30年待たされた異世界転移

明之 想

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第10章 位相編

消失


「……有馬?」

「……倒したのね?」

 見ての通り。

「完全にのびてんぞ」

「さすがだわ」

 空間異能者は失神状態。
 吾妻もすぐ近くで眠っている。
 2人とも、しばらくは立ち上がることもできないだろう。

 ただ……。

 この気配は……。

「あとは帰るだけだな」

「そうね。まずはしっかり縛って、その後で元の世界へ……えっ!?」

「どうした?」

「……消えてる」

「消えてる? ふたりとも目の前にのびてんだろ?」

「違うわよ。気配が消えてるの」

「……異形の気配か?」

「ええ、さっきまで色濃く匂っていたのに」

 そう。
 邪狼狗の気が無くなっているんだ。

「気絶してるからじゃねえの?」

「意識がなくなっても完全に消えたりしない。気配は残るの」

「なら、気を読み違えてたとか?」

「そんなわけないでしょ。間違いなく人外のものだったわよ」

 意味が分からないと頭を振った古野白さんが目をつぶってしまった。

「ほんの僅かな時間に異常な気配が現れて、すぐに消え去るなんて……」

「有馬の掌底が異形を消し去ったんじゃねえか?」

「それは……有馬君の一撃ならあり得るかもしれないけど……」

 いや、さすがに俺の掌底にそんな効果はないぞ。

「……」

 とはいえ、事実は事実。
 倒れている空間異能者からは、異形の欠片も感じられない。
 もちろん、邪狼狗の影も形もない。

「まっ、消えたんなら倒したってこった」

「……」

「それでいいじゃねえか。オレたちが悩んでも無駄だしよ」

「武上君……」

「とりあえず、あっちに帰ろうぜ。で、詳しいことは研究所でな」

 武上の言う通り、ここで考えても答えが出るわけじゃない。
 研究所で調べてもらうべきだろう。

「……そうね。研究所に任せましょうか」

「おう」

 不承不承ではあるものの古野白さんんも納得したようだ。

「功己!」

「兄さん!」

 そこに近づいてきたのは幸奈と武志。
 表情には安堵と不安の色が見える。

「大丈夫? 怪我は?」

 離れていたとはいえ、十分視認できる距離だったろ?

「……問題ない」

「よかったぁ」

「兄さん、無事なんだね。よかった」

「ああ」

 こちらこそだ。
 間に合ってよかった。
 2度目は助けることができて、ほんとに……。

「ありがとう、功己。いつも本当にありがと!」

「……どういたしまして」

 よし。
 少々気になるところはあるが、とりあえず、これで一安心。
 ここからは、帰還方法をいくつか試すとしよう。


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