30年待たされた異世界転移

明之 想

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第6章 移ろう魂編

急転 6

<セレスティーヌ視点>


「セレス様……」

「がっかりさせて、ごめんなさい」

「いえ、そんな! 謝らないでください。思い出されただけで、わたしは嬉しいですから」

「わたくしもそう思います。それに、こうして思い出されたのですから、少しずつセレスティーヌ様の記憶も完全なものに戻っていくはずです」

「ディアナの言う通りですよ。きっとすぐに戻りますって」

「……」

 シアさん、ディアナさん、ヴァーンさんの気遣いがありがたくて。
 でもやっぱり、申し訳ない気持ちが生まれてしまう。

「ところで、セレスさん。その話し方やめませんか。なんか調子狂っちまうんで」

「ヴァーン!」

「きさま!」

「シアもディアナもそう思ってんだろ。それに、こういうのは形からってのが大事なんだぜ」

「……」

「セレスさんが前の口調で話せば、きっちり記憶も戻るんじゃねえのか」

 ヴァーンさんの言う通りかもしれない。

「あの、すぐには難しいですけど、少しずつ以前のかたちに戻していきますね」

 前の話し方はよく思い出せない。
 ただ、ここは自分から動かないと。

「セレス様……無理はなさらないでくださいね」

「シアさん、ありがとう。それで……」

 まだ実感はないのだけれど、気になることが。

「父は無事なのでしょうか?」

「はい。かなり疲弊されてはいましたが、ご無事です」

「では、今は元気にこちらで?」

「それが……。セレス様がお眠りになられている間に、先にワディンの方に戻られまして。今はその旅路の途中かと」

「……そうだったのですね」

「はい」

 ここにはいない。
 それでも、無事なら。

「ところで、セレスティーヌ様。今後のことですが」

「ディアナさん、その話は後にしませんか」

「いや、可能な時に話だけでもしておいた方がいい」

「セレス様は本調子ではないのですよ」

「……」

「後にしましょう」

 シアさんがわたしの体調を気遣って、話を止めてくれる。
 でも。

「シアさん、わたしは平気です」

「ですが」

「大丈夫ですから。ディアナさん、話してください」

「……はい。実は問題がありまして」

「問題とは何でしょうか?」

「この村の安全性です。今はまだ安全ですが、それもいつまで保つか分かりません。レザンジュ側も動き出していますので」

「……」

「ですので、できるだけ早くワディンに向けて移動していただければと」

「いつ出発すれば?」

「明日にでも」

 ディアナさんの話によると、眠ったままの状態でもわたしを移動させるべきだと考えていたらしい。こうして意識が戻ったのなら、なおさらということだ。

「セレス様……」

 シアさんをはじめ、全員がわたしの言葉を待っている。

「分かりました。明日、ここを発ちましょう」

 まだ知識も情報も曖昧な状態で、事を判断するなんてできないわたし。
 それなら、皆さんが良いと考えていることに従うだけ。

「ディアナさん、出発はセレス様の明日の容態次第ですよ」

「もちろんだ、シア殿」

 わたしの体調次第ではあるけれど、明日の朝にこの村を発って故郷であるワディンの地へと出発することが決定した。




******************




 幸奈の病室を初めて訪れた日。
 不甲斐なくて、情けなくて、心が痛くて……。

 どうしようもなく、自分のことが嫌になったあの日。

 あの日以来、自分を許せないまま。
 それでも、毎日幸奈のもとに通っている。

「……」

 そんな俺の目の前にいる幸奈。
 初日から全く変化は見られず。
 目を覚ます素振りもない。

 だから……。

 俺は自分にできる全ての治療を試し、あとはただ。
 ただ、幸奈のそばで座っているだけ。



「兄さん、どうしたんだ?」

「ああ、少し考え事をな」

 幸奈の病室では、武志とふたりになることが多い。
 必然、武志と話をする時間も多くなる。

 なので、武志とは色々な話をした。
 お互いの知らないことも。
 とにかく、たくさんの話を……。

 そのおかげか、ここ数日で武志との距離はかなり縮まったと思う。
 疎遠だった数年の時間も少しは取り戻すことができたかな。

「身体、大丈夫なのか?」

「問題ない。武志こそ、無理しすぎるなよ」

「それ、こっちのセリフだって」

「……」

 とにかく、日本での俺は病室と自室で過ごすばかり。
 ただ時間だけが過ぎていく日々だ。

 あちらの世界、ウィルさんの方はというと……。

 病室を訪れる合間に一度だけカーンゴルムに戻り、ウィルさんに護衛契約の解除を許してもらった。

 急用ができたので今すぐオルドウに戻りたいと話をしたところ、詳しい事情も聞かず快く許可してくれたウィルさん。
 突然のことだったのに、こちらの心配までしてくれた。

 オルドウの夕連亭に戻るまで護衛をする約束だったのに……。

 本当にありがたい。
 そして、申し訳ない。

 けど、今は。
 今は幸奈のもとを離れたくないんだ!




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