魔王さんのガチペット

回路メグル

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番外編1 ●●が怖い執事長の話

一人の騎士(2)

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「命からがら戻って来たのに、迎えてくれた奴らは、みんな口々に言うんだ。『よくぞ生き残ってくださいました。早く治療して新しい騎士団長として皆を導いてください』と、『亡くなった皆さまの分も、ご活躍を期待しています』と、『早く仇を打ちに行きましょう』と……」

 解る。
 最後の一人になった騎士に、伝説の騎士の孫に、なんとか希望を見出そうとしてしまう者の気持ちが解る。
 今の戦況では……他に何も希望が無いから。
 この青年の肩に、過度な期待がのしかかっているのが……解る。

「俺は、死ぬために生き残ったのか?」

 ウオルタが血まみれで、指先が一か所変な方向を向いた手で自分の顔を覆う。
 覆っても、涙があふれていることは隠せない。

「い、行きたくない……もう、戦地に行きたくない。祖父も、父も、姉も、兄も、叔母も、従兄弟たちも死んだ! 全員俺よりも優秀だった。それなのに……歯が立たなかった。俺を……騎士団の中でも一番若い俺だけを、逃がすことしかできなかった……」

 そうだ。代々騎士の家系ということは、騎士団に家族や親せきが沢山いるわけで……目の前で多くの家族を次々に失った……のか。

「逃げることしかできなかった俺に、なにができるんだ!?」
「ウオルタさん……」
「無理だ! 嫌だ……行きたくない。もう、行きたくない……! 俺には無理なんだ。騎士団長の孫だから!? 最年少騎士!? 由一生き残った!? 全部祖父や親族がすごいだけだ! 俺はその恩恵にあやかっていただけだ! 俺自身には、祖父のような価値はない。無理なんだ。期待しないでくれ。無理なんだ!」
「……」
 
 泣き叫ぶウオルタに、なんと声をかけて良いか迷った。
 城付きの執事としては、彼がまた戦場へ勇ましく向かうように鼓舞するべきなのだろうが……。

 周囲の勝手な期待、身近な者が亡くなる恐怖……私の受けた苦しみとは別物ではあるが……なぜか自分を重ねてしまい、見ていられなかった。

「……行かなくていいのではないですか」
「……は?」
「ご家族も、折角護ったあなたの命がつきれば、悲しむでしょうし……」

 やっと手を退けたウオルタは、涙と血と泥で汚れた顔をおそるおそる私の方へ向けた。

「私が……内臓の損傷もあって魔法ですぐに治せる怪我ではないと……治療に数週間かかると、報告します」
「そんな! バレたら……俺もローズウェルも罰を受けるんだぞ!?」
「今のあなたが、戦場に戻って活躍するとは思えません」
「っ……」

 ウオルタの顔は、戸惑いと……私に縋ってしまいたいのを我慢しているような表情に見えた。

「だが、周囲の期待を裏切るわけには……」
「周りの求めるもののために、自分を犠牲にするのは……違うかと」

 もちろん、すべての兵士がこんなことを言い出せば軍は成り立たない。
 手を貸すべきではない。
 だが……周囲に過度な期待を押し付けられるウオルタに、一方的な愛を押し付けられる自分を重ねてしまって……いけないことだと解っていても、つい、放っておけなかった。

「あ、い、いいのか? ……だが、俺が行かなければ誰が行くんだ? 一人で敵の大将クラスと対峙できて前線で兵を鼓舞できて……兵が、共に、向かっていこうと、思うような……」

 自分で言いながら言葉の重圧に押しつぶされそうになっているウオルタに、それができるとは思えない。
 しかし確かに……戦場での騎士団と言う象徴を無くした兵の士気を上げる必要はある。
 それができるのは……

「そうだよなぁ。そういう存在が必要だよな?」

 え? この声は……?
 いつの間に?

「あ……一番様、二番様」

 振り返ると、詰所の入り口には一番様と二番様が立っていた。
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