【完結】幸せしかないオメガバース

回路メグル

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第33話 ブルー

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 アキヤさんと出会ってから、もう約二ヶ月。
 今日もいつものように、いつものオメガ友達と、いつもの俺の家で、いつもの飲み会を開いていた。
 
「順調そうだね」

 モニくんが梅酒のソーダ割を片手に、少し茶化すような口調で言ってくる。
 俺とアキヤさんのお付き合いのことだ。
 
「うん。順調だよ」

 二人に心配をかけないように、笑顔で頷く。
 実際、俺とアキヤさんは順調だと思う。
 出会って二ヶ月がたっても、毎日の連絡、週の半ばの食事デート、週末のデートからのお泊りは続き。アキヤさんから俺への愛情も、俺からアキヤさんへの愛情も、留まるところを知らない。
 どんどん好きになる。
 めちゃくちゃ愛されている。
 問題は何一つとして起きない。
 本当に順調。
 
 順調、なのに……。
 順調すぎて、あまりにも上手くいきすぎて、正直ちょっと怖い。
 贅沢な悩みだ。
 
「最近は、あと二週間くらいでヒートだから、そろそろ番契約の準備をしないといけないなって話してる」
「いよいよか~! アキヤさんって仕事休めるの? 確か普通にサラリーマンだよね?」 

 モニくんの言葉に、ヨナちゃんも少し心配そうな顔になる。
 たまに「発情期でも抑制剤を強要して無理やり働かせるブラック企業」のニュースがあるし、二人が心配するのは当然か……。
 そこも順調すぎて心配がいらないんだよね。

「休めるみたい。社長さんがアルファで理解があるし、制度がしっかりしている大手の機械メーカーだから……ほら、航空機とか新幹線とかで有名な」
「あぁ、みんなお世話になっている会社だね! そういうのを優秀なアルファが作っているって思うと安心感あるよね~」

 モニくんがうんうんと大きく頷いてくれる。
 運命の相手のことを良く言ってもらえるのは嬉しいんだけど……

「えっと……作るって言うよりは……経営? 事業計画? 戦略? なんかそういう部署だって言ってた。そのお陰で、他の拠点の視察で出張はあるけど、本社からの転勤はないんだって」
「それって幹部候補っぽいね。出世コースの人だ! さすがミチくんの番だね!」
「大手にお勤めで、転勤ナシ。実家からはタワマンを継ぐ予定……いかにもアルファって感じだし、将来安泰で友達としては安心ね」

 モニくんもヨナちゃんも、手放しでアキヤさんを褒めてくれる。
 アキヤさんが俺にぴったりだって言ってくれる。
 嬉しいことだ。
 嬉しいことなんだけど、うーん……ちょっとだけ……。

「俺なんかには勿体無い気がするけどね。実家はともかく、俺の仕事ってインフラでも何でもない趣味のものだし。会社も業界では大手だけどアキヤさんの会社に比べたら全然だし。アキヤさんって何でもできるけど、俺はそうでもないし……」

 アキヤさんを褒められるたびに、アキヤさんの素敵な部分を知るたびに、アキヤさんを好きになるたびに。自分との格差を感じてしまう。
 俺はアキヤさんが好きだし、アキヤさんの愛情も疑わないけど、俺と番になるのがアキヤさんの本当の幸せなのかな? もっと優秀なオメガの方が……

「ミチくん!」
「ミチ!」

 ラグに座っていた二人が急に体を乗り出して俺の肩を両側から掴む。

「「番ブルー入ってるよ!」」
「……番、ブルー?」

 番契約直前に、特にオメガがなりやすいやつ。
 大抵のアルファは解りやすく優秀だから、自分と比べて「本当に俺でいいのかな?」ってネガティブになるやつ。
 そういうのがあるのは理解しているけど……

「……え、でも、俺とアキヤさんは客観的な事実として、格差がすごくない?」

 多少番ブルーなのかもしれないけど、俺とアキヤさんの場合は、気持ちの問題ではなく実際に格差がある。
 情けないけど詳しく説明しないといけないのかな……そう思って左右の二人の顔を見比べていると、モニくんが少し頬を膨らませて呟いた。

「ミチくん、俺とキョウイチさんのこともそう思ってるの?」
「え?」

 モニくんは雑貨屋兼カフェの店員で、普通のご家庭の生まれ。
 キョウイチさんは財閥系の日本一の大企業の跡取りで、油田も持っている超お金持ちかつ超上級家柄。
 職業や家柄だけを見れば格差かもしれないけど……。

「思ってない! だって、キョウイチさんがモニくんを見る時の幸せそうな顔……キョウイチさんの幸せにはモニくんが絶対に必要で、それは職業とか地位とか関係なくて、本能的に欲する運命の番だから釣り合うとか以前に……あ」

 あ……あれ?
 モニくんたちカップルのことはすごく素敵だと思っているのに、なんで自分はダメなんだっけ?
 アキヤさんは俺と一緒にいるのが幸せだって、番として求めてくれているのに……。
 あぁ、そうか。
 こういうことか。
 自分のことになると、何でこんなに視野が狭くなるんだろう。
 別に俺が社会的にどうとか関係ないんだ。

「……そうだ。俺だって、別にアキヤさんが社会的にすごい人だから好きってわけじゃないのに」
「そういうこと! アキヤさんだって絶対に、ミチくんにそういうの求めてないよ」

 恥ずかしい。
 客観的な事実とか言いながら、自分が一番客観的に自分たちのことを見れていなかった。
 
「アキヤさんに会ったことはないけど、ミチが隣にいて幸せそうな顔するんでしょう? それがすべてだと思う。ミチがいるだけでいいんだと思う」

 ヨナちゃんが、力強く肩を掴んでいた手の力を緩めて、俺の背中をぽんぽんと優しく撫でてくれる。
 うん。そうだ。
 俺、二人が言うように完全に番ブルーだった。
 もう、嫌になるくらいテンプレのオメガだな、俺って。
 でも、それ以上に……いい友達を持ったな、俺って。

「二人ともありがとう。俺、番ブルーだった」
「気づいてくれてよかった。番になるまでこんな感じでネガティブに思っちゃうこともあると思うけど、そういう時には『今、番ブルーなんだ』って思って深く考えないようにしてね」
「オメガが番ブルーになるのは、フェロモンの分泌的に仕方がないっていうし、気にしないで……というのは難しいかもしれないけど、割り切ってなるべく笑顔で過ごして欲しい」

 二人の優しい言葉に、俺の中の不安が小さくなっていくのが解る。
 漠然としたネガティブな思考も、理由が解れば怖くない。
 番契約までに不安になることもあるかもしれないけど……俺、もう大丈夫だと思う。

「うん。不安になった時は二人の顔を思い出すよ」
「うん! じゃあほら、俺のかわいい笑顔とヨナちゃんの超絶美人笑顔、ちゃーんと記憶に刻んで!」
「ふふっ。うん」

 モニくんがかわいい顔を満面のかわいい笑顔にして、ヨナちゃんもやれやれとため息をついた後にモデルらしい完璧に美しい笑顔を向けてくれる。
 ……最高の友達だ。
 ありがとう。
 俺、二人の優しさを無駄にしないためにも、絶対にちゃんと番になるよ。
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