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第8章 南部動乱編
宴
剣姫とメルビンたちを麓まで案内した俺とミレンさん。
その後の山道でも特に問題はなく、日が暮れる前にはエンノアに戻ることができた。
ふたりでエンノアの地下に入る直前。目に入ってきた薄暮のテポレン山頂はとても穏やかで、日中の苛烈な戦闘など存在しなかったかのように感じてしまう。
早朝からの業を忘れるほどに平和で穏やかな空間。
「……」
このような大自然の静謐な美しさを前に複雑な感慨が込み上げてくるのも仕方のないことだと思う。本当に……。
「コーキ殿、入りましょうか」
「……ええ」
朝夕の対照的な現実を目にして僅かに心が乱れてしまったけれど、そんなものはエンノアの地下に入ると、あっという間に霧散してしまった。
戦場の片づけを終えたエンノアとワディンの皆が宴の準備をして、満面の笑みで俺たちを迎えてくれたからだ。
トゥレイズ城塞を脱出してから今朝まで続いていた彼らの悲壮な空気が一変。
底の抜けたような皆の笑顔に、諸々の感慨など忘れ嬉しくなってしまう。
ただ……。
今日の戦闘で勝利を収めたからといって、王軍が消滅するわけではない。
麓にもトゥレイズにも領都にも、いまだ多くのレザンジュ軍兵が待機しているはず。
明日また攻め寄せてくる可能性もないとは言えない。
気を緩めていい状況じゃない。
でもまあ、少しくらいは今日の勝利を祝ってもいいよな。
偵察隊の報告によると、王軍に再進攻の兆候はないとのことだし。
ずっと緊張状態が続いてきたワディン騎士とエンノアには緩和も必要だろうから。
ということで、ささやかな宴が行われることになったんだ。
「最高だな!」
「おう!」
「こんな嬉しい宴はねえって!」
「仇を打ってやったぜ」
「ああ、同胞の恨みを晴らしてやった」
「散った皆も喜んでくれるはずだ」
「王軍の逃げっぷりったらねえよな」
「1万が100に負けたんだぜ」
「歴史的な大勝だな」
「はは、ははは!」
「ぎゃはは!」
豪華な食材はない、酒もない質素な宴。
それでも、皆は戦勝の興奮に身を任せて十分に楽しんでいる。
ワディンにとってもエンノアにとっても、王軍を自らの手で撃退したという事実は何物にも代えがたい最高の肴。そういうことなんだろう。
ささやかながら賑やかな宴。
そんな中、幸奈だけは心ここにあらずといった様子。
「……」
宴の間に何度か話しかけてみたものの、返ってくるのは空返事のみだった。
時折見せる笑顔も、どこか翳りがあるような……。
まあ、戦争というものを初めて目の当たりにしたんだ。
思うところもあるだろうし、心から楽しめる心境じゃないのも理解できる、か。
外見はセレス様でも中身は生粋の日本人なのだから。
*********************
<和見幸奈視点(姿はセレスティーヌ)>
レザンジュ王軍との戦いに勝利した夜。
わたしとシアさんはエンノアの皆さんに与えられた寝室で身体を休めようとしていたのだけれど……。
「セレス様、眠れないのですか?」
「シアさんこそ」
「わたしは……まだちょっと興奮しているみたいです」
興奮?
そうね。
「今日は大変な一日だったから」
昼の戦闘に夜の宴。
シアさんに高揚が残っているのも無理はない。
「……勝てて良かったです。こうしてセレス様と夜を迎えることができて」
「ええ……」
「本当はわたし……勝利を信じても、信じようとしても心配で」
「……」
1万もの王軍との戦いを心配するのは当然。
勝てないのではと考えるのも当然。
きっと皆も同じ思いだったはず。
心から勝利を信じていた者など、ほとんどいなかったと思う。
この勝利は奇跡に近いものなのだから。
その後の山道でも特に問題はなく、日が暮れる前にはエンノアに戻ることができた。
ふたりでエンノアの地下に入る直前。目に入ってきた薄暮のテポレン山頂はとても穏やかで、日中の苛烈な戦闘など存在しなかったかのように感じてしまう。
早朝からの業を忘れるほどに平和で穏やかな空間。
「……」
このような大自然の静謐な美しさを前に複雑な感慨が込み上げてくるのも仕方のないことだと思う。本当に……。
「コーキ殿、入りましょうか」
「……ええ」
朝夕の対照的な現実を目にして僅かに心が乱れてしまったけれど、そんなものはエンノアの地下に入ると、あっという間に霧散してしまった。
戦場の片づけを終えたエンノアとワディンの皆が宴の準備をして、満面の笑みで俺たちを迎えてくれたからだ。
トゥレイズ城塞を脱出してから今朝まで続いていた彼らの悲壮な空気が一変。
底の抜けたような皆の笑顔に、諸々の感慨など忘れ嬉しくなってしまう。
ただ……。
今日の戦闘で勝利を収めたからといって、王軍が消滅するわけではない。
麓にもトゥレイズにも領都にも、いまだ多くのレザンジュ軍兵が待機しているはず。
明日また攻め寄せてくる可能性もないとは言えない。
気を緩めていい状況じゃない。
でもまあ、少しくらいは今日の勝利を祝ってもいいよな。
偵察隊の報告によると、王軍に再進攻の兆候はないとのことだし。
ずっと緊張状態が続いてきたワディン騎士とエンノアには緩和も必要だろうから。
ということで、ささやかな宴が行われることになったんだ。
「最高だな!」
「おう!」
「こんな嬉しい宴はねえって!」
「仇を打ってやったぜ」
「ああ、同胞の恨みを晴らしてやった」
「散った皆も喜んでくれるはずだ」
「王軍の逃げっぷりったらねえよな」
「1万が100に負けたんだぜ」
「歴史的な大勝だな」
「はは、ははは!」
「ぎゃはは!」
豪華な食材はない、酒もない質素な宴。
それでも、皆は戦勝の興奮に身を任せて十分に楽しんでいる。
ワディンにとってもエンノアにとっても、王軍を自らの手で撃退したという事実は何物にも代えがたい最高の肴。そういうことなんだろう。
ささやかながら賑やかな宴。
そんな中、幸奈だけは心ここにあらずといった様子。
「……」
宴の間に何度か話しかけてみたものの、返ってくるのは空返事のみだった。
時折見せる笑顔も、どこか翳りがあるような……。
まあ、戦争というものを初めて目の当たりにしたんだ。
思うところもあるだろうし、心から楽しめる心境じゃないのも理解できる、か。
外見はセレス様でも中身は生粋の日本人なのだから。
*********************
<和見幸奈視点(姿はセレスティーヌ)>
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わたしとシアさんはエンノアの皆さんに与えられた寝室で身体を休めようとしていたのだけれど……。
「セレス様、眠れないのですか?」
「シアさんこそ」
「わたしは……まだちょっと興奮しているみたいです」
興奮?
そうね。
「今日は大変な一日だったから」
昼の戦闘に夜の宴。
シアさんに高揚が残っているのも無理はない。
「……勝てて良かったです。こうしてセレス様と夜を迎えることができて」
「ええ……」
「本当はわたし……勝利を信じても、信じようとしても心配で」
「……」
1万もの王軍との戦いを心配するのは当然。
勝てないのではと考えるのも当然。
きっと皆も同じ思いだったはず。
心から勝利を信じていた者など、ほとんどいなかったと思う。
この勝利は奇跡に近いものなのだから。
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