30年待たされた異世界転移

明之 想

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第8章 南部動乱編

疑念

 ということで、セレス様との話を再開。
 容疑者絞り込みを続けたのだが、特に手掛かりもない現状では進展するわけもなく。


「コーキさん……本当いるのでしょうか?」

「……」

「私を害そうと考えている者が今もここに?」

 この状況だ。

「宴から数日経過しても何も起こりませんし、犯人の特定も進みません。それは、犯人が地下にいないから……?」

 疑いたくもなるよな。

「私、この世界とあの並行世界の間には相当違いがあるように感じるんです」

「……」

「ですから、今の地下には犯人はいない。そもそも、幻視世界の犯人はここには存在しない」

「……」

「そう思えてなりません」

 セレス様が自身の惨劇を視たのは異能である幻視。実際に見たわけじゃない。
 その上、こちらではいまだ惨劇は起こっておらず、それに近い動きも見えない。
 時間遡行前に実際に経験した俺とは決定的に異なっている。

 そんなセレス様に疑念が生まれるのは仕方のないことだろう。

「何より、ここにいる皆さんの中の誰かが犯人だなんて私には考えられないんです」

「……」

「そう思いませんか、コーキさん?」

 セレス様の気持ちはよく分かる。
 ただ……。

 セレス様の視た幻視世界とこの世界は同じ過去を持っている。つまり、向こうでセレス様を害した犯人が今もこの世界に存在するという事実は曲げようがない。遠隔犯行でない限り犯人は必ず地下にいるんだ。

 とはいえ、可能性と言うなら。

「2つの世界で流れが異なっているというのは十分あり得ることです。このまま何も起こらない可能性も無いとは言えません」

 実際、宴後の流れは大きく変わっているのだから。

「そうですよね。犯行が行われない可能性も考えられますよね!」

「ええ……」

 ただし、犯人だけは確実に存在する。
 ならば、犯行に至らなくとも放置できるものじゃないだろ。

「ですが油断はできません。犯人がこちらを狙っているという想定でしばらくは動くべきです」

「しばらくですか?」

「はい。もう少しの間、ご不便をおかけします」

「……分かりました」

 疑問は残るだろうし、不満もあるだろう。
 それでも、今は慎重に動いてほしい。

「これまで通り警戒を続けます。ただ、ある程度の安全が確認できた際は……コーキさん、一度日本に戻ってくださいね」

 ここで日本に戻る話を?

「シアもアルもヴァーンさんも、ディアナもユーフィリアも傍に付いてくれていますから、短い時間でしたら大丈夫です。ノワールも助けてくれますし」

「クゥーン」

 嬉しそうにセレス様に頬ずりするノワール。

「無理でしょうか?」

「……」

 不測の事態に対応できるかというと怪しいものの、戦力的には足りている、か。

「コーキさん?」

「日本に戻るとは、幸奈のもとにってことですよね?」

「はい」

 異世界間移動の時間的拘束は現地では12時間。
 別世界ではその1/3の4時間になる。

 4時間という時間は、時間遡行によるそれと同じもの。
 とても微妙で厄介な時間。
 場合によっては、取り返しのつかない時間にもなり得るだろう。

 が、ある程度の安全が確認できた後なら……。

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