30年待たされた異世界転移

明之 想

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第10章 位相編

邪狼狗 10


「あいつ、全部避けてる!」

「ほんと、見事な動きだわ」

「こうなると敵も焦ってくんぞ。ほら、拳も大振りだ」

「……ええ」

 武上少年の見立て通り、邪狼狗の動きが雑になっている。
 自身に攻撃が効かないと油断しているのもあるだろうが、甘いものだな。

『この△%#!』

 これも防御を無視した力任せの一撃。
 当然、隙だらけ。
 なら。

『@*¥!』

 この世界では使っていなかった、隠していた魔力。
 循環させ練り上げたそれを右拳に纏わせ。

『*@◆!?』

 攻撃を躱しざま、強化正拳を胸に叩き込んでやる。

 ドガン!!

 魔力を纏う前の軽い感触とは違う。
 手応えありだ。
 狙い通りってことだな。

 さて、邪狼狗はというと。

『???』

 予期せぬ痛みに声も出せていない。
 目を見開き、動きも止まったまま。
 無防備極まりない体勢で固まっている。

 ということで遠慮なく、次は腹部に一発お見舞いしてやろう。

 ドスッ!!

『グウッ!!』

 今度も鈍い感触がしっかりと拳に伝わってきた。

『$#●ゥゥ』

 邪狼狗は痛みに身を屈め、蹲ろうとしている。

「ゥゥゥ……」

 次で終わりだな。
 足に魔力を集め、右足を上げ蹴撃体勢に。
 と、そこで。

『……オオォォォ!』

 今にも倒れ込みそうだった邪狼狗が空に向かって口を開いた。

『オオォォォォォ!!』

 屈んだ状態で顔だけを上に向け、叫声を上げている。

「ォォォォォ!!」

 至近距離で放たれた威圧の咆哮。
 耐性のある俺でも、ちょっとキツイものがあるぞ。

 とはいえ……。
 動けないほどじゃない。

 魔力充填済みの右足に、再度意識を集中し。

『ォォォ……』

 咆哮を終えた邪狼狗に向け。
 真正面から、右足の蹴りを。

 ドゴン!

 叩き込んだ。

『!?』

 邪狼狗が真っ直ぐ後ろに吹き飛んでいく。
 空中に見えるその顔は驚愕を貼り付けた状態。
 そのまま数メートル先の地面に……。

 立ち上がった!?
 まだ動けるのか?

「……」

 さすが大異形。
 頑丈な体だな。

『&#◇……』

 ただ……。
 立ったと言っても、もはや死に体。
 足を引きずりながら、後退して行く。

 向かう先は里村や幸奈がいる後方。
 ということは……。

「里村、後退しろ!」

「皆を連れて離れるんだ!」

 幸奈たちを人質に取るつもりか?

『%&@◆』

「えっ?」

「何?」

 邪狼狗が足を止めた。
 視線も後ろを向いてない。
 後方に向かう素振りが見えないぞ。

『フフ●*¥……』

 これは、人質狙いではなく……3つ目のスキル?

『&%◆!』

「あいつ、何をするつもりだ?」

「まさか、新たな攻撃なの?」

 違う。
 あの動きは……。
 多分、身を隠すつもりだろう。

「……」

 邪狼狗3つ目のスキル隠形。
 これは単に姿を消すものじゃない。
 生物の中にその身を隠すという自己封印スキルになる。
 数百年に渡る封印の中で体得した力ということだが……。

『さら@&¥』

「古野白!」

「ええ!」

 敵の動きが読めているのに、傍観するわけがない。
 ここでむざむざ逃がすわけがないだろ。

 そもそも満身創痍の邪狼狗に詰め寄るのは容易いこと。今度こそ決めてやると、邪狼狗に向け足を踏み出したところで。

「させないわ!」

 古野白さん?

「いくわよ!」

 もう魔法を撃てるのか?

「……炎弾!!」

 清冽な気合と共に顕現した炎。
 鮮やかな豪炎が俺の頭上を越えて……着弾!!

『ギャアァァァ!!』 

 炎が邪狼狗を覆い尽くしていく。

『◇#●# ァァァ……』

 燃え盛る獄炎の中、悲鳴が消え。
 炎が消え。

 そして……。

 邪狼狗が……!?



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