30年待たされた異世界転移

明之 想

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第8章 南部動乱編

無理しましょ

 俺の注意不足で起きてしまった悲劇。
 なのに、これまでセレス様に伝えることもしなかった。

 セレス様のため?
 日本にいるセレス様は、どうすることもできないから?
 無駄に悲しませるだけだから?
 テポレンが大変な状況で、それどころじゃなかったから?
 話すタイミングがなかったから?

 全ては弁解。
 自己弁護だ。

「……」

 エンノアで幸奈に告げた言葉。
 魂替の準備ができていないから発動は待ってほしいという言葉。

 準備が不足しているのは幸奈でもセレス様でもない。
 俺自身だったんだ。

 ほんと、浅ましい。




「コーキさん?」

「……」

「コーキさん、そんな顔しないでください。もう、私は大丈夫ですから」

「セレス様……」

「コーキさんは何も悪くないです」

「……」

「悪いどころか、沢山のことをしてくれたじゃないですか。あなたがいなかったら、ワディンの皆はテポレン山で、いえ、それ以前にトゥレイズ城塞やローンドルヌ大橋で……」

「……」

「それに、今も頑張ってくれています」

 違う。
 自分がしたいことをしてるだけなんだ。

「だから、気にしないで」

「……ありがとうございます。でも、私は大丈夫ですので」

 今回はちょっと自分の嫌なところが目に付いただけ。
 忙しさで忘れていた自分の身勝手さを再認識しただけ。

「大丈夫なわけないです。そんな辛そうな顔をしているのに」

 平気だ。俺は辛くない。
 辛いのはセレス様の方だろ。

「私は知ってます。コーキさんの苦労も努力も頑張りも、私は分かっていますから」

「……」

「だから、そんな顔しなくていいんです! これからも……私と一緒に……」

「……」

「……」

 はは……。

 浅ましいだけじゃない、か。
 情けない男だよ。
 今さら偽善に嫌悪だって?
 救えないな。

 その上、悲しみを堪えているセレス様に、逆に励ましてもらうなんてあり得ないだろ。

 40年も生きてきたのに。
 ほんと、かっこ悪い。

 けど……それが俺か。
 なら、かっこ悪いなりに、格好つけないとな。

「ありがとうございます」

「……コーキさん?」

「私は最初から問題ありませんよ。それより、セレス様こそ無理してませんか?」

「実は、ちょっと無理しています。でも、コーキさんも無理してますから、お互い様ですよね」

 そう言って、微笑みを向けてくれる。
 敵わないよな。

「では、お互い少し無理をして前に進みましょうか。もちろん、一緒に」

「はい!」

 その強さ、その優しさ、その清廉さ。
 セレス様、あなたこそ真の神娘ですよ。





「何も起きませんね、コーキさん」

 セレス様と色々と打ち合わせをして待機すること数時間。
 あと数分で午後5時になる。
 つまり、俺が日本に戻ってから12時間、あっちの世界では4時間が経過しようとしている状況だ。

「これで魂替が発動しないとなると、原因はペンダントと魔道具の魔力ではないのかもしれません」

 こちらのペンダントとあちらで幸奈が持つ魔道具には既に魔力充填済み。
 幸奈と約束した時間ももうすぐ終了する。

 ということは、魂替不発の原因は他にあると?
 一応、ペンダントと攻撃魔道具を入れ替えて試す必要はあるが……。

「今日は替われそうにないですね」

「……ええ、おそらく」

「でしたら、私はそろそろ和見の家に戻ろうと思います。壬生家の動きもあやしいですし」

 こっちはこっちで、また問題が起こりそうな状況か。
 厄介なことだ。

「分かりました。5時になったら家まで送りま……!?」

 セレス様が痙攣している?

「セレス様?」

「……」

 返事はなく。
 数回痙攣した直後、テーブルに突っ伏してしまった。

「……」

 意識を失っている?
 これは、魂替?

 と!
 セレス様の体が跳ねた?

「はあ、はあ、はあ……」

 意識を取り戻し、荒い息を繰り返すセレス様。
 いや、セレス様なのか?

「セレス様? 幸奈?」

「うぅ……えっ?」

 幸奈か?

「わたし……どうして? 功己!?」

 間違いない。
 幸奈だ。
 魂替が発動している。

「あっ、魂替が!」

 そう、魂替だ。
 成功したぞ。

「っ! 時間がないの、功己、今すぐ戻って!」

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