30年待たされた異世界転移

明之 想

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第7章 南部編

子爵邸

<セレスティーヌ視点(姿は和見幸奈)>



 壬生兄の異能攻撃をものともせず、力強く地を蹴った武上君。

「なっ?」

 壬生兄の胸元に飛び込み、そのまま彼を抑え込んだ。

「おまえ、どうして動ける? やめろ!」

「やめるわけねえ!」

「くっ、はなせ!」

「だから、放さねえって。ん、自力で逃げてみるか? って、無理だわなぁ」

「……」

「おまえ、恥ずかしい詠唱を考える暇があんなら、身体を鍛えた方がいいぜ。あっ、二度目は詠唱してなかったな。やっぱり、恥ずかしかったんじゃねえか」

「だ、黙れ! 私は壬生だぞ」

「それが、どうした」

「壬生家にこんなことをして、どうなるか分かってるのか!」

「壬生、壬生、壬生って、うっせえなぁ。子供かよ。もう、眠っとけ」

 呆れたような顔の武上君が一撃を放つ。

「うぅ……」

 すると、胸に拳を受けた壬生兄が簡単に意識を手放してしまった。

「壬生さん!」

「若!」

「あなたたちも眠りたい?」

「「……」」

「大人しくしてればいいのよ」

 ふたりの異能者が、古野白さんの一睨みで沈黙。
 頼もしい。
 ふたりとも、本当に。

「古野白、研究所に連絡頼むわ」

「ええ、分かってるわ。……お疲れ様、武上君」

「おう。さすがに、疲れたぜ」

「あら、これくらいでヒーローって疲れるものなの?」

「……」




********************




「アル、もう終わりか?」

「……まだやれる。もう一本だ!」

「了解」

「いくぞぉ!」

「おう、かかってこい!」

 俺たちが滞在しているトゥレイズ子爵の館。
 その中庭で剣の手合わせをしているのは、アルとヴァーン。
 トゥレイズに到着してからは、毎日のようにここで剣を打ち合わせている。
 ディアナや他の騎士が加わることもあるが、ほとんどの時間はこの2人だけ。
 ずっと2人で鍛錬しているんだ。
 大した向上心だよ。


「コーキさんは参加しないんですか?」

「ええ、まあ」

 俺自身の日課である鍛錬は、朝のうちに済ませてある。
 それに、今は剣より……。

「伯爵様の容態はいかがです?」

 考えなければいけないことが多すぎる。
 伯爵の容態と今後のワディンの方針。
 それによって変わってくる俺たちの今後。
 何より、幸奈とセレス様のことをどう解決するか?

 悩ましいことばかりだ。

 まあ、こうしてゆっくり悩んでいられるのも、トゥレイズで穏やかな時間を過ごすことができているから。エビルズピークやローンドルヌ河では考えられなかったことだな。

「……寝室から出るのは、まだ難しいようです」

「それは心配ですね」

「はい。でも、疲れているだけだと侍医も言ってますので」

 辺境伯のここまでの苦労と心労を考えれば、寝込むのも不思議なことじゃない。
 ただ、ここまで長引くと……。

「……母と兄の消息がつかめないことも、ひとつの原因みたいです」

「……」

 心を痛めているのはセレス様も同じ。
 ここにいるセレス様の中身は幸奈だけれど、今はまるで本物のセレス様のように思考し行動しているのだから。肉親への情もセレス様同様のものがあるはず。

「あの、コーキさんとヴァーンさんは、よろしいのですか?」

「何がでしょう?」

「こうしてトゥレイズに留まっていただいても良いのかと……」

「もちろんです。滞在についてはヴァーンと話をして決めたことですので」

 ヴァーンはシアのもとを離れようとは思っていない。
 俺も幸奈のもとを離れるつもりはない。

「ありがとうございます」

「いえ……」

 問題は、いつまでこの状況が続くか。
 いつ幸奈とセレス様が入れ替われるか。
 それに尽きる。



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