30年待たされた異世界転移

明之 想

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第9章 推理編

強制力

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 その後、フォルディさんに確認したところ腐敗による毒性とニレキリの毒はまったくの別物だということが判明した。
 エレナさんが犯人であるという線は、やはり薄そうだ。


 といった甘味騒動はあったものの、そこからは特に問題が起きることもなく、無事に2試合が終了し。

「おっ! 次は女性剣士同士の戦いだぞ!」
「こいつは見逃せねえ」
「ああ、楽しみだ」

 そう。
 遂に、あの時間がやってきた。


「負けないわよ」

「こちらこそだ」

 前回同様の口上を述べ、相対するふたり。

「はじめ!!」

 ルボルグ隊長の掛け声で始まるディアナとエレナさんの試合。
 最初の攻防が……。

 カン!

 エレナさんによる初撃を迎え撃つディアナ。
 反撃の打突。
 前回の戦いを完全に再現している。

「「「「「やっちまえ!」」」」」
「「「「「負けんなぁ!」」」」」

 もちろん俺の意識は試合に向かってはいない。
 これまで以上の濃密な気配探知であやしい動きがないか探り続ける。

 試合場、観客席、広場……。
 意識を拡散させながら、視覚と聴覚はセレス様の周囲に集中。

 かつ、試合展開にも注意を払う。
 セレス様が倒れた、あの場面に備える。

「……」

 ニレキリの作用時間は、通常体内に入って四半刻から半刻後程度。
 前回の流れと同じことが起こっているなら、既にセレス様の体内にはニレキリの毒が存在することになる。

 が、今回は違う。
 今朝から俺がずっと傍にいてセレス様を護っているんだ。
 セレス様も俺の提供した物以外は口にしていない。

 だから、セレス様の体内にニレキリの毒が存在するなんて、あり得ない。
 そんなことあり得ないはず……。

 ただ、この作用時間は濃度や加工によって変化する。
 即効性のニレキリ毒も作成できる。
 さらに、未来に起こるであろう事実が持つ強制力も考えるべき。
 今回も前回と同じ時間に惨劇が起こる可能性も……。

 これまでの時間遡行で改変に動いた時にも何度か感じたことがある強制力、必然力のような力。同じ事象が起きるよう何らかの力が働いていると感じたものだ。もちろん、絶対的な力ではないので改変できたのだが、だからといって軽視していいわけじゃない。

 つまり……。

 即効性のニレキリ毒の存在。
 現時点でセレス様の体内に毒が入っている可能性。

 それらを完全には否定できないんだ。

「……」

 即効性の毒の脅威に対しては、この後用心深く対処すればいい。
 ただ、超遅効性毒が既に体内に入っていたら……。

 俺には治療できない。
 時間遡行も使えない。
 もし、本当にそうなら……。

 魔落。
 あそこに行くしかないだろう。
 時の止まった神域で、トトメリウス様に助けてもらうしか。

「「「「「いいぞ!」」」」」
「「「「「そこだ!」」」」」

 エンノアの地下都市は魔落に繋がっている。
 以前フォルディさんに案内してもらった地下通路の奥。
 閉鎖された通路の先に魔落へと続く道があるんだ。

 だから、セレス様にあの症状が現れた時点で魔落に走っても間に合うはず。

 そう。
 最悪の場合でも、何とかなる。
 大丈夫。
 最悪の事態は回避できる。

「……」

 魔落の存在に心が落ち着くなんてな。
 最初に魔落に落ちた時には想像もできなかったことだよ。

 と、そんな俺の前では。

「「「「「おおぉぉ!」」」」」
「「「「「うわぁぁ!」」」」」

 大歓声。
 皆が興奮している。

 ということは、今は……。

「すごい、凄いぞ」
「冒険者の体捌きも騎士の剣撃も素晴らしいな」
「ああ、信じられねえ」
「ふたりともやるなぁ」

 エレナさんとディアナの攻防も佳境。
 もうすぐ決着がつく。
 時が迫っている。


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