30年待たされた異世界転移

明之 想

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第6章 移ろう魂編

エビルズピーク 2

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<剣姫イリサヴィア視点>



「こっちもイリサヴィアさんと同じです。成果はありませんね」

「そのようだな」

「これまで手応えのある魔物と遭遇したのは2度」

「……」

「そのどちらも単体でしたので楽に倒すことができましたが、手掛かりという点ではからっきしですよ」

 今回同行しているメルビンという2級冒険者。 
 山に入って数度の戦闘を目にしただけ、実力を隠そうとするきらいもある。
 それでも、私の目に映る彼の実力は明らか。
 普段の穏やかな物腰や言動からは想像しがたいほどの腕を持っている。

「困ったことです」

 彼が率いる冒険者集団もなかなかのもの。
 とても3級冒険者中心の編成とは思えない。
 魔物との戦いでも、統率の取れた良い動きをしていた。

 黒都の冒険者ギルドが指名したのも頷けるというものだ。

「ほんと、あの2頭以外はただ魔物を倒すだけの単純作業でしたし」

「……貴君らの仕事は、魔物を倒すことではないからな」

 ミッドレミルト山脈の周辺で起こっている魔物の奇妙な行動。
 その原因を探ることが彼らの仕事。

「その通りです。有象無象の魔物と戦っても大して意味はないんですよね」

「……」

 多くの魔物と遭遇することで原因を探れるという考えもあるが。
 実際は、そう単純なものでもない。

「今回はミルト、エビルズピーク周辺の異状調査。とにかく、原因を調べなくちゃいけません」

「……範囲が広すぎるのではないか?」

「イリサヴィアさんでも広いと感じるんですね」

「そこは、誰でも同じであろう」

 ミルト山だけでも途方もない広さだというのに、さらにエビルズピークまで調べて原因を突き止めるというのだからな。

 とまれ、尋常一様の調査ではない。
 率直に言わせてもらうと。

「達成は難しい、か」

「ええ、私としても完璧な調査は無理だと考えています。ですので、原因の一端でも見つけることができればと」

「ああ」

 それで充分だ。

「ただ、現状はさっぱりです」

「……」

「この辺りも僅かに異状を感じますが、あくまでその程度で。原因など全く分かりませんから」

 多少魔物が多い程度。
 強力な魔物にも遭遇していない。

 とはいえ、ギルドで聞いた話が本当ならば、そうそう油断もできないはず。

「前任者が戻らなかったというのは事実かな?」

「事実でしょうね。調査から戻っていない冒険者がいるのは確実ですし」

「……それなりの魔物が出るということか」

「どのレベルかは分かりませんが、そこそこ強力であることは間違いないようです」

「……苦労しそうだな」

「はは。イリサヴィアさんは他人事のように言われますが、これは貴方の仕事でもあるんですよ」

「……そうであったな」

 辺境伯追跡を優先することに変わりはない。
 それでも、この調査。
 私も手を貸すことになっている。

「忘れないでくださいね」

「うむ……。まあ、今のところ貴君らだけで充分であろう」

「それは、そうなんですけどね」

 こういう話が出るくらい今は余裕がある。
 メルビンも他の冒険者も警戒はしているものの緊張感など見られない。

「ところで、イリサヴィアさん」

「何だ?」

「我々は貴君なんて柄じゃないですから」

「……」



 そんな状況のまま時間が進み。
 2日目の調査も終了。

 今夜もまた少し開けた場所で野営の準備をしていると。
 前方の茂みの先から不穏な空気が?

「……」

 結構な魔物が現れそうだ。

「メルビン、気付いているな?」

「ええ、これは大物ですね」

 離れていても感じるこの威圧感。
 これまで遭遇した魔物とは明らかに異なっている。

「皆、態勢を整えるんだ!」

「メルビンさん、魔物か?」

「ああ、今回はちょっと厄介な相手だぞ」

「それは楽しみだ。やっと力を出せるってよ」

「ホントだぜ」

 まだまだ余裕がありそうだが、この魔物が現れても平気な顔でいられるかな。
 さあ、来たぞ!

「グロロゥゥ!」

「グルルゥ!」

「っ!?」
「ブラッドウルフ!」
「ブラッドウルフが2頭かよ!」

「マズいか?」
「……」

 赤茶色の毛並み、血のように紅い眼。
 間違いない。
 ウルフ系の上位種、ブラッドウルフ。

 しかも、2頭ともかなりの大きさ。
 成人2人分程度の体長がある。

 なかなかの相手だな。


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