30年待たされた異世界転移

明之 想

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第8章 南部動乱編

ミス?

 攻撃魔法を剣の一振りで対応する。
 言葉にすれば簡単だけれど、実際はそう上手くいくものじゃない。
 剣撃と魔法に働いている法則がそもそも異なっているからだ。

 ただ、エビルズピークでの剣姫は俺の魔法をことごとく剣で消し去ってしまった。
 雷撃も不可視の風刃でさえも。

 それを可能にさせたのは、魔剣ドゥエリンガー、魔力を纏った剣身、剣と魔力の精巧無比な運用。剣姫だからこその至芸と言えるだろう。

 とはいえ、俺も剣身に魔力を纏わせることができる。
 剣姫との戦い以来、研鑽も重ねてきた。
 その成果か、今は低位魔法への対応なら可能になっている。

「ファイヤーボールを斬ったぞ」
「嘘だろ?」
「すごい……」
「さすが、コーキ殿だ」

 騒めく観衆。
 酔いも相まって、とんでもない歓声だ。

 が、そんなことより。

 今の誤爆は偶然なのか?
 それとも意図したもの?
 騒ぎに乗じる襲撃者の存在は?

 剣を片手に周囲を睥睨し、意識を研ぎ澄ませ気配を探る。

 あやしい動きは……。


「コーキさん!」

 警戒中の俺のシャツを掴んできたのは幸奈。

「また、助けてくれて……」

 微かに震えている。

「コーキさんがいなかったら、わたし……」

 幸奈としての自我覚醒後、初めての危機。
 それも警戒している中でのことだから、動揺するのも仕方ない。

「セレス様を護るのが私の役目ですから」

「……ありがと、功己」

 セレス様としての振る舞いに綻びが出るのも当然。

「「セレスティーヌ様!」」

 そんな幸奈のもとに、舞台から降りた隊長と副隊長が駆け寄って来る。
 後ろから補佐役の2人も。

「「「「申し訳ございません」」」」

 地に膝をつけ、深く頭を垂れる4人。

「……」

 ルボルグ隊長にセレス様を害する意図などない。
 他の3人も同様。
 そう思いたい。
 今のファイヤーボールは単なるミスだったと。

 だが、この状況で簡単に決めつけるわけには……。

「許されぬ失態にございます」

「失敗は誰にでもありますよ」

「しかし!」

「幸い、わたしは無事でしたし」

「コーキ殿がいなければ大変なことになっていました。この身をもって償いを」

「実際コーキさんがいたのですから、意味のない仮定です」

 さっきの震えが嘘のように、幸奈がすっかりセレス様に戻っている。

「今回は謝罪だけで十分。何といっても、皆さんにはいつも護っていただいているのですから」

「……」

「分かりましたか?」

「「「はっ」」」

「ルボルグ隊長も?」

「……ありがたきお言葉、胸に刻み付けたいと思います」

 幸奈の言葉に、4人の垂れた頭がさらに深く下がっていく。


「コーキ、そんな怖い顔すんなって。まっ、気持ちは分かるけどよ」

「怒ってるんじゃないぞ、ヴァーン」

 顔が強張っているのは事実。ただし、怒ってはいない。
 単に犯人を探しているだけだ。

「なら、その顔は?」

「……いきなりファイヤーボールが飛んできたからな」

「ファイヤーボールごときにコーキが? ほんとかよ?」

「……」

 これは好くないな。
 俺がこの様子じゃ、犯人が警戒してしまう。
 動かなくなってしまう。

 そうなると、犯人特定など到底無理。

 ふぅぅ……。

 もっと冷静に。
 さりげなく、それとなく探らないと駄目だ。




「さあ、飲もうぜ」
「ああ、宴はここからだ」
「よーし、乾杯!」
「おう!」

 ルボルグ隊長と騎士たちの失態を幸奈が許した後、再開された宴。
 盛り上がりは衰えることなく、地下広場は今も喧騒に包まれている。

「……」

 ワディンもエンノアも幸せそうに飲んでいる。
 賑やかで、心地良い宴。

 ただ俺だけは違う。
 問題は何も解決していないのだから。

「……」

 さっきの騒動。
 魔力の乱れにより操作を誤ったファイヤーボールが偶然幸奈のもとに飛んでいったというのが真相らしい。

 かなりあやしいものの、現時点では他の事実は見つかっていない。
 他者による介入も確認できなかった。

 つまり、今回の件は4人の単なるミス。その可能性が高いだろう。
 
 ただ、ミスだったとしても。
 4人に対する疑心が、どうしても生まれてしまう。
 さすがに、このタイミングは……。

「……」

 前回もファイヤーボールは幸奈を襲ったのだろうか?
 その影響で幸奈が、セレス様が倒れたなんてことは?

 いや、仮にそうだとしたら、日本に戻った幸奈が俺に何か話したはず。
 それに、部屋で倒れていたセレス様の身に火傷痕なんてなかった。
 何より、あの喀血は……。

 やはり、ファイヤーボールが原因だとは思えない、か。

 だったら……。

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