30年待たされた異世界転移

明之 想

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第8章 南部動乱編

盗み聞き

 気配感知では、人の身体から発する視認できない物質を探知することで特定者の状態を探ることができる。強力な魔物や魔法使い、剣士などの感知が容易なのは彼らが纏う魔力や剣気が尋常ではないからだ。

 ここ日本でも、それは同じ。
 ただし異能を特徴づける気を判別するのが難しいため、異能者の感知は難度が高くなってしまう。

 とはいえ、これまで多くの異能者を感知した経験から、異能者感知精度が多少向上しているのも事実。


「コーキさんが知っている異能者でしょうか?」

「……この2人には会ったことがないと思います」

「未知の異能者」

「ええ。しかも、実力者みたいですね」

「そんな異能者が2人。あの父と何を話しているのでしょ?」

「すみません。感知で会話を探ることまでは」

「あっ、ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったんです」

「いえ。こちらこそ、大口を叩いておきながら何も分からずじまいで」

「そんなことないです。コーキさんのおかげで、異能者2人が訪れているって分かりましたから」

「……」

 訪問者2人が力のある異能者だと探ることはできた。
 ただ、だからといって、どうなんだというと……。

 単に異能者が和見家を訪れているという事実だけじゃないか。
 これでは、動きようがない。

「十分な収穫です」

 セレス様は俺を気遣ってそう言ってくれるが。
 どう考えても、十分ではないよな。

 和見の家に近づけば状況を理解できるという考えは甘かったか。

「でも、この後はどうしましょう?」

 何をすべきか?
 こちらを見上げ問いかけてくるセレス様。

「古野白さんと武上君の到着を待ちます?」

「……」

 このまま何もせず待つというのも1つの手ではある。
 ただ、さすがに今の情報じゃ足りないだろ。
 ここで可能な限り調べておいた方がいい。

「……少し待機していてもらえますか?」

「コーキさん、何を?」

「屋敷の壁に近づいて中の様子を窺ってきます」

「そんな! 危なく……はないのですね?」

「ええ。危険はありません」

 この程度、何の危険もないはず。

「ただ、敷地内への侵入を知られるとまずいです」

「だったら、私も一緒に?」

 確かに、セレス様と一緒なら言い訳も可能だ。
 それでも。

「いえ、まずはひとりで何とかしますので。セレス様はここで少しだけお待ちください」

「……」

 心配そうに見つめるセレス様を和見邸の傍らの路上に待たせたまま、一足で塀を越え敷地の中へ。気配を消して外壁に接近。強化した聴力で内部の音を拾うと……。


『10日……よろしい……?』

『問題ありま……進めま……』

『今度こそ、お願い……』

『……』

 何とか聞き取れるが、不明瞭な音が多い。
 なら、外壁に耳をつけ。
 さらなる聴力強化を。

『これ以上は我慢できませんので』

『ふむ』

 よし。
 はっきり聞こえるぞ。

『それは命令ですか?』

『っ! 違います!」

「……」

『あくまで、こちらの心情を述べただけです』

『そうですか』

『ええ』

『……』

『……』

『では、10日後に決行ということでよろしいですな?』

『……いいでしょう』

『決行日までは静観を?』

『ふむ。あなたも大人しくしていてください』

『……分かりました』

『それでは』

『ええ、また10日後に』

 屋内の声が途絶えた。
 会談が終わったのか?

『……』

『……』

 やはり、声は聞こえてこない。
 会談は終了したようだ。

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