魔王さんのガチペット

回路メグル

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第5章 旅の話

第112話 お土産(6)

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「えっと、次は……高校卒業して、しばらく働いてお金貯めて……兄弟三人で暮らせることになった時かな。この一〇階建てのマンションの八階の部屋を買ったんだ」

 次の写真は、昨日まで俺がいたマンションの前に並ぶ兄弟三人の写真。
 タワマンとか高級マンションではないけど、いかにも「ファミリー向け」って感じのマンションに家族……兄弟三人で住めるのが嬉しかったのを覚えている。
 買えたのが嬉しすぎて、マンションの全体像を入れたくて、俺たち兄弟はギリギリ判別できる程度の大きさの写真だ。

「これは……一般的な家なのか? 周囲も同じくらいの高さの建物のようだが」
「この建物まるごとが俺の家じゃないよ? 八階の、ここからここまでくらい。家族が住む家としては普通だと思う。都内……えっと、国の首都のはずれで新築を買ったから少し高かったけど」
「そう……か」

 いくら魔王さんでも、さすがに米粒サイズの俺よりも建物の方が気になったようで、まじまじと一〇階建ての何の変哲もない無難なマンションを眺めている。
 折角眺めるんだったらそれよりも……。

「高い建物だったら……これ。今回帰った時に撮った写真! この建物、六三四メートルあるんだよ。根元しか写っていないけど」

 ページをめくって、国内で一番高いタワーの根元で、兄弟三人並んで全身で写った写真を見せる。
 弟二人も俺も、気合いを入れて良いスーツを着てオシャレして撮った写真で、これを撮っている時に周囲から「モデル?」「何かの撮影?」「三人とも美形すぎ! 絶対何かの有名人!」とこそこそ話す声が聞こえていた。

「は? 六三四メートル!? しかし……これだけでは解らないし、ライトも弟も可愛すぎて……そちらばかりに目が行く」
「ふふっ。俺たちがかっこよすぎてごめんね? えっと、上にも行ったけど……これ」

 こっちは、全員の顔がよく見えるようにバストアップ。展望階の窓際に立っているから、背景は東京の街だ。

「うっ、顔がよく見えると一層眩しい……だが、これが街? 建物の形も、広さも……」

 やっぱりそっちが気になるか。
 別にそれはそれで、異世界らしさを面白がってもらったらいいんだけど……。

「魔王さん、街や建物よりも……俺のかわいい自慢の弟見てよ」
「あ、あぁ、そうだな。かわいい。ライトに少し似ていて、でも、ライトよりも少し……親しみがあると言うか、凄味がたりないというか……あっさりとしていてかわいい」
「ふふっ。それって、俺が一番かわいいってこと?」
「もちろんだ! ライトは誰よりもかわいい!」

 魔王さんの好みはやっぱり俺か。
 最初に、「魔王さんの好みの外見だから」この世界に呼ばれているわけだし当然だよね。

「良かった。じゃあ……これはプレゼント」
「え?」

 アルバムの最後のページに挟んでおいた写真を二枚、魔王さんに渡す。
 先ほどの展望室で、東京の街をバックに俺一人で写った一番写りの良いバストアップの写真と、全身の写真。

「このアルバムは俺の宝物だけど、これは……魔王さんに持っていてもらう用」

 自分のキメまくった写真を他人に渡すって少し恥ずかしくはあるんだけど……。

「あ、た、たいせつにする! 額に入れて部屋に飾る! いや、仕事中も見たい……額に入れて持ち歩く!」
「人間の村の職人さんにお願いして、飾るための写真たて作ってもらおうか? 俺も兄弟の写真飾りたいし」
「頼む! あぁ……ライトの、こんなにも美しい絵を常に側に置けるなんて……本当に、本当に嬉しい!」

 魔王さん、子供みたいににこにこ笑っちゃって。腕時計も嬉しそうだったけど、それ以上の反応だ。
 かっわいいなぁ。
 我ながら、いいお土産を思いついた。

「ライト、素敵な土産物をたくさんありがとう。ライトのことをよく知れたし、異世界の……その……人間だけで魔力の無い世界を見くびっていた。考えを改める。もっと、ライトやライトの育った環境を尊敬し、称えたいと思う」
「大げさだよ。俺は、魔王さんが知ってくれて、喜んでくれるのが何より嬉しい」
「いや、俺はまだまだライトのことを知らないのだと思い知った。写真という絵のことや描かれているものに関しては、ぜひ今後ゆっくりと教えて欲しい」
「わかった。でもね……」

 実は、もう一つ魔王さんが喜びそうなものを仕込んであるんだよね……。
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