30年待たされた異世界転移

明之 想

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第7章 南部編

急行

 嵐の中、完全に濡れてしまった体で駆け続けていると、前方から奇妙な空気が流れてきた。
 さらに、風雨に混じって異音も?

 強烈な雨風の音が耳朶を叩くばかりで、他の物音などは上手く聞き取れない状態だけれど。
 微かに剣戟と魔法の音が聞こえるような……。

 まさか、戦闘音?
 ローンドルヌ大橋から?

 嫌な予感しかしない。

「……」

 不吉な予感に、駆ける足を緩めてしまう。
 そのまま立ち止まり耳を澄ませるも……。

 嵐にかき消されて上手く聞き取れない。

 それならばと、気配を探ってみるが、あまりの暴風に感知もままならない。

 そんな難しい感知の中、僅かに感じ取れたのは。
 かなりの大人数が前方に集まっているという一点のみ。

 レザンジュ王軍が駐留しているローンドルヌ大橋。
 そこに王軍兵が集まっているということなら、おかしいことじゃないが。

「……」

 この暴風雨の状況で、平常時と同様の警備がなされているとは到底思えない。

 やはり、異常事態なのか?
 だとすると、戦闘が起こっている可能性も十分考えられる。

 ローンドルヌ大橋での戦闘……。

 っ!
 悪い想像しか浮かんでこないぞ。

 こうなるともう、一刻も早く確認するしかないな。
 止めていた足を再び動かし、速度を上げ、街道を北上。
 ローンドルヌ河に向かってひた走る。



 しかし、本当に走りづらい。
 雨もそうだが、この風が特に厄介だ。
 まっすぐ走っていても、右に左に身体が振れてしまう。

 逆風の時は進むのも大変なくらい。
 俺のステータスでこれなんだからな。

 そんな嵐の街道には、人の姿は見えない。
 当たり前か。
 こんな日に出歩くなんて、余程物好きなやつだけだろ。

 ただ、だからこそ、前方に感じる多数の気配を不穏に感じてしまう。


 大橋に近づくにつれ、異様な空気がさらに濃く感じられるようになってきた。
 暴風雨の中、耳に入ってくるこの音も、多数の人の気配も……。

 ほぼ間違いない!
 多数の人が争ってる!

 この極限の天候下で人が争っているなら。
 それは、レザンジュ王軍とワディンの戦闘……。

「……」

 くそっ!
 どうしてだ?
 俺が渡河可能と判断するまでは、待機するはずだったのに?

 指示を待たず、橋を渡ったのはなぜなんだ?
 しかも、こんな嵐の中を。

 いや、嵐だからこそ渡ったのか?
 好機と判断して。
 俺からの手紙投擲は不可能と考えて。

 それで、この戦闘に。
 つまり、敵の罠にはまって!

 ただでさえ、数で劣っている状況で。
 王軍の計略通りに進んでいるとしたら……。


 最悪の胸騒ぎを打ち消すように、ひたすらに駆け続ける。
 すると。
 目の前に、想像が現実として現れてしまった。

「っ!?」

 ローンドルヌ大橋の上に広がる乱戦。
 ワディン側が前後から挟撃されている。
 しかも、敵の兵数は400どころじゃない。
 その3倍はいる!

 こんな兵数、俺は確認していないぞ。
 どこから現れた?

 いや、そんなことより、幸奈は無事なのか!?
 シア、アル、ヴァーンは?

「……」

 けど、これは?
 何かがおかしい。

 暴風雨の中でも、この距離なら分かる。
 気配が違うんだ。

 大橋の上に感知できる兵数は……敵味方合わせても500程度。
 なのに、今目の前に広がる光景は?

 感知と光景が一致しない。
 何が起こってる?

 幻?
 幻術、幻影の類?

 そうか。
 トゥオヴィの能力だ。
 彼女は幻術に近い魔法を使えたんだ。

 ワディン騎士たちは幻術にはめられたに違いない!

 くそっ!

 露見ばかりに思考が傾いて、魔眼に気を取られて、軽視していた。
 忘れていた。
 
 俺の失態だ!

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