視線を集めている。
「……」
「……」
ヴァルターさんの木剣は、俺の眼前で動きを止めたまま。
微塵も動かない。
その構えは、ヴァルターさんの巨体の質量を感じさせない。
重力のくびきから解放されたかのように、軽やかで悠々としている。
「……」
この重心、普通じゃないな。
まるで宙に浮いているようだ。
重さを消し去った構え。
止まっているのに、揺揺と映る木剣。
その様は……水に浮く船、空を舞う風。
まさか!?
浮船、風揚!!
そんな至技が異世界で!!
「……」
信じられない。
けど、ヴァルターさんの構えは、そうとしか……。
ならば、次は無拍子!
そうなのか?
「……」
ヴァルターさんの静止した身体が、木剣が僅かに下に振れる。
まだ完璧じゃない?
とはいえ、ほぼ完成されたこの構え。
予備動作無しで放たれる無拍子の体勢だろう。
事前の動作なく振るわれる必中不可避の静剣。
いきなり目の前に現われる無拍子の必撃。
「……」
ほんの微かな予備動作を俺の目が捕えた刹那!
木剣が現出する!
剣気を消したまま、胸前に!!
「っ!」
普通に対していたなら、打ち払うことも、回避することもできなかったであろう無拍子の静剣。
ただ、今回は僅かな動きを視認することができた。
無拍子にとっては致命的だ。
特に、それを知る者を相手取る時は!
ゆえに。
胸前に迫った木剣を払いのけることも可能。
カーン!
木剣を弾く乾いた音が訓練所にこだまする。
「なっ!?」
驚愕の表情を浮かべるヴァルターさん。
「何!!」
呆然と動きを止めたのは一瞬。
すぐさま払われた剣を戻し、後退していく。
こちらから追撃はしない。
「「「「「「「「「おおぉぉぉ!!」」」」」」」」
次の瞬間。
周りの冒険者たちから湧きあがる怒号のような歓声。
「何が起こった?」
「分かんねえ!」
「けど、凄いぞ!」
「ああ、すごい!」
鳴りやまぬ歓声の中。
ヴァルターさんは疑問に囚われている。
「……どうしてだ?」
「微かに動いたのが見えましたから」
本当に素晴らしい一撃だった。
ただ、完全な無拍子には至っていない。
「初見で見切ったのか?」
「まあ……」
一応、そういうことになる。
「……」
通常、予備動作の無い無拍子は、初見の相手に対しては必中不可避の一撃となるはず。
いや、数度見ても同じか。
やはり、防ぐことはできないだろう。
予備動作の無い動きに、人はなかなか対応できないものだから。
「バカな……」
なので、初見で見切られれば驚くのも当然。
といっても、俺はその無拍子の存在を知っていたわけだから、初見と言って良いのかあやしいのだけれど。
「鈍ったということか」
「……」
ヴァルターさん、現役の冒険者だった頃は完璧な無拍子の一撃を打てたのかもしれないな。
「情けない……」
少し距離を取り対峙した状態のヴァルターさん。
依然、動きは止まったまま。
もう少し様子を見たいが……。
待っていても仕方ない、か。
次はこっちから仕掛けるとしよう。
若干集中が切れかけているヴァルターさんに防ぐことができるかな?
「……」
木剣を持つ右手に力を入れなおし。
前方に身を投げる。
彼我の距離を消し去り、木剣をそのまま一直線に突き出してやる。
無拍子ではない、予備動作だらけの打突。
しかし、これまでにない速度。
最速の一撃だ。
その突きがヴァルターさんの右肩に迫る。
ダン!
右肩に木剣の剣先が突き当たる!
その直前、ヴァルターさんは左後方に跳ねながら右腕で俺の木剣を弾いた。
右肩まであと少しというところで払われた剣先がむなしく空をさまよう。
「……」
自身の持つ木剣では防げない間合いに俺の剣先が入っていると瞬時に判断。
木剣から片手を放し右腕で木剣を払ったと!
最短、最小の動きで防いだと!
素晴らしい判断に見事な反応速度!
その動きに驚嘆してしまう。
と!?
危ない!
「だぁ!!」
右手を放し、左手だけで掴んでいる木剣を振り上げてきた。
突きを入れた状態から、こちらは体勢を完全に戻せていない。
「っ!」
何とかギリギリのところで胸を反らし、その剣を回避。
俺を狙った木剣がその勢いのままに振りきられ、ヴァルターさんの上半身が泳いでいる。
この瞬間、胴ががら空き。
なら!
木剣を右に振り抜く。
至近距離で振るう横薙ぎの一撃。
これは避けられないだろ。
バシッ!
直撃!
が、木剣が当たったのは胴じゃない。
ヴァルターさんが空いていた右手を差し入れてきたんだ。
「つぅ!」
結果、右腕に打撃を与えることには成功したものの。
「……真剣なら終わっていた、かもな」
「……」
「だが、まだ終わりじゃないぞ」
顔を歪めながらも、その目は爛々と光を放っている。
闘志は全く鈍っていない。
「次の一合、それで勝負だ」
静なる剣!
幻影の異名にふさわしい。
「……」
「……」
ヴァルターさんの発する気は、対峙中とは思えないほど静穏にして柔らかなもの。
その気に誘引され、訓練場が静寂に、そして緊張に支配されていく。
訓練所にいる誰もが動きを止め。
物音ひとつも発することなく。
沈黙の中、ただこちらだけに視線を集めている。
「……」
「……」
ヴァルターさんの木剣は、俺の眼前で動きを止めたまま。
微塵も動かない。
その構えは、ヴァルターさんの巨体の質量を感じさせない。
重力のくびきから解放されたかのように、軽やかで悠々としている。
「……」
この重心、普通じゃないな。
まるで宙に浮いているようだ。
重さを消し去った構え。
止まっているのに、揺揺と映る木剣。
その様は……水に浮く船、空を舞う風。
まさか!?
浮船、風揚!!
そんな至技が異世界で!!
「……」
信じられない。
けど、ヴァルターさんの構えは、そうとしか……。
ならば、次は無拍子!
そうなのか?
「……」
ヴァルターさんの静止した身体が、木剣が僅かに下に振れる。
まだ完璧じゃない?
とはいえ、ほぼ完成されたこの構え。
予備動作無しで放たれる無拍子の体勢だろう。
事前の動作なく振るわれる必中不可避の静剣。
いきなり目の前に現われる無拍子の必撃。
「……」
ほんの微かな予備動作を俺の目が捕えた刹那!
木剣が現出する!
剣気を消したまま、胸前に!!
「っ!」
普通に対していたなら、打ち払うことも、回避することもできなかったであろう無拍子の静剣。
ただ、今回は僅かな動きを視認することができた。
無拍子にとっては致命的だ。
特に、それを知る者を相手取る時は!
ゆえに。
胸前に迫った木剣を払いのけることも可能。
カーン!
木剣を弾く乾いた音が訓練所にこだまする。
「なっ!?」
驚愕の表情を浮かべるヴァルターさん。
「何!!」
呆然と動きを止めたのは一瞬。
すぐさま払われた剣を戻し、後退していく。
こちらから追撃はしない。
「「「「「「「「「おおぉぉぉ!!」」」」」」」」
次の瞬間。
周りの冒険者たちから湧きあがる怒号のような歓声。
「何が起こった?」
「分かんねえ!」
「けど、凄いぞ!」
「ああ、すごい!」
鳴りやまぬ歓声の中。
ヴァルターさんは疑問に囚われている。
「……どうしてだ?」
「微かに動いたのが見えましたから」
本当に素晴らしい一撃だった。
ただ、完全な無拍子には至っていない。
「初見で見切ったのか?」
「まあ……」
一応、そういうことになる。
「……」
通常、予備動作の無い無拍子は、初見の相手に対しては必中不可避の一撃となるはず。
いや、数度見ても同じか。
やはり、防ぐことはできないだろう。
予備動作の無い動きに、人はなかなか対応できないものだから。
「バカな……」
なので、初見で見切られれば驚くのも当然。
といっても、俺はその無拍子の存在を知っていたわけだから、初見と言って良いのかあやしいのだけれど。
「鈍ったということか」
「……」
ヴァルターさん、現役の冒険者だった頃は完璧な無拍子の一撃を打てたのかもしれないな。
「情けない……」
少し距離を取り対峙した状態のヴァルターさん。
依然、動きは止まったまま。
もう少し様子を見たいが……。
待っていても仕方ない、か。
次はこっちから仕掛けるとしよう。
若干集中が切れかけているヴァルターさんに防ぐことができるかな?
「……」
木剣を持つ右手に力を入れなおし。
前方に身を投げる。
彼我の距離を消し去り、木剣をそのまま一直線に突き出してやる。
無拍子ではない、予備動作だらけの打突。
しかし、これまでにない速度。
最速の一撃だ。
その突きがヴァルターさんの右肩に迫る。
ダン!
右肩に木剣の剣先が突き当たる!
その直前、ヴァルターさんは左後方に跳ねながら右腕で俺の木剣を弾いた。
右肩まであと少しというところで払われた剣先がむなしく空をさまよう。
「……」
自身の持つ木剣では防げない間合いに俺の剣先が入っていると瞬時に判断。
木剣から片手を放し右腕で木剣を払ったと!
最短、最小の動きで防いだと!
素晴らしい判断に見事な反応速度!
その動きに驚嘆してしまう。
と!?
危ない!
「だぁ!!」
右手を放し、左手だけで掴んでいる木剣を振り上げてきた。
突きを入れた状態から、こちらは体勢を完全に戻せていない。
「っ!」
何とかギリギリのところで胸を反らし、その剣を回避。
俺を狙った木剣がその勢いのままに振りきられ、ヴァルターさんの上半身が泳いでいる。
この瞬間、胴ががら空き。
なら!
木剣を右に振り抜く。
至近距離で振るう横薙ぎの一撃。
これは避けられないだろ。
バシッ!
直撃!
が、木剣が当たったのは胴じゃない。
ヴァルターさんが空いていた右手を差し入れてきたんだ。
「つぅ!」
結果、右腕に打撃を与えることには成功したものの。
「……真剣なら終わっていた、かもな」
「……」
「だが、まだ終わりじゃないぞ」
顔を歪めながらも、その目は爛々と光を放っている。
闘志は全く鈍っていない。
「次の一合、それで勝負だ」
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