魔王さんのガチペット

回路メグル

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第7章 その後の二人 / 魔力切れと覚悟の話

5日目(1)

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 魔王さんが遠征に出かけて五日目の朝。

「おはようございます、ライト様!」

 ちょっとギリギリの時間に起きてしまったので、寝室の奥のウォークインクローゼットで着替えている間にリリリさんが朝食を運んできてくれていた。
 でも、なんか、ちょっと声が弾んでいるような……?

「おはよう……あ、ごめん。昨夜片づけるの忘れてた」

 リリリさんは、朝食の乗ったワゴンを廊下に置いたまま、テーブルの上の似顔絵をじっと眺めていた。
 せめて重ねておけば良かったのに、全部見えるように並べたままだし……プロでもないからちょっと恥ずかしい。

「勝手に見てしまってすみません! でも、あ、あの……これ、私ですか?」

 リリリさんが自分の似顔絵を指差してすごく嬉しそうに笑うので、反射的に頷くと、嬉しそうな顔のままリリリさんが飛び跳ねた。
 解りやすく喜んでくれる人だな……本当、リリリさんのこういう所、良いと思う。

「すっごく似ていますね! こんな絵描いてもらったの初めて!」
「似てる? よかった……あ、でも角の形が……もうちょっと巻くのか……」

 リリリさんが嬉しそうに似顔絵を持ち上げて自分の顔と並べて見せてくれて初めて気が付いた。
 顔のパーツは覚えやすいんだけど、角って人間に無いからあんまり意識的に見ていなかったな……。

「あぁ、そういえばそうですね。先がもうひと巻きあります。でも、気付かないですよ~! 細かい部分より、全体の雰囲気がまず似ているし、表情も似ているし、かしこまった写実画よりも温かみがあって、良いと思います!」

 リリリさんは自分の似顔絵を大事そうに机に戻した後、周りの絵もじっと眺めていく。

「こっちのローズウェルさんも騎士団長も似ていますね……あ、シン様すごい! かっこいい!」

 やっぱり恥ずかしいけど……まぁ楽しそうだからいいか。

「でも、やっぱり……」
「ん?」
「さすがライト様ですね! 魔王様が一番似ていますね!」

 え?
 リリリさんが魔王さんの似顔絵の中の、三番目に描いた微笑の絵を指差す。

「そうかな?」
「そうですよ! 完璧です。角の節の数まで合っているし、襟の高さやマントの留め具の形もこの通りだし、お顔立ちも表情も何から何まで完璧じゃないですか?」

 リリリさんのことだから本音っぽいけど……。

「そう? そんなに正確? でも、なんか違うんだよね……もっとかっこよくない?」
「え!?」

 俺の言葉にリリリさんが固まっていると……開けっ放しのドアがノックされた。

「失礼します。リリリさん、まだ朝食が廊下にありますが……?」
「あ、ローズウェルさん! ちょうど良かった、これ見てください!」

 心配して様子を見に来てくれたらしいローズウェルさんに向かって、リリリさんが机の上に絵を指差す。

「……? あ、絵ですか? おぉ! とても似ていますね」

 ローズウェルさんも感心するような声を上げてじっと並べられた絵を見てくれるけど……。

「ローズウェルさん、どれが一番似ていると思います?」
「似ている? そうですね……どれもお上手で似ていますが……こちらですね。魔王様のこの微笑の方の」
「ですよね! もう、完璧に似ていますよね! 他の表情も似ていますが、こういう笑顔はあまり見慣れないので……この微笑が一番魔王様らしいですよね!」

 笑顔のやつは、俺の前でよくしてくれる表情を描いたから他の人に見慣れないのは解るけど……その微笑の、え? そこまで?

「えぇ。色を付ければ魔王様の公式写実画として飾れるレベルに似ていると思います。ライト様が描かれたんですか? 器用な方とは思っていましたが、こんな特技までお持ちとは!」
「……そんなに、似てる?」
「「はい!」」
「俺、ローズウェルさんの絵の方が似てるかなって……」
「確かに似ていますが、私はもう少し垂れ目のような気も……」

 リリリさんがローズウェルさんの絵を持ち上げて、顔の横に並べると……あれ?

「角ももう少しねじれていますよね。この角だとむしろ魔王様の形になっているかなと……充分似ているんですが」
「確かに。言われてみたら……」

 かなり似ていると思うけど、細かい違いはある。
 絵なんだから多少違うのは当然だと思うけど……でも……。

「でも、魔王様は完璧ですから! やっぱりこちらが一番似ていますよ」
「似てるんだ……」

 お世辞……でもなさそうだな。

「絶対にもっとかっこいいのに」

 どうしても納得できなくて呟くと、もう一度魔王さんの絵を見てから、二人の視線が俺に向いた。

「ライト様……」
「ライト様!」

 なんだろう? すっごく「微笑ましいなぁ」って顔だけど。

「ライト様にはこれで納得できないほど、魔王様のお顔が素敵に見えているんですね!」
「え?」

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