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第10章 位相編
終局 3
「功己さんと会えなくなるんだ」
違う。
まだ、確定したわけじゃない。
「さっきも言ったように、あちらに戻れるかどうかはまだ分からないな」
「でも、功己さんなら」
俯いたまま言葉を続ける幸奈。
「上手くできると思うから」
「……」
「だからもう、戻って来ることも、二度と会うことも」
「……」
「ほんとに、これでお別れ。永遠のお別れなんだ」
いや。
そうとも限らない。
これは幸奈には伝えてないのだが。
もし、この地下室から無事に元の世界に帰れるのなら、こちらに再訪することもできるかもしれない。
「二度と、わたし……」
二界間の往来が自在になる可能性だってある。
ただ、だからといって。
「功己さん……」
もう何度も繰り返した思考。
ここまで来てもまだ、泥のような迷路にはまってしまう。
そんな俺に。
「っ!?」
幸奈が飛び込んできた。
「うっ、うっ」
「……」
今にも溢れそうな涙を瞳に閉じ込めながら、俺の胸の中へ。
「幸奈……」
切羽詰まったその様子に、避けることもできず。
拒否することもできず。
どうすることも……。
「うっ、ううぅ」
「……」
想いが伝わってくる。
今まで堪えていたものが一気に流れ出すように。
「うぅぅぅ……」
幸奈は俺の胸に顔を埋めたまま。
俺は……。
俺の腕は……。
ただ宙をさまようばかり。
「ぅ、ぅぅ……」
「……」
質量を伴った重い沈黙だけが流れていく。
「……」
「……」
和見家の地下室。
薄気味の悪い浴槽。
初めて知った15歳の幸奈の真実……。
これが元の世界の幸奈の事実だと、まだ決まったわけじゃない。
位相の過去世界とあちらの世界は微妙に異なっているのだから、真相は分からない。
それでも、地下室に造られた浴槽は同じ。
同じものが存在するのなら、俺の知る幸奈も。
「……」
ここで考えても答えが出ることじゃない、か。
この件については、帰ってから。
あちらで幸奈と話すべきだな。
今はそう、胸の中の幸奈のことを。
「……」
15歳の幸奈。
優しくて、強い幸奈。
この年齢で、残酷な時間を過ごしてきたに違いない。
ひとり孤独に耐えてきたに違いない。
なのに、こっちの有馬少年は気づいていなかった。
知ろうともしてなかった。
俺と、同じ。
何も……。
暗く苦い悔恨が心に爪を立ててくる。
この幸奈を残して、俺は戻らなければいけないんだ。
「……」
「……」
「ぅぅぅ……功己さん」
むせび泣く声を止めた幸奈が声をかけてきた。
ただし、顔は依然としてこちらの胸に埋めている。
「ぎゅっと……」
「……」
「ぎゅっとして」
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