魔王さんのガチペット

回路メグル

文字の大きさ
57 / 368
第6章 二人の話

第124話 退位(3)

しおりを挟む
 恐る恐る手を外すと、イルズちゃんは残念そうにため息をついている。
 これ……あぁ。
 そう……なんだ?


「……あ……そう、なの?」

 ずっと考えないようにしていたけど、二人の話を聞いた瞬間、もしかして魔族と人間もどちらかが合わせられるんじゃないかと淡い期待はした。
 だけど、その期待は……俺が甘かったようだ。

「え? あ、えっと……」

 イルズちゃんはどうやら、俺がそのことを知っていると思っていたようで、珍しく焦りながら俺、そして俺の後ろへと視線を向ける。
 後ろ……そうだ。

「ローズウェルさん……」

 イルズちゃんの言っていることって本当? と口に出さなくてもローズウェルさんは解ってくれたようで、公の場にしては珍しく、寂しそうな笑顔で答えてくれた。

「ライト様は私や魔王様の本来の姿を見たことがありますよね? 姿を似せることができたとしても、根本的に存在が異なるんです」
「……そう……なんだ……」

 なれないんだ。
 なってもらえないんだ。
 なーんだ。
 やっぱり考えるだけ無駄じゃないか。
 
 もう一度、意識の奥に押し込もうとした瞬間、森の王様が不思議そうに首をひねる。

「魔族が人間にと言うのは無理だろうが、人間が魔族に近づくことはできるんじゃなかったか?」
「え!? 本当!?」

 そんな方法あるの!?
 だったら俺……!

「魔族になることは無理だが、魔族が個人的に……」

 森の王様の言葉を、身を乗り出して聞いていると……俺の後ろから上がった大きな声が言葉を遮った。

「森の王様!」

 !?
 ビックリした。
 騎士団長さんの声だ。
 ここまでずっと護衛につとめていて、必要最低限の挨拶以外は一歩引いて見守ってくれていた騎士団長さんが、急に大きな……ほぼ怒鳴り声を上げた。

「そのような非人道的なこと、魔王様の代になってからは法律で禁止しております!」

 え? あ、そうか。よく解らないけど魔王さん関連?
 騎士団長さんって魔王さん大好きだからついつい熱くなっちゃった?
 ……と思っていると、ローズウェルさんまで声を荒げる。

「現代の魔族は、昔と違って野蛮なことはしておりません! 無礼を承知で言わせて頂きます。森の王様、発言をお控えください!」

 二人ともどうしちゃったの?
 怒っているというか……悔しそう? ちょっと泣きそう? 
 えー……?
 って言うか……え、これ、どっちが無礼なのか俺には判断しにくいけど、国際問題にならない? 大丈夫?
 戸惑いながら後ろの二人と森の王様を見比べていると、一瞬ひるんだ森の王様の方が素直に頭を下げてくれた。

「あ……そう……だったな。すまない。私が悪かった。ただ、最近東の国では……」

 森の王様が何か言いかけて、また頭を下げる。

「いや、違うな。アレを最初に禁じた魔王だから国交を持とうと思ったんだ。私の筋が通らない。今の発言は取り消す。ライト様もどうか忘れてくれ」

 森の王様が俺に真摯な視線を向けた瞬間、後ろの二人もすぐに深々と頭を下げた。

「私どもも、失礼を致しました。申し訳ございません」
「森の王様の寛大なお言葉、感謝いたします」

 ……これで、解決?
 国際問題にならない? これから大事な儀式に参加するのに……っていうか、色々気になることもこれじゃあ聞けない雰囲気だし……どうしようかな……。

「話がそれたな。実は……」

 俺が戸惑っていると、森の王様はもう先ほどまでの笑顔に戻って話を続けようとしていた。
 とりあえず、よかった。
 よかったけど……後で必ずローズウェルさんに聞かないといけないことができてしまったな。

しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。