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番外編1 ●●が怖い執事長の話
戦場(2)
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「でもなぁ。情けないことに、もう遠くまで魔法を飛ばす余力がないんだ。近づければ、あと一時間……いや、三〇分くらいなんとかなる」
「しかし、いけません! もう敵にも黒髪が来ていることはバレています! 狙われます!」
「なるべくフードを被って兵士たちに紛れる。戦闘地帯の後方までだ」
戦地にはフードや兜をかぶっている兵士もいるが……。
「……一番様……俺も……」
「そんな状態で馬に乗ったら五秒で落ちるぞ? これで俺も魔力を使い切るから、その間にお前はほんの少しでも回復しておけ。ほら、肉食え、肉」
一番様は、二番様の口にジャーキーを突っ込んだあと、自分の口にも大きめのジャーキーを咥える。
「ローズウェル」
「……はい」
「戦場に黒髪が何人きているか、敵は知らない。一人と思っているかもしれない。それを忘れるな」
つまり、二番様を温存して奇襲……か?
それとも……
「ほら、二番。角のおさまりが悪くて苦しいかもしれないが……きちんとかぶっておけ」
一番様が自分のフードを直した後、二番様のフードも、ほとんど顔を隠すほどに下げる。
まるで、視線を遮るように。
「では、行ってくる。護衛は……俺の速さについてこられるやつだけでいい」
一番様が櫓を降り、護衛の兵士が四人、それに続いた。
一人はフードをかぶり、もう一人は兜をかぶり、一番様が目立たないようにする。
全員大柄だし、一番様のフードはマントと繋がっていて豪華な軍服を隠しているので一般の魔法兵と変わらないように見えるし、これなら……。
「後は頼んだ」
「え?」
全員が馬に跨ったのを見届けてから、一番様はかぶっていたフード付きのマントを脱ぎ捨てた。
魔王と次期魔王候補が身に着ける、黒い詰襟風の軍服があらわれ……艶やかな黒髪が、あらわれる。
「一番様? ……あ、嘘だ……一番様!?」
二番様が叫んだ瞬間、一番様が馬を走らせた。
四人の護衛が置いていかれそうになるほどの速さで馬を走らせる一番様は、すぐに前線の兵の元へたどり着いてしまう。
たどり着いたのに……馬は進む。
兵の隊列が微かに割れて……こちらの陣営の中心でやっと馬を止めた。
全ての兵が一番様を……一番様の黒髪を見ているのが解った。
味方の兵は希望にあふれた顔で、敵の兵は絶望で歪んだ顔で。
「あぁ、そこで、そんなに解りやすく黒系統の魔法を使っては……!」
恐らくまだ詠唱中の一番様に向かって、雨のように矢が降ってくる。
広範囲の結界魔法では、魔法攻撃は防げても物理攻撃は防げない。
無防備な一番様を、盾を構えた護衛の兵士が隠すように囲むが……その間に、横長になっていた敵国の陣形が崩れ、敵兵はおそらく作戦も何もなく、ただただ「黒髪を倒さなければいけない」と一番様の方へ集まってきていた。
「一番様! 今からでも、フードを……兜を……一番様!」
一番様が詠唱を終えて、魔法が発動された。
敵兵は一番様にまだ迫っていない。
あぁ、間に合った。
これで下がってくれれば……そう思うのに。
「――……!」
一番様が剣を抜いて片手をあげた。
おそらく周囲の兵に向かって何か声を上げているようで……その内容はここからでは解らない。
ただ、見るだけで希望が湧いてくるような力強い笑顔だった。
「一番……様?」
その間も、一番様の周囲には多くの矢が降ってくる。
あ……やっと馬ごと後ろを向かれた。
「ふぅ……」
これで戻って来られる。
やっとひと心地着いたものの、一番様は陣形の最後方に下がっただけだった。
そんな……そんな場所にいては……早く戻ってください! ……と思うのに戻られない。
戻られるどころか、たった一度も私たちの方を見ない。
まるで、私や二番様の存在が無いかのように。
「まさか……」
戻られない、つもりだったのか。
存在がバレてしまった自分が戻れば、二番様の存在もバレるから。
「あ、い、一番様……」
おそらく二番様もそれに気づいたのか、フードを目深にかぶったまま必死に顔を上げる。
敵兵は、一番様のいる方向へどんどん集まってくる。
そのお陰で、大型武器の方は手薄になり……。
これも一番様の計算か?
大型武器に、とうとうこちらの兵がたどり着いた時だった。
「あ」
「っ!?」
一瞬だった。
兵士と言うには鎧も身に着けていない軽装で、剣ではなく短い刃物を持った敵国の刺客が数人、馬にも乗らず兵士の間を飛ぶように抜けて来た。
半数以上は兵士の手で切られ、撃たれ、それでも、捨て身の刺客の全ては止められなかった。
一番様も、護衛も、反応した。
一人につき一人ずつ倒した。
だが、抜けた敵は六人。
一番様と四人の護衛では……一人止められなかった。
「しかし、いけません! もう敵にも黒髪が来ていることはバレています! 狙われます!」
「なるべくフードを被って兵士たちに紛れる。戦闘地帯の後方までだ」
戦地にはフードや兜をかぶっている兵士もいるが……。
「……一番様……俺も……」
「そんな状態で馬に乗ったら五秒で落ちるぞ? これで俺も魔力を使い切るから、その間にお前はほんの少しでも回復しておけ。ほら、肉食え、肉」
一番様は、二番様の口にジャーキーを突っ込んだあと、自分の口にも大きめのジャーキーを咥える。
「ローズウェル」
「……はい」
「戦場に黒髪が何人きているか、敵は知らない。一人と思っているかもしれない。それを忘れるな」
つまり、二番様を温存して奇襲……か?
それとも……
「ほら、二番。角のおさまりが悪くて苦しいかもしれないが……きちんとかぶっておけ」
一番様が自分のフードを直した後、二番様のフードも、ほとんど顔を隠すほどに下げる。
まるで、視線を遮るように。
「では、行ってくる。護衛は……俺の速さについてこられるやつだけでいい」
一番様が櫓を降り、護衛の兵士が四人、それに続いた。
一人はフードをかぶり、もう一人は兜をかぶり、一番様が目立たないようにする。
全員大柄だし、一番様のフードはマントと繋がっていて豪華な軍服を隠しているので一般の魔法兵と変わらないように見えるし、これなら……。
「後は頼んだ」
「え?」
全員が馬に跨ったのを見届けてから、一番様はかぶっていたフード付きのマントを脱ぎ捨てた。
魔王と次期魔王候補が身に着ける、黒い詰襟風の軍服があらわれ……艶やかな黒髪が、あらわれる。
「一番様? ……あ、嘘だ……一番様!?」
二番様が叫んだ瞬間、一番様が馬を走らせた。
四人の護衛が置いていかれそうになるほどの速さで馬を走らせる一番様は、すぐに前線の兵の元へたどり着いてしまう。
たどり着いたのに……馬は進む。
兵の隊列が微かに割れて……こちらの陣営の中心でやっと馬を止めた。
全ての兵が一番様を……一番様の黒髪を見ているのが解った。
味方の兵は希望にあふれた顔で、敵の兵は絶望で歪んだ顔で。
「あぁ、そこで、そんなに解りやすく黒系統の魔法を使っては……!」
恐らくまだ詠唱中の一番様に向かって、雨のように矢が降ってくる。
広範囲の結界魔法では、魔法攻撃は防げても物理攻撃は防げない。
無防備な一番様を、盾を構えた護衛の兵士が隠すように囲むが……その間に、横長になっていた敵国の陣形が崩れ、敵兵はおそらく作戦も何もなく、ただただ「黒髪を倒さなければいけない」と一番様の方へ集まってきていた。
「一番様! 今からでも、フードを……兜を……一番様!」
一番様が詠唱を終えて、魔法が発動された。
敵兵は一番様にまだ迫っていない。
あぁ、間に合った。
これで下がってくれれば……そう思うのに。
「――……!」
一番様が剣を抜いて片手をあげた。
おそらく周囲の兵に向かって何か声を上げているようで……その内容はここからでは解らない。
ただ、見るだけで希望が湧いてくるような力強い笑顔だった。
「一番……様?」
その間も、一番様の周囲には多くの矢が降ってくる。
あ……やっと馬ごと後ろを向かれた。
「ふぅ……」
これで戻って来られる。
やっとひと心地着いたものの、一番様は陣形の最後方に下がっただけだった。
そんな……そんな場所にいては……早く戻ってください! ……と思うのに戻られない。
戻られるどころか、たった一度も私たちの方を見ない。
まるで、私や二番様の存在が無いかのように。
「まさか……」
戻られない、つもりだったのか。
存在がバレてしまった自分が戻れば、二番様の存在もバレるから。
「あ、い、一番様……」
おそらく二番様もそれに気づいたのか、フードを目深にかぶったまま必死に顔を上げる。
敵兵は、一番様のいる方向へどんどん集まってくる。
そのお陰で、大型武器の方は手薄になり……。
これも一番様の計算か?
大型武器に、とうとうこちらの兵がたどり着いた時だった。
「あ」
「っ!?」
一瞬だった。
兵士と言うには鎧も身に着けていない軽装で、剣ではなく短い刃物を持った敵国の刺客が数人、馬にも乗らず兵士の間を飛ぶように抜けて来た。
半数以上は兵士の手で切られ、撃たれ、それでも、捨て身の刺客の全ては止められなかった。
一番様も、護衛も、反応した。
一人につき一人ずつ倒した。
だが、抜けた敵は六人。
一番様と四人の護衛では……一人止められなかった。
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