30年待たされた異世界転移

明之 想

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第6章 移ろう魂編

変化

『……武志だ。姉さんが、姉さんが倒れた…………〇月〇日〇時〇分です』

 なっ!?
 何だって!?

 幸奈が倒れた!!!

 本当に?
 病気か、まさか事故?

『今は駅前の総合病院にいる。姉さんは……意識不明だ…………〇月〇日〇時〇分です』

 意識不明!?

「……」

 一瞬で思考が凍り付く。
 膝に力が入らない。

「……」

 意識不明……。

 膝が震える。

 幸奈が意識不明……。

 立ってられない。




**************

<セレスティーヌ視点>



 コーキさんが仕事でオルドウを出てから数日。
 私の生活は変わりなく穏やかなもの。

 ワディナート脱出からテポレン山越え、テポレン山の地下大空洞と続いた日々に比べると信じられないくらいの平和な毎日が続いている。

 ありがたいことだと思う。
 本当に。

 でも……。

 今もなお厳しい状況にあるワディナート。
 お父様、お母様、お兄様。

 騎士のみんな。
 領兵のみんな。
 領民の……。

「……」

 みんなのことを考えると、胸が痛い。
 私だけ安穏に暮らしていて良いのかと罪悪感を覚えてしまう。

 シアとアル、それにヴァーンさんは、しばらくは楽にしていればいいと私に言ってくれる。
 ワディン領軍が勝つ可能性も十分にあるのだからと。
 そもそも、オルドウで悩んでも仕方がないのだと。

 コーキさんも……。

 だから……。

 だから、今の私は胸の痛みを飲み込んで。
 そして、笑顔で暮らさなければ。
 そう思う。

 思うけど……。


「セレス様、少し変わられましたね」

「……そうかしら」

「はい。少し柔らかく、明るくなられたというか……」

 ずっと被り続けてきた神娘としての仮面が剥がれかかっているのかもしれない。
 立ち居振る舞いも口調も、それに思考まで。

「……」

「わたしは嬉しいです。セレス様との距離が近くなったようで」

「……そうね」

 私もそう思う。
 仮面が剝がれるのも……悪いことじゃない。

「……」

 コーキさんがあの地中で言ってくれた。
 私は私で良いんだと。

 急にそんなこと言われて驚いたし。
 どうして言ってくれたのかも分からなかったけれど。

 嬉しかった。
 心が温かいもので満たされた。

 神娘の私じゃなくてもいい、だなんて。
 今まで考えたこともなかったのに。

「……」

 私はワディンの神娘。
 それを捨てることはできないし、捨てるつもりもない。

 ただ……。

 ずっとその仮面を被っている必要はないのだと。
 そう思えるだけで、こんなに心が軽くなって……。


「もっと気楽に話していただいても。その、わたしは嬉しいだけですので」

 ここはワディン領ではない。
 家にもアルとシアしかいない。

 それなら……。

「考えておきます」

「はい」

「でもね、シア。あなたも楽に話していいのよ」

「わたしは無理です。セレス様にそんな」

「あなたの口調が変わったら、私も変わりやすいわ」

「……」

「どう?」

「……少しだけでしたら」

「ええ、それでお願い」

「はい……分かりました」

 シアとのこんな会話ですら心地いい。
 心安らげる時間を過ごしているのだと実感してしまう。

 オルドウに来てからは、ずっと優しい時間ばかり。
 本当に贅沢な時間。

 こんな贅沢で幸せな時間がいつまで……。




 その日の午後。

「セレス様!」

 僅かに弛緩した空気が漂う私の部屋に急いで駆け込んできたシア。
 その様子に空気が引き締まっていく。

「そんなに急いで、どうしたの?」

「それが」

 なんだか胸騒ぎがする。
 予知なんかじゃない、ただの予感だけれど。

「セレス様の護衛騎士の方々が、只今こちらに到着されました!」

 護衛騎士?
 誰が来たの?
 どんな知らせをもって?



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