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第12章 激闘編
迂回行
<アイスタージウス視点>
「陛下」
「……」
まだ何かあるのか?
「おそれながら……南はいかがいたしましょう?」
南とは、ワディンの神娘の件だな。
ふっ、考えるまでもない。
「この件が片付くまで、捨ておけ」
「ははぁ」
**************************
<レザンジュ王女エリシティア視点>
「エリシティア様、そろそろ野営の準備に入りませんか?」
馬上にいる私の目の前に広がるのは茫洋とした平原。
街道を北に大きく外れたそこに陽が長い影を落としている。
夕闇がそこまで迫っている、が。
「暮れるまでまだ猶予がある。もう少し進むとしよう」
「……」
「心配無用だ、ウォーライル。この数日で皆も慣れたはずだからな」
「……はっ」
我々王族の旅と言えば、豪華な馬車に乗り駿馬を駆る近衛騎士に護られての優雅な旅こそが通常と考えられている。しかし、幸いなことに私は優雅な旅には興味がない。そもそも、馬車よりも馬での旅を好んでいるくらいだ。
もちろん、馬車に乗ること自体を否定するつもりはないが、飾り立て乗り心地を重視した車より頑強さと速度に重点を置いた車を好ましく思ってしまう。
この嗜好ゆえ、私の旅は王族のそれとは趣を大きく異にしている。
とはいえ、さすがに野営を常とはしていない。必然、護衛騎士たちも野営に秀でることはない。それゆえ今回の迂回行は容易いものではなかった。
逆賊アイスタージウスの網にかからぬよう道なき道を行き、宿を避け、野営を続ける毎日。騎士たちの疲労は溜まる一方だっただろう。が、その甲斐あって野営の腕は目覚ましい向上を遂げることができた。今は多少闇が濃くなろうとも問題などまったくない。
「ウォーライルよ、時は生きているぞ」
「……はい」
人の前を過ぎゆく時は一様ではない。
生きている。
私の時は今……。
宵の困難より道行きを優先すべき時。
ザッ、ザッ、ザッ。
ザッ、ザッ、ザッ。
私と騎士たちの駆る馬が土を蹴るリズムは軽やかでありながら力強く、優しく私に寄り添ってくる。
「……」
未知の試練がこの響きに乗せて訪れる予感。
すべての苦難を乗り越えることができる。
奥底から湧きあがる確信にも似た思い。
想い……。
刹那。
西から吹く風が平原を駆け抜けた。
「薫風か」
心地いいな。
熱く火照った体と心を冷ましてくれるようだ。
「……」
身に纏った紫の外套が舞っている。
翻る音が馬蹄音とともに心音に調和していく。
私は……。
背筋を伸ばし、目を前にやり。
旅路の先に待つ運命を見つめるのみ。
「……」
何が待ち受けているのか?
無論、はっきりとは分からない。
それでも、私は前に進む。
天命を己で勝ち取るために。
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