30年待たされた異世界転移

明之 想

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第12章 激闘編

卑下

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<エリシティア視点>



「つぅ」

 普段から強気一辺倒で弱音など吐かないギリオンの口から呻きが漏れ続けている。

「うぅぅ」

 鱗化の範囲が広がっているとはいえ、こんな表情を見せるなんて。
 傍にいるだけで、こちらの胸が締め付けられるようだ。


「ギリオン殿、力を抜いてください」

「ぅ……おう」

 今治癒魔法を使っているのはリリニュス。
 衛生兵も彼女の横で魔法薬治療を始めている。

「まだ力が入ってますよ」

「……こうか」

「ええ、それくらいでお願いします」

「分かった」

 現状の治療は、痛みが出ている鱗周辺に直接魔法薬を湿布、その上から治癒魔法の行使。これが今できる最善手になる。



「痛みはどうです?」

「……問題ねえ」

「やわらいだのですか?」

「ああ、ちっと痛むだけだ」

 答えるその言葉に反して、ギリオンの顔からは嫌な汗が溢れたまま。

「なら良いのですが……しばらくは無理しないでくださいね」

「これまでも無理なんてしてねえ」

「ギリオン殿……」

「それよりだ、みんな気を緩めんなよ!」

 どう考えても、今のギリオンに余裕などないはず。
 それなのに、気力はまったく枯れていない。

「おい、ヴァルター?」

「心配するな。護衛はこっちに任せて、おまえはゆっくり休んでおけ」

「……ちっ」

 苦しむギリオンの傍にはリリニュスと私、そして衛生兵数名だけ。
 ウォーライルとヴァルターに率いられた騎士たちは私たちを囲むように数歩離れて警戒を続けている。

「リリニュス、感知は?」

「……難しいようです」

「まだ上手く作動せぬ、か」

 現在地が定かでない今の我らにとって、感知は命綱の1つとなる手段だ。
 だというのに、その感知がなぜか上手く使えない。
 空間歪曲が影響しているのか?
 あるいは、他に要因があるのか?

 原因も改善法も不明、さらには周囲の動静も把握できない中では、こうした警戒態勢をとり続けるしかない。

「拙技しか使えず、申し訳ありません」

「謝ることはない。この状況で魔法と感知を兼行できるだけでも素晴らしいことなのだからな」

「ですが、エヴドキヤーナ様なら……」

 まだ師を出してくるか。

「何度も言うように彼の者と比較する必要はない。あれは別格なのだ」

「……」

「何よりここにおらぬ者を持ち出してどうする。今はリリニュスが頼りなのだぞ」

「申し訳ありません」

 だから、謝罪は不要だと……。

「とにかく、魔法と感知の兼行は大変だろうが、この後も頼む」

「承知しました」

 治癒魔法の手を止めることなく頷くリリニュス。
 この体勢でなお感知も継続中なのだから、一流の術者であることは間違いない。それなのに、本人は師のエヴドキヤーナには及ばないと卑下するばかり。特に異界に飛ばされて以降は卑屈になる傾向が強い。困ったものだ。


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