30年待たされた異世界転移

明之 想

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第5章 王都編

招待 5

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「よかろう。今回は無しだ!」

 えっ?

「魔術試しなど強要するものではない」

「……」

「リリニュスよ、今回は諦めよ」

「……はっ」

「コーキもそんな顔をするでない」

「……はい」

「命の恩人に魔術試しを無理強いするなど、意味のないことだ。そうであろう、ウォーライル、リリニュス」

「まことに」

「……はい」

「ということだ」

 エリシティア様の采配は見事なもの。
 本当に素晴らしい。

 ただ、こんな対応をされてしまうと、逆に魔術試しをしなければいけない気持ちになってしまう。

「……」

 これはまた、エリシティア様の決定に異を唱えるようなもの。
 失礼に当たるかもしれないが。

「ありがとうございます。私のことを気遣っていただき、エリシティア様には感謝しかございません。ですが、私も魔術試しに興味がわいてまいりました」

「……」

「リリニュス様と魔術試しができればと」

「それがコーキの本心か?」

 こちらの心の裡を見透かすような視線。
 もちろん、正面から受けさせていただく。

「はい」

「ふむ……よかろう」



 魔術試しとは、やはり魔法の手合わせといったようなものだった。
 ただし、内容はいたって単純。
 互いに攻撃魔法と防御魔法を発動し、その優劣を競うだけ。
 それを攻守交代して2度行うだけだ。

 そんなわけで、行われた魔術試し。
 結果は、両者ともに相手の防御魔法を破って終了。

 詳細は……。
 語ることでもないかな。


 しかし、リリニュスさんの魔法は素晴らしいものだった。
 さすがレザンジュの宮廷魔術士、そう思わせてくれたよ。

 で、そのリリニュスさん。
 どうして、こんなに好戦的だったかというと。

 エリシティア様が俺の魔法の腕を彼女の前で称賛していたみたいで、いずれはエヴドキヤーナという高名な魔術師に匹敵する使い手になるとまで口にしたようなんだ。

 どうやら、その言葉がエヴドキヤーナさんの弟子であるリリニュスさんの癇に障ったらしい。

 彼女は師匠であるエヴドキヤーナさんに心酔しているからと、ウォーライルさんがこっそり教えてくれた。


 ほんと……。

 こちらにとっては迷惑な話でしかない。
 とはいえ、これもまた仕方ないことなんだろう。
 そう思うしかないよな。

 と、いろいろ想定外の事態が起こった今回の謁見。
 無事に幕を下ろすことができて良かったよ。




 さてと。
 宿に戻った俺がすることはひとつ。
 久々の日本への帰還だ。
 武志を迎える必要があるからな。

 ところで、ウィルさん。
 まだこの宿に戻っていない。
 王都での用事というものが長引いているのだろうか?
 何の問題もなければ良いのだが……。

 今夜もヴァルターさんの家に泊るのかもしれないな。







「約束は守ってくれよ」

「ああ」

「話せることは僕から姉さんに話すから」

 予定通り能力開発研究所に武志を迎えに行き、そのまま和見家に送り届け。
 今は、その玄関先で武志に念を押されているところ。

「信用していいんだな?」

「大丈夫だ。異能についても、今回の件についても詳しいことは幸奈に話さないようにする」

「ほんと頼むぞ、兄さん」

「何度も言わなくても分かってるさ」

「……」

 異能に関しては、和見家の者には話さないように鷹郷さんからも強く言われている。
 武志の言葉がなくても、話すつもりはない。

 ただ、そうすると、問題がひとつ。
 今回の経緯を幸奈に説明するのが難しくなってしまうんだよな。

「……」

 和見家に対しては鷹郷さんが上手く処理してくれるらしいので、それを信用するしかないか。
 ああ、専門家を信じるしかない。
 
 ということで……。

 ひとまずは、武志を無事に家に戻すことができたと。
 今はこの一事で満足するべきなんだろうな。

「……」

 まだ残っているであろう問題は、これから徐々に解決していけばいい。
 もう大きな問題などないはずだから。

 そう、これで……。

 この先に訪れる予定だった武志の悲劇も回避することができた。
 そう考えてもいいはず。
 もちろん、前回の時間の流れの中で武志が亡くなった日はまだ先のことだから、油断はできないし、するつもりもないが。

 それでも、少しばかり気が緩んでしまうのは許してほしい。


「じゃあ、姉さんを呼んでくるから、待っててくれよ」

「……ああ」



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