30年待たされた異世界転移

明之 想

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第6章 移ろう魂編

蒼鱗の天魔 13


 それからの戦いは、こちらが消耗するだけのものだった。

 怪物の攻撃を避けては魔法を放ち、剣撃を浴びせる。
 放つ魔法は全て異なるもの。そいつを体中に放ってやり、剣も様々な部位に打ち付けてやった。

 けれど……。

 結果はやはり、浅い傷を体表に作る程度。
 魔法と剣撃で与えることができたのは、ただそれだけ。
 気を使った攻撃も一度試してみたが、効果は見えず。

 全ての攻撃を終えてなお、鱗一枚削ることすら叶わなかった。

「……」

 もちろん、あいつの内臓に損傷を与えている可能性も無いとは言えない。
 が、その兆候が全く見えない現状では、期待することなどできないだろう。

 だたし、悪いことばかりでもない。
 敵の攻撃も、こっちに大きな被害を与えることができていないんだ。

 剣姫と俺が喰らった攻撃はかすったようなものばかり。
 さすがに、かすったぐらいでは大きなダメージになることはない。

 とはいえ、あいつの攻撃は一撃で全てを終わらせる威力を持っている。
 まともに喰らったら……。

 恐怖を抱かせる一撃。
 驚異の攻撃力。

「……」

 まっ、そうだよな。
 ステータス上は俺の2倍の力があるんだから。


 そんな怪物との戦いが続くこと約半刻。
 ようやく今、距離を取って息をついているところだ。

「イリサヴィア様、大丈夫ですか?」

 ここまで戦闘がずっと続いている剣姫には、かなりの疲労があるはず。
 魔法薬で回復済みだと言っても、そう簡単なものじゃない。
 ギリギリの戦いを続けた身体と精神には損耗があって当然。

「問題ない」

「……」

 本当に?
 戦える状態なのか?
 剣姫は持久力も並じゃないと?

「君は?」

「戦えますよ」

 こっちは問題ない。
 神経はすり減っているものの、戦えないほどじゃないからな。

「頼もしいことだ」

「イリサヴィア様こそ」

「ふふ、さっきまで敵だったというのに……」

 まだ笑う余裕がある。
 なら平気なんだろう。

「奇妙なことになったものだな」

「ええ、本当に」

 その原因を作った怪物は?

 悠然とこっちを眺めている。
 休憩中か?

 と?

 怪物の纏う空気に変化が!
 これは、あいつの魔力?

「アリマ?」

「注意してください。何か仕掛けてきます」

 怪物の蒼鱗が強い光を帯び、魔力のようなものが湧き出ている。

「……」

 何をするつもりかは分からない。
 が、簡単にはさせない。
 止めてやる!

「雷撃!」

「グウゥロォォォォ!!!」

 放たれた紫電が怪物に直撃。
 したその瞬間。

「っ!?」

「うっ!?」

 軽い衝撃と共に、光が四散した!
 無数の白い花びらが空を覆い尽くすように、煌々たる白光がエビルズピークを喰らい尽くす。

 視界が途絶え。
 音が消失。

 目眩を覚えてしまう。

「……」

「……」

 数瞬後、戻った視界には。
 目に映ったのは……。

 消えた世界?
 エビルズピークが消えて!!

「何っ!?」

「……」

 いや、目の前に世界は存在している。
 ただ、この世界は?
 この地は?

 今まで踏みしめていたエビルズピークの地じゃない。
 一瞬前までの景色じゃない。

 日は消え。
 木々は消え。
 大地は色を変え。
 空は、青く透き通っていた大空は不気味に濁っている。

 空気が違う。
 さっきまで感じていた風も、全く感じられない。

「これは?」

 風のさざめきも、鳥のさえずりも消えてしまった世界に響くのは、剣姫イリサヴィアの驚愕の声だけ。

「いったい?」

「……」

 鉄錆色とも見える赤茶けた大地。
 植物などは全く存在しない、石と岩だけの荒涼とした大地。

 夕焼けのように赤く染まった空。
 いや、この赤はもっと濁っている。
 不吉な赤だ。

 不気味で質量を感じさせる深紅。
 身体にまとわりついてくるような赤銅色の空。

 そんな奇怪な空間で動いているのは、俺と剣姫のふたりのみ。
 他に動くものなど何も目に入ってこない。

 ただ、傍らには大量の死骸。
 魔物の亡骸が無造作に転がっている。


「アリマ?」

「……分かりません」

 息を飲む剣姫。
 こんな表情を見るのは初めてだ。

「分かりませんが、ここがエビルズピークの地でないことだけは確かでしょう」

「……のようだな」

「あいつも消えてしまいました」

「……うむ」

 そう。
 この不気味で不穏な赤の世界には……。
 エビルズピークの悪意という怪物の姿も見えない。

「君と私だけか」

「ええ」

 赤が支配する世界に存在するのはふたりだけ。
 俺と剣姫のふたりだけだ。









 第6章  完




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