魔王さんのガチペット

第６章 二人の話

第１１９話 城宛の手紙

　夕食前の半端な時間に、珍しくローズウェルさんが部屋にやって来た。
　いつもの真面目な顔だけど、少し焦っているのが解る。
　魔王さんに何かあったのかと身構えたけど、手には見覚えのある封筒が握られていて……

「ライト様、エルフの森の王様から、城宛に手紙が届きました」
「お城宛？」

　一度エルフの国にお邪魔してから、森の王様とイルズちゃんからは「俺宛」に手紙が来る仲だ。
　最近で言うと、半年ほど前に元の世界で買って来た日本一高いタワーの写真のポストカードを送って、お礼と共に質問攻めの返事をもらって……のんびり文通が続いている。
　それなのに、わざわざ「お城宛」に手紙？

「来月、森の王の退位式と新しい王の即位式があるので、ライト様に出席して欲しいと」
「……え、へー……王様変わるんだ？ 俺は招待されたなら行きたいけど……？」

　俺の勝手なイメージで、「王様」っていうと、死ぬまで王様か、年齢や病気で政治ができなくなるまでは王様だと思うんだけど……エルフは長生きだから任期が決まっているとか？
　あと、俺が行っていいものなのか……俺、魔王さんのパートナーでも国の重要な役職者でもなくて、「ペット」だよ？ っていうか、魔王さんは？

「異例のこと過ぎて私たちも戸惑っているのですが……国としてはライト様が出席して頂けるのなら国交面で非常に心強くあります。今まで退位式にも即位式にも他国の王や城の関係者が呼ばれることは無かったので」
「ちなみに、魔王さんって……？」
「呼ばれていません。手紙には私信として『魔王様を呼ぶと他国の王も呼ばないといけなくなるからお誘いできず申し訳ない』というようなことが書かれていました。これは私たちも納得できます。遊びに呼ぶのとは違って、公的行事ですから……国同士のバランス上、難しいでしょう」
「俺は良いの？」
「……非常に難しいところですが、国賓ではなく、イルズ様の友人としての招待ですね。人間同士ですし」
「そっか……」

　微妙なバランスなんだな。でも、そんな中でも色々と気を使いながら招待してくれるなんて、ぜひ出席したい。

「あと、王様の交代って……そういう時期なの？」
「いえ、確かエルフは三～五〇〇年と任期が決まっていて、世継ぎがいないなど任期が伸びる場合はあっても短くなることは稀で……今の森の王様の即位が一〇年ほど前なので、異例の早期退位です」

　三〇〇年のところを一〇年で退位って……絶対に何かあったんだよね？
　揉めている所に行くのは怖いけど……イルズちゃんは危険なところに呼ぶような子じゃないだろうし、元の世界に一時的に帰れるようになった恩もあるし……大事な時に側にいて欲しいと言うなら、いてあげたい。

「俺が行くって言ったら魔王さん嫌がるかな？」
「式典と前後の晩餐会などを考えると……一週間は向こうに行くことになるようです。少し、渋い顔をされるかもしれませんね」

　そうだよね。元の世界に帰る時は、「里帰り」という形で魔王さんも納得感があったみたいだけど、それ以外で俺が魔王さんから離れるのは好きじゃないよね。
　魔王さんが嫌がることはしたくないんだけど……。

「俺は行きたい」
「城としても、行って頂きたいです」

　俺もローズウェルさんも真剣な顔で頷き合った。
　
「ちょっと、作戦たてようか」
「はい」