30年待たされた異世界転移

明之 想

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第8章 南部動乱編

よかったね!

「さあ、話そう! って、何の話からだっけ?」

「……」

「あれ?」

 無理だな。

「今夜はやめた方がいい。また明日にでも話そう」

「ええ~、どうしてよぉ?」

「幸奈が酔ってるからだ」

「わたし、酔ってないのに」

「いーや、完全に酔っぱらっている」

「酔ってない。功己と話すんだから」

 はぁ~。
 幸奈って、こんな酒癖だったのか?
 知らなかったぞ。

 まあな、これまで色々あったし、記憶も取り戻したところだから、今夜は仕方ないとしてもだ。さすがに、これは……。

 って!

「おい!」

 俺の腕を引っ張り回すのはやめろ。

「なによぉ?」

 もう話どころじゃないな。

「話さないのぉ?」 

「……」

 治癒魔法でも使うか?
 多少は酔い覚ましの効果もあるはずだからな。

「幸奈」

「なに~~~。ん? んん?」

 治癒の光が幸奈を包み込む。

「……えっ!?」

 魔法の効果が現れたようだな。

「ええっ!?」

 違う意味で顔を赤らめ、俺の腕を離し後ろに飛びのいて行く。

「ち、違うんだよ。わたし、その……」

 必死に言い訳しようとする幸奈。

「だから、その、ねっ、分かるでしょ?」

 久しぶりのその姿に、つい和んでしまう。

「功己ぃ?」

「大丈夫、分かってる」

「そ、そうよね。功己なら分かってくれるよね」

「もちろんだ」

「よかったぁ」

「……」

 俺の目の前にはセレス様の笑顔。
 なのに、さっきの動きもこの笑顔も幸奈のそれにしか見えない。

 昨日までとは全く違う。
 ほんと、不思議だよ。

「でも……」

「ん?」

「ごめんね?」

 頭を下げながらも、こちらを見上げてくる幸奈。

「……」

 これも幸奈らしい仕草だ。
 けど、セレス様の姿でそれをするのは……。
 入れ替わった後、記憶を共有できるセレス様がどう思うか考えると……。


「あっ、でも、これで話ができるね」

「……だな」

 ということで、宴の喧騒から離れた部屋の中でこれまでの事を簡単に話すことになった。魂替たまかえ以降の話だけじゃない。俺が異世界に来ることになった経緯も含め、ほぼ全てをだ。




「そんなことが……」

 驚くのも当然。
 ただ、今の幸奈はセレス様の記憶を持っている。
 セレス様の身体でここまで暮らしてきた経験もある。

「とんでもない話」

 そんな幸奈なら、理解できるはず。

「すべて真実なのよね?」

「ああ」

「ほんと、信じられない」

 しきりに首を振っている。

「でも、功己もわたしも今ここにいるわけだし……受け入れるしかないよね」

「信じてくれるのか?」

「うん! 功己の言うことだもん」

 幸奈……。

「しっかし、そういうことだったんだぁ」

「……」

「……よかったね、功己」

 よかった?

「だって、そうでしょ」

 何のことだ?

「夢を叶えて、こんな冒険ができているんだよ。功己がずっと頑張ってきたのも、このためだったんだから」

「……」

「わたしも嬉しいよ」

 そんな笑顔で……。

「ほんと、嬉しいな」

「幸奈……そう思ってくれるのか?」

「もちろん。功己が嬉しいと、わたしも嬉しいんだから」

「そっか……」

 20歳になるまでずっと異世界のことばかり考えて、幸奈のことは放っていたのに。苦しむ幸奈に手を差し出すどころか、気づくことさえなかったのに。

 それなのに、幸奈は……。

「ほら、そんな顔しないで」

 ごめんな、幸奈。
 そして、ありがとうな。

「功己は、もっと自分のこと考えなきゃ」

「……」

「この世界を楽しんでいいんだから、ねっ」

 幸奈、本当にありがとう。

「でもさ、今は楽しんでる場合じゃないか」

「……」

「急がないとね」

「……急ぐ?」

「入れ替わりだよ。早くセレスさんをこの世界に戻してあげないと駄目でしょ」


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