30年待たされた異世界転移

明之 想

文字の大きさ
680 / 1,640
第8章 南部動乱編

テポレン越え

<アル視点>



「キッツイなあ」

「戦闘後だから、しょうがねえ。けどよ、女性陣は文句も言わず歩いてんだぞ。弱音を吐いてる場合じゃねえなぁ、アル」

「弱音じゃない。ただ、ちょっと、そう思っただけだろ」

「なら、頑張れ」

「……分かってる」

 王軍を叩きのめしたという高揚感が足を軽くしてくれるものの、やっぱり無視できない程の疲労を感じてしまう。トゥレイズ城塞を脱出してからずっと緊張感のある時間が続いているんだから当然といえば当然だけど。

「……」

 しっかし。
 またミッドレミルト山脈かぁ。
 少し前にエビルズピークで大変な目に遭ったばかりなのに、こんなに早く戻ってくるなんて想像もしてなかったよなぁ。

「アル、体は大丈夫なの?」

「……問題ないよ。姉さんこそ、どうなのさ?」

「わたしは平気」

 ヴァーンさんの言う通りだ。
 姉さんが頑張っているのに、おれひとり疲れた顔を見せるわけにはいかないな。

「それに、もうすぐ今日の登山も終わりでしょ。そうよね、ヴァーン」

「ああ。日も傾いてるし、そろそろ野営の準備じゃねえか」

「ねっ。だから、大丈夫」

 そろそろ終わり。
 だったら、何の問題もない。

「アルも体が平気なら、あと少しだけ頑張りなさいよ」

「こっちは、さっきから問題ないって言ってんだろ」

「そう?」

「そうだよ」

 姉さん、なんで笑ってんだ。
 ホント、いつまでも子供扱いして!
 おれはもう冒険者で剣士だっての!


「でも、そうかぁ。今夜はテポレン山で野営するのね」

「どうした、シア? 山での野営はもう何度も経験してんだろ?」

「そうなんだけど……」

 ヴァーンさん、分かってねえなぁ。
 テポレン山については、ちょっと特別な思いがあるんだよ。
 そこは、何度通っても変わらないんだって。

「アル?」

「ん……こうやってテポレン山を越えてオルドウに向かうなんてさ」

「……」

「あの時は思ってもいなかったよな、姉さん」

 常夜の森とテポレン山との境界でセレス様を待っていた時。
 ダブルヘッドとの激闘を経験したあの時。

 テポレン山を上ってセレス様を迎えに行く力なんて持っていなかった。
 コーキさんに任せるしかなかった。
 ただ待つことしかできなかったあの日の思い、今も鮮明に覚えている。

「……本当ね」

 あの時果たせなかったテポレン越え。
 まさか、こんな状況で経験するなんて。

 嬉しいような、寂しいような、哀しいような。
 何とも言えないよなぁ。

 その思いは姉さんも同じだろ?

「……」

 ただ、今回のテポレン越え。
 そんなおれたちの思いより、セレス様が……。

 今は少し離れてコーキさんと一緒に歩いているセレス様。
 とにかく、表情が晴れてくれない。

 こうして振り返って様子を見ても……。
 やっぱり、元気がない。

 とはいえ、この数日間で少しはましになってきたのか?
 だといいんだけど。

「……」

 今考えれば、トゥレイズ城塞から脱出した当初なんかは最悪の雰囲気だった。
 セレス様も騎士のみんなも口をつぐんだまま、ただ足を動かすだけ。
 まるで葬送行列のような歩みがずっと続いていたものだ。

 それに比べれば、今は空気も随分よくなったと思う。
 特に騎士連中なんかはそう。
 みんな少なくない怪我を負っているし、疲労困憊もしているはずなのに……。

 レザンジュの追手を何度も撃退したという事実が、勇気と自信、それに活力を与えてくれているんだろうな。

 ただ、その中で。
 セレス様の表情だけは晴れない。


感想 11

あなたにおすすめの小説

ひだまりのFランク冒険者

みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。 そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。 そんな中 冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。 その名は、リルド。 彼は、特に何もない感じに毎日 「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。 この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!

TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。 その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。 競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。 俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。 その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。 意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。 相変わらずの豪華客船の中だった。 しかし、そこは地球では無かった。 魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。 船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。 ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ…… 果たして、地球と東の運命はどうなるの?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…