30年待たされた異世界転移

明之 想

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第5章 王都編

王都の長い夜 5

<ウィル視点>



 訓練所で観戦した手合わせがあまりに素晴らしくて、興奮で状況を忘れそうになったのだけれど、冒険者ギルドをあとにする頃には何とか冷静さを取り戻すことができた。

 王都に来たのは楽しむためじゃない。
 しっかりとした目的があったから。
 今の私は、何をおいてもその目的を優先する必要があるのだ。

 そういうわけなので、ギルドを出た後はコーキさんと別れ。
 渋るヴァルターを宥めながら、行きつけの店に3人で向かうことになった。


「何者なんです、あの若者は?」

「オルドウの冒険者で私の護衛」

「それはオレも知ってます」

「……」

「なぜ、あれで5級なのか? 意味が分からない」

「多分、昇級の手続きをしていないだけよ」

「どういうことです?」

「コーキさん、冒険者としての実績は十分にあるから」

 4級どころか、3級、2級と昇進していてもおかしくない。
 ベリルさんもそう言っていた。

「実績? 今回の賊の件以外にですか?」

「ええ」

「詳しく聞かせてもらっても?」

「……」

 わざわざ3人になったのに、話す内容はコーキさんのことばかり。
 あの激闘の後だから、ヴァルターの気持ちも十分理解できる。
 理解できるし、その話をするのも嫌なわけじゃない。

 けど、今は……。
 王都に来たのは、2人から話を聞くためなのに。


「お嬢、お願いしますよ!」

「ウィル様、私も知りたいです」

 ヴァルターに続いて、カロリナまで。

 はぁ~。
 コーキさんの話をしないと、先に進めないのね。

 仕方ない。
 少し話しましょ。

 でも。

「ここで話してもいいの?」

「信用できる店です。それに、ここは個室ですから」

 この店の個室なら問題ないってこと?

「お嬢!」

「分かったわ。……どこから話そうかしら」

「最初から話してもらえませんか」

 最初から?
 ということは、夕連亭の一件からになるわね。
 あれは冒険者としての実績にはならないのだけど……。

「痛!」

「どうしました?」

「大丈夫、ちょっと頭痛がしただけ」

「ウィル様、大丈夫なのですか?」

「カロリナ、そんな顔しないで。私ももう子供じゃないのよ。自分の体調くらい分かるわ」

「そう、ですよね」

 今はもう、カロリナとヴァルターの知っている子供の私じゃない。
 ただ、ふたりにとっては、何歳になっても私は子供のままなんでしょうね。
 面倒を見てもらった時のまま……。

「頭痛ですか?」

「ええ、すぐ治まるわ」

 あの夜のことを思い出すと、なぜだか頭が痛くなる。
 といっても、いつもちょっとした痛みで、すぐに消えるものだから心配はいらない。

「では、最初から話すわよ」

「……お願いします」

 まずは夕連亭での話をすることに。



「そんなことがあったんですね。しかし、お嬢が無事で良かった」

「本当に。ウィル様が無事で……」

「全てコーキさんのおかげなのよ。なのに、ヴァルターはコーキさんを試そうとして!」

「いやぁ、さっきは申し訳なかったです」

「私に謝る必要はないでしょ。それにコーキさんが許しているのだから、もういいわよ」

「はあ。それで、あのコーキさん、オルセーを倒したんですよね?」

「ええ、私の目の前で」

「宝具を使ったオルセーを……」

「オルセーのこと詳しく知っているのね」

「もちろんです。我ら風根衆の中でも手練れとして知られていますから」

「まさか、今のあなたより強いの?」

 今は引退して冒険者ギルドの教官をしているヴァルター。
 以前は表面上冒険者として、実際は風根衆の一員として名を馳せてきた超一流の剣士だ。

 そんな彼が風根の者に劣るとは思えない。

「魔法では敵いませんが、近接戦で負ける気はしませんねぇ。もちろん、宝具を出されると話は変わってきますが」

「オルセーは近距離からも魔法を使っていたわよ」

「まあ、何とかなるでしょ」

「さすがね」

 そんなヴァルターにも負けなかったコーキさん。
 今さらながら、凄い人だと実感してしまう。

「いえ……。私もイリサヴィアとドゥベリンガーには敵いませんから」

 剣姫と赤鬼のふたり。

「そのふたりは強いのね」

「間違いなく」

「コーキさんよりも?」

「彼もまだ力を隠していそうですが……、おそらく」

「そうなの? でも、コーキさんはダブルヘッドをひとりで倒したみたいよ」

「っ!? なんて言いました?」

「コーキさんがダブルヘッドを倒したのよ、ひとりで」

「……本当ですか?」

「ええ」

「お嬢、それも詳しく教えてください」

「そっちは詳しく知らないけど……」

 ダブルヘッド討伐について知っている内容は僅かなものなので、あっという間に話し終わってしまった。


「いずれにしろ倒したことに違いはない、と」

「そうね」

「……」

「……」

「……」


 ヴァルターが考え込んでいる。
 カロリナも無言のまま。

 この状況なら、いいわよね。
 今度は私の質問に答えてもらわないと。

「……」

 ヴァルター、カロリナ。
 ユマリ母さんと親しかったふたり。
 3人で多くの任務を果たしたという過去も持っている。

 このふたりなら知っているはず。

 私の父の名前を!
 死んだと教えられていたのに、今も生きている父の存在を!

「……」

 ずっと隠されていた事実。
 簡単には教えてくれないと思う。

 でも、必ず!

 長い夜になりそう……。







************************


※ ユマリはウィルの実母です。
  ユマリの死後、ウィルを育てたのが妹のヨマリになります。

※ 風根衆とはキュベリッツ王家にのみ臣従する一族です。
  その任務は多岐にわたるようで……。
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