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第6章 移ろう魂編
急転 8
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記憶の中の幸奈。
思い出す表情は、いつも同じ。
俺の前では、幸奈は元気で屈託のない笑顔ばかりを見せてくれた。
ほとんどがその姿。
だから、想像もしていなかった。
酷い家庭環境で幸奈が育っていたなんて。
幸奈の悩みも苦しみも。
もちろん、この腕の傷も。
こんなことまで!
「幸奈……」
幸奈の本当の苦悩は分からない。
今は想像するしかない。
ただ、それでも……。
……。
……。
ああ、もうこんな時間か。
日も随分と高くなっている。
窓からさす夏の強い日差しが、幸奈の寝顔に当たりそうだ。
暑いよな。
少しカーテンを引こうな。
カーテンの手前には、白い百合の入った花瓶。
一番好きなのは紅梅だといつも言っていたけど、百合も好きだった幸奈。
「幸奈、百合が綺麗に咲いているぞ」
「……」
ん?
水が少ないか。
それに、この茎の状態も。
水切りした方がいいな。
はさみは……売店で買って来るか。
「幸奈、少し待っててくれよ」
急いで階下に降り、売店で鋏を購入。
そのまま部屋に足を向ける。
数えきれないくらい通った通路に階段、エレベーター。
今なら目を瞑っても戻れそうだ。
少し重い幸奈の病室の扉を開け。
いつものように足を踏み入れた俺の目に入ってきたのは……??
「!?」
信じられない眺めに、足が止まってしまう。
何度も目をこすってしまう。
けど、これは現実。
本当の光景!
なら!!
「幸奈……」
座っている!
幸奈がベッドの上に身を起こして、窓の外を眺めている!!
「幸奈……」
治癒魔法を使っても、気を循環させても、何をしても効果がなかった幸奈が!
止まった足が動かない。
言葉も出てこない。
ただ驚きと、そして喜びで!
ああ……。
幸奈がこちらに目を向けた!
間違いない!
目が覚めたんだ!!
「幸奈!」
「……えっ?」
その瞳には驚きの色?
「コーキさん!?」
「……」
「コーキさんが、どうして?」
何?
「どうしてここに?」
「……」
幸奈が目を覚ました。
意識を取り戻した。
こんなに嬉しいことはない!
心からそう感じる。
安堵という言葉を身体中で体感してしまう。
ただ……。
「どうしてここに?」
コーキさん?
どうしてここに?
「……」
幸奈、何を言ってるんだ?
僅かな時間に生まれる幾つもの感情に、また思考が止まりそうになる。
そんな俺の前で幸奈がベッドから降り、すぐ横の窓際に。
その足下はおぼつかない。
当然だ。
何日もベッドの中にいたのだから。
って、そうじゃないだろ。
急いで駆け寄り、幸奈の手を取る。
「あっ、ありがとう」
「いきなり歩いて大丈夫か?」
「ちょっとフラフラしますけど、平気です」
「そうか……」
歩けるのか。
ずっと目を覚まさなかった幸奈。
そんな幸奈が、自分の足で立ち上がり歩いている。
「……」
もちろん、今も心配だ。
疑問も心に残っている。
けど、何よりもほっとしてしまう。
喜びで顔が……。
っ!
表情も思考も落ち着かない!
「ちょっと外を見てもいいですか?」
「……ああ」
俺の手を取ったまま窓際に立ち、外を眺めている。
「やっぱり……。やっぱり……」
目には驚きと喜び?
病室の外を、そんな表情で夢中になって眺めている幸奈。
「……」
まだ、分からないことが多い。
それでも!
よかった!
本当に良かった!
こうして目を覚ましてくれて。
そんな表情を浮かべてくれて。
「……」
目を覚ました後に幸奈が浮かべるであろう表情。
いろいろと想像した表情は、辛そうなものばかりだった。
けど、今はそのどれとも違う。
俺の想像外の表情。
ただ、今は笑顔を!
それだけで俺は……。
「……」
でも、どうして窓の外がそんなに面白いんだ?
それが長い眠りから覚めた直後に取る行動なのか?
ちょっと理解できない。
それに、口調も?
声音は同じなのに、以前とは異なる口調のような?
いったい?
少し冷静さが戻って来ると、違和感を覚えてしまう。
「……」
ただ、楽しそうに外を眺める幸奈の瞳に憂いはない。
濁りのない、純粋な目。
この眠りで何かが変わってしまった?
それとも、ただ混乱しているだけ?
「……」
「あっ、ごめんなさい」
「いや……」
「でも、コーキさんがそばにいるのに……。つい夢中になってしまって」
「いいんだ。いいんだよ」
「……はい」
とりあえず、今は元気な姿を見れるだけで充分。
「でも、どうして私がこんな場所にいるのでしょう? コーキさんも?」
「……ずっと眠っていたんだ」
「私が眠って? ずっと?」
「そう。それで、今やっと目覚めたんだよ」
「……」
「病室で目覚めたんだ、幸奈は」
「……ゆきな?」
どうした?
「……」
「何を言ってるの、コーキさん?」
*************************
もうひとつの投稿作『令嬢連続誘拐事件』が完結いたしました。
14000字程度の短い作品になりますが、
手にとっていただければ幸いでございます。
思い出す表情は、いつも同じ。
俺の前では、幸奈は元気で屈託のない笑顔ばかりを見せてくれた。
ほとんどがその姿。
だから、想像もしていなかった。
酷い家庭環境で幸奈が育っていたなんて。
幸奈の悩みも苦しみも。
もちろん、この腕の傷も。
こんなことまで!
「幸奈……」
幸奈の本当の苦悩は分からない。
今は想像するしかない。
ただ、それでも……。
……。
……。
ああ、もうこんな時間か。
日も随分と高くなっている。
窓からさす夏の強い日差しが、幸奈の寝顔に当たりそうだ。
暑いよな。
少しカーテンを引こうな。
カーテンの手前には、白い百合の入った花瓶。
一番好きなのは紅梅だといつも言っていたけど、百合も好きだった幸奈。
「幸奈、百合が綺麗に咲いているぞ」
「……」
ん?
水が少ないか。
それに、この茎の状態も。
水切りした方がいいな。
はさみは……売店で買って来るか。
「幸奈、少し待っててくれよ」
急いで階下に降り、売店で鋏を購入。
そのまま部屋に足を向ける。
数えきれないくらい通った通路に階段、エレベーター。
今なら目を瞑っても戻れそうだ。
少し重い幸奈の病室の扉を開け。
いつものように足を踏み入れた俺の目に入ってきたのは……??
「!?」
信じられない眺めに、足が止まってしまう。
何度も目をこすってしまう。
けど、これは現実。
本当の光景!
なら!!
「幸奈……」
座っている!
幸奈がベッドの上に身を起こして、窓の外を眺めている!!
「幸奈……」
治癒魔法を使っても、気を循環させても、何をしても効果がなかった幸奈が!
止まった足が動かない。
言葉も出てこない。
ただ驚きと、そして喜びで!
ああ……。
幸奈がこちらに目を向けた!
間違いない!
目が覚めたんだ!!
「幸奈!」
「……えっ?」
その瞳には驚きの色?
「コーキさん!?」
「……」
「コーキさんが、どうして?」
何?
「どうしてここに?」
「……」
幸奈が目を覚ました。
意識を取り戻した。
こんなに嬉しいことはない!
心からそう感じる。
安堵という言葉を身体中で体感してしまう。
ただ……。
「どうしてここに?」
コーキさん?
どうしてここに?
「……」
幸奈、何を言ってるんだ?
僅かな時間に生まれる幾つもの感情に、また思考が止まりそうになる。
そんな俺の前で幸奈がベッドから降り、すぐ横の窓際に。
その足下はおぼつかない。
当然だ。
何日もベッドの中にいたのだから。
って、そうじゃないだろ。
急いで駆け寄り、幸奈の手を取る。
「あっ、ありがとう」
「いきなり歩いて大丈夫か?」
「ちょっとフラフラしますけど、平気です」
「そうか……」
歩けるのか。
ずっと目を覚まさなかった幸奈。
そんな幸奈が、自分の足で立ち上がり歩いている。
「……」
もちろん、今も心配だ。
疑問も心に残っている。
けど、何よりもほっとしてしまう。
喜びで顔が……。
っ!
表情も思考も落ち着かない!
「ちょっと外を見てもいいですか?」
「……ああ」
俺の手を取ったまま窓際に立ち、外を眺めている。
「やっぱり……。やっぱり……」
目には驚きと喜び?
病室の外を、そんな表情で夢中になって眺めている幸奈。
「……」
まだ、分からないことが多い。
それでも!
よかった!
本当に良かった!
こうして目を覚ましてくれて。
そんな表情を浮かべてくれて。
「……」
目を覚ました後に幸奈が浮かべるであろう表情。
いろいろと想像した表情は、辛そうなものばかりだった。
けど、今はそのどれとも違う。
俺の想像外の表情。
ただ、今は笑顔を!
それだけで俺は……。
「……」
でも、どうして窓の外がそんなに面白いんだ?
それが長い眠りから覚めた直後に取る行動なのか?
ちょっと理解できない。
それに、口調も?
声音は同じなのに、以前とは異なる口調のような?
いったい?
少し冷静さが戻って来ると、違和感を覚えてしまう。
「……」
ただ、楽しそうに外を眺める幸奈の瞳に憂いはない。
濁りのない、純粋な目。
この眠りで何かが変わってしまった?
それとも、ただ混乱しているだけ?
「……」
「あっ、ごめんなさい」
「いや……」
「でも、コーキさんがそばにいるのに……。つい夢中になってしまって」
「いいんだ。いいんだよ」
「……はい」
とりあえず、今は元気な姿を見れるだけで充分。
「でも、どうして私がこんな場所にいるのでしょう? コーキさんも?」
「……ずっと眠っていたんだ」
「私が眠って? ずっと?」
「そう。それで、今やっと目覚めたんだよ」
「……」
「病室で目覚めたんだ、幸奈は」
「……ゆきな?」
どうした?
「……」
「何を言ってるの、コーキさん?」
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もうひとつの投稿作『令嬢連続誘拐事件』が完結いたしました。
14000字程度の短い作品になりますが、
手にとっていただければ幸いでございます。
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