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第6章 移ろう魂編
カーンゴルムへ 2
カーンゴルムから一時日本に戻った後。
入浴して疲れが取れたと思ったところで聞いた留守番電話のメッセージ。
その瞬間、膝が震えだし、頭が上手く働かなくなり……。
「……」
そこからは、よく覚えていない。
記憶が曖昧だ。
それでも……。
自分のものじゃなくなってしまったような感覚の身体を何とか動かし。
気付いた時には幸奈が搬送されたという病院に到着していた。
冷え冷えとした無機質な廊下。
ただ蛍光灯の光だけを反射している。
そんな廊下を歩く俺の耳に届くのは自分の足音だけ。
他には……何も聞こえない。
この病院に幸奈がいる。
「……」
意識不明……。
幸奈……。
セレス様のように、失う……。
「っ!?」
また膝が震え始めた。
足が上手く動かせない。
「……」
時間遡行は……。
駄目だ。
時間遡行を使っても意味がない。
遡行できるのは2時間だけなんだ。
幸奈にもしものことがあったら……。
手段がない。
もう打つ手がない!
くっ!
幸奈……。
頼む。
お願いだ。
命だけは!
命だけは、何とか……。
病室にたどり着けた。
この中に入ればすべてが分かる。
「……」
怖い。
足が止まってしまう。
けど、早く幸奈の姿を。
無事な姿を!
「……」
震える足と手に鞭打って。
ノック。
応答が、ない!
そんな!
「……」
もう一度。
もう一度、ノックを。
すると。
ドアが開き。
「……何してた?」
武志だ。
「……幸奈は?」
無言で室内へと促す武志。
そのまま足を踏み入れると。
病室の中には、武志とそして……。
ベッドに横たわる幸奈。
「……」
その光景を前に、現実感が消えていく。
頭が真っ白になる。
言葉も出てこない。
ただ……。
生きてる?
生きてるよな!
「……」
よかった……。
本当に!!
「幸奈……」
命さえ、命さえ無事なら。
それなら……。
「今まで何してたんだ?」
「……すまない」
「ちっ!」
幸奈が生きていると確認できただけで、心が落ち着いてくる。
周りも見えてきた。
「こんな時に何日も連絡が取れないって、どういうことだよ?」
**************
<ヴァーンベック視点>
「シア、寒くないか?」
「焚火もあるし、平気」
「だったらいいが、寒くなったらいつでも言うんだぞ」
「ありがと、ヴァーン。でも、今は充分暖かいから問題ないと思う。焚火に近づくと熱いくらいだし」
シアの言う通り、この季節は夜もそんなに気温は下がらない。
寒さに震えるということもまずないだろう。
とはいえ、急激に冷え込む場合もあるからな。
「油断はすんなよ」
「うん。暖かいと言っても、昼に比べると随分気温が下がってるしね」
「ああ。この時期、昼は汗ばむほどの暑さになることも多いが、夜はそれなりに冷えるからな」
「ワディンもオルドウも、夜でも暑いくらいなのにね」
「テポレン山の東と西では気候が違うんだよ。オルドウは……そういや最近は暑かったな」
「でしょ」
「けど、まあ、この辺りの夜はこんなもんだ」
「うん」
「とにかく、野営も夜の見張りも初めてなんだ。身体には気をつけろよ」
「うん。身体なんか壊してる場合じゃないし」
「そうだぜ」
俺の言葉に頷いたまま、黙り込むシア。
何か考え事でもしているように一点を見つめたまま身じろぎもしない。
「……」
シアの見つめる先では焚火が穏やかな火を作り続けている。
静寂の中で薪が爆ぜる音だけが耳に響く。
「……」
こうして焚火を眺めるのも久しぶりだ。
そう言えば、野営をするのはいつ以来だ?
最近はオルドウの周辺での仕事ばかりだったからな。
「……」
昼の熱気を含んだ重い空気とは違い、テポレン山から吹き下ろしてくる軽い風が頬に心地いい。
慌ただしく始まった旅の疲れを癒してくれるようだ。
傍らで共に不寝番を務めるシアも……。
「……」
焚火の柔らかな光。
それに照らされたシア。
テポレンから吹く爽やかな風。
「……」
こうして、シアとふたりで見張りを担当するのも悪くない。
こちらに気を遣って、シアと組ませてくれたセレスさんには感謝だな。
「何を考えているの?」
「こういうのも久しぶりだなと」
「ヴァーン……ごめんね。こんな危険な事に付き合わせてしまって」
「それはもう済んだ話だ。それに、引き受けると決めたのは俺だからな」
「でも……」
「いいんだよ。シアのことも心配だったし」
「えっ! わたしの?」
「そうだ」
恥ずかしそうに顔を背けるシア。
その頬は焚火に照らされて。
「……」
あぁ。
何だよ、それ。
さっきから、ほんと、調子が狂うぜ。
「……まっ、気にすんな」
「うん……。うん!」
「……」
どうかしてるな。
今も、昨日も……。
入浴して疲れが取れたと思ったところで聞いた留守番電話のメッセージ。
その瞬間、膝が震えだし、頭が上手く働かなくなり……。
「……」
そこからは、よく覚えていない。
記憶が曖昧だ。
それでも……。
自分のものじゃなくなってしまったような感覚の身体を何とか動かし。
気付いた時には幸奈が搬送されたという病院に到着していた。
冷え冷えとした無機質な廊下。
ただ蛍光灯の光だけを反射している。
そんな廊下を歩く俺の耳に届くのは自分の足音だけ。
他には……何も聞こえない。
この病院に幸奈がいる。
「……」
意識不明……。
幸奈……。
セレス様のように、失う……。
「っ!?」
また膝が震え始めた。
足が上手く動かせない。
「……」
時間遡行は……。
駄目だ。
時間遡行を使っても意味がない。
遡行できるのは2時間だけなんだ。
幸奈にもしものことがあったら……。
手段がない。
もう打つ手がない!
くっ!
幸奈……。
頼む。
お願いだ。
命だけは!
命だけは、何とか……。
病室にたどり着けた。
この中に入ればすべてが分かる。
「……」
怖い。
足が止まってしまう。
けど、早く幸奈の姿を。
無事な姿を!
「……」
震える足と手に鞭打って。
ノック。
応答が、ない!
そんな!
「……」
もう一度。
もう一度、ノックを。
すると。
ドアが開き。
「……何してた?」
武志だ。
「……幸奈は?」
無言で室内へと促す武志。
そのまま足を踏み入れると。
病室の中には、武志とそして……。
ベッドに横たわる幸奈。
「……」
その光景を前に、現実感が消えていく。
頭が真っ白になる。
言葉も出てこない。
ただ……。
生きてる?
生きてるよな!
「……」
よかった……。
本当に!!
「幸奈……」
命さえ、命さえ無事なら。
それなら……。
「今まで何してたんだ?」
「……すまない」
「ちっ!」
幸奈が生きていると確認できただけで、心が落ち着いてくる。
周りも見えてきた。
「こんな時に何日も連絡が取れないって、どういうことだよ?」
**************
<ヴァーンベック視点>
「シア、寒くないか?」
「焚火もあるし、平気」
「だったらいいが、寒くなったらいつでも言うんだぞ」
「ありがと、ヴァーン。でも、今は充分暖かいから問題ないと思う。焚火に近づくと熱いくらいだし」
シアの言う通り、この季節は夜もそんなに気温は下がらない。
寒さに震えるということもまずないだろう。
とはいえ、急激に冷え込む場合もあるからな。
「油断はすんなよ」
「うん。暖かいと言っても、昼に比べると随分気温が下がってるしね」
「ああ。この時期、昼は汗ばむほどの暑さになることも多いが、夜はそれなりに冷えるからな」
「ワディンもオルドウも、夜でも暑いくらいなのにね」
「テポレン山の東と西では気候が違うんだよ。オルドウは……そういや最近は暑かったな」
「でしょ」
「けど、まあ、この辺りの夜はこんなもんだ」
「うん」
「とにかく、野営も夜の見張りも初めてなんだ。身体には気をつけろよ」
「うん。身体なんか壊してる場合じゃないし」
「そうだぜ」
俺の言葉に頷いたまま、黙り込むシア。
何か考え事でもしているように一点を見つめたまま身じろぎもしない。
「……」
シアの見つめる先では焚火が穏やかな火を作り続けている。
静寂の中で薪が爆ぜる音だけが耳に響く。
「……」
こうして焚火を眺めるのも久しぶりだ。
そう言えば、野営をするのはいつ以来だ?
最近はオルドウの周辺での仕事ばかりだったからな。
「……」
昼の熱気を含んだ重い空気とは違い、テポレン山から吹き下ろしてくる軽い風が頬に心地いい。
慌ただしく始まった旅の疲れを癒してくれるようだ。
傍らで共に不寝番を務めるシアも……。
「……」
焚火の柔らかな光。
それに照らされたシア。
テポレンから吹く爽やかな風。
「……」
こうして、シアとふたりで見張りを担当するのも悪くない。
こちらに気を遣って、シアと組ませてくれたセレスさんには感謝だな。
「何を考えているの?」
「こういうのも久しぶりだなと」
「ヴァーン……ごめんね。こんな危険な事に付き合わせてしまって」
「それはもう済んだ話だ。それに、引き受けると決めたのは俺だからな」
「でも……」
「いいんだよ。シアのことも心配だったし」
「えっ! わたしの?」
「そうだ」
恥ずかしそうに顔を背けるシア。
その頬は焚火に照らされて。
「……」
あぁ。
何だよ、それ。
さっきから、ほんと、調子が狂うぜ。
「……まっ、気にすんな」
「うん……。うん!」
「……」
どうかしてるな。
今も、昨日も……。
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