30年待たされた異世界転移

明之 想

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第8章 南部動乱編

思わぬ事態

「先生……」

 シアのこの表情。
 普通じゃない。
 只事とは思えない。

 けど、問題が起こるはずないんだ。

 昨夜、幸奈をシアたちに任せて部屋に戻った後。
 ずっと幸奈の休む家屋周りの感知を続けた結果、朝まで不穏な気配など感じなかったのだから。

「……」

 本来ならセレス様の身に危害が及んでいたであろう宴での時間、そして前回倒れた12刻過ぎという時刻。それらを無事に切り抜けられたのは、もちろん喜ぶべきことだろう。
 ただ、犯人はいまだ特定できていない。
 そいつが犯行を諦めるとも思えない。
 今後もセレス様を狙ってくると考えるべき。

 なら、犯人の次の動きは?
 宴の後、皆の気が緩んでいる隙に犯行に及ぶ可能性が高いのでは?
 深夜から未明にかけての時間帯が危険なのでは?
 そう考えて感知の罠を張っていたんだ。

 感度を最大限に上げた俺の気配感知から逃れられる者はまずいない。
 家屋周辺で不審者が感知の網にかかった時点で取り押さえてやればいい。それで無事解決できる。

 そういう計画だったのだが……。
 今の今まであやしい者どころか幸奈の寝所近くで立ち止まる者すら現れなかった。
 つまり幸奈を害するのは不可能、ということになるはず。

 なのに、シアのこの真っ青な顔色は?
 不吉な予感が否応なく鎌首をもたげてくる。


「姉さん、こんな早くからどうしたんだ?」

「何かあったのか?」

 俺の後ろにいるのは同室で休んでいたアルとヴァーン。

「セレス様が!」

 その言葉を耳にした瞬間、どうしようもなく身体が強張っていく。
 心臓が激しく走り出す。

「シア、落ち着いて話すんだ」

「でも、ヴァーン!」

「少し深呼吸して、それから何が起こったのか話してくれ」

「……目を覚まさないの!」

 目を、覚まさない?

「昨夜コーキが話したようなことじゃねえんだな?」

「うん、寝室にはわたしたちだけだったから」

「襲撃はなかったのに、セレスさんの目は閉じたまま?」

「……うん」

 眠ってるだけなのか?
 セレス様の、幸奈の命に別条はないと?

「……」

 ああ、確かに幸奈の気配を感じる。
 生きている。
 よかったぁ。

 安堵で体が弛緩していく。

「呼吸も顔色も問題ねえのか?」

「問題ないと思う。けど、どれだけ声をかけても反応してくれなくて」

「眠ったままってことは、黒都で辺境伯を救出した後と同じ状態かもしれねえぞ」

「でも、今回は神娘の力を使っていないし、先生が話した危険もあるから」

「……」

「ヴァーンさん、姉さん、ここで話してるよりセレス様の様子を見に行った方が早いって」

「だな。よし行くぞ、コーキ」

「……ああ、急ごう」

 シア、アル、ヴァーンと共に幸奈が眠る寝室へ。

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