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番外編3 一番の●●
一番という男(2)
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「突然すまない」
折角の黒髪なのに、襟足を刈り上げた、騎士や兵士に多い短い髪型で、私と近い竜角、背は同じくらいだが彼の方がはるかにガタイが良い。
黒の詰襟に金の装飾が沢山着いた服、後ろに二人並んでいる護衛らしき騎士の黒い甲冑……どこの国の装いだったか……。
「自分以外の若い黒髪に会えるなんて珍しいだろう? 声をかけずにはいられなかったんだ!」
満面の笑顔を向けてくる彼の方が五〇ほど若いか?
だが……そうだな。
私も、自分と導王様、式典でお会いした他国の黒髪の王様以外の……王様よりも若い黒髪に会うのは、初めてだった。
「魔王の国の者だ。一番目の次期魔王候補。一番と呼ばれている」
「あ……魔王の……私は導王の国の次期王、次王と呼ばれている」
「あぁ、導王の! 最近成人されたと聞いた。おめでとう!」
「……ありがとう」
この大陸で一番面積が広く、人口が多い魔王の国の次期王か。
おおらかで……悪く言えば平和ボケした国民が多いと聞いているが、目の前の一番も、他国の次期王に対してあまりにも警戒が無さ過ぎる。
だが……
「なぁ、もしよければ昼食でも共にどうだ? 成人祝いにおごるぞ?」
「そんな……初対面なのに」
「初対面だからだ! 同じ若い黒髪、同じ次期王同士、仲良くなりたいがこんな機会はなかなかない。今、距離を詰めないでどうする? チャンスを逃すのは嫌いだ」
図々しい奴だ。
しかし……チャンスと思ってすぐに行動できるところは、どちらかと言うと腰の重い私にとって魅力的に見えた。
なるほど、魔王の国はこういう者が王に立つのか。
「祝いと言うなら、私の食べたいものでいいのか?」
「あぁ! もちろんだ!」
街には魅力的な物が溢れていた。
しかし、目の前の男……一番はそれに負けないくらい魅力的に見えた。
◆
一番とは性格や好みは合わなかったが……考え方と言えば良いのか、感覚は合った。
「そうなんだ! 俺も経済学が一番苦手だ。あれは経済学者を宰相に置けばいいと思うのに!」
一番の大きな声に、私も深く頷く。
「その宰相の考えた策に最終決定を下すのが王の仕事だから、ある程度知識が必要……と解ってはいるが、どうにも苦手だ。王には『苦手』も許されないのか?」
「な? 王だからといって何でもできないといけないのは辛いよな? 作文や歌の授業も好かない。ずっと剣の練習と攻撃魔法の訓練をしていたい……筋トレでもいい」
「私もダンスや歌は苦手だ。ずっと魔法の練習と魔法薬や魔法道具の研究をしていたい……読書でもいい」
自分の国ではなかなか食べられない海鮮料理を出すレストランの個室で、思う存分海鮮を味わいながら、次期王同士らしい話……主に愚痴に近い話を沢山した。
「なぁ、俺たちの代では、国際会議後のパーティーでダンスや歌の時間を無くさないか?」
「それは名案だな。乗った。ダンスも歌も形骸化していて、楽しみのためにやるというよりは、仕来りだからなんとなくしているだけのようだし」
「無駄な物は省いて合理的にいこう。その分、別の……すぐには思いつかないが、何か開催国の利益になるようなイベントを盛り込めばいい」
「そうだな」
最初は多少警戒もしていたが、前菜を食べ終え、メインが腹に入った頃には、あまりにも話しやすく、距離を詰めるのが上手い一番のペースにすっかり乗せられていた。
……それが、とても楽しかった。
「あ、もう二時間も話していたな。次王も観光や買い物をしたいだろうに悪かった」
「いや、同じ境遇の者同士でしかできない話ができてとても楽しかった。誘ってくれてありがとう」
「そうか、では、また機会があれば誘ってもいいか?」
「ぜひ。これから国際的な場に出ることが増えるから、きっと顔を合わせることも増えるだろう。よろしく頼む」
私が右手を差し出せば、ずっと笑顔だった一番は更に笑みを深めて固く握手を交わしてくれた。
初めて、対等な「友だち」と呼べる存在ができた気がした。
折角の黒髪なのに、襟足を刈り上げた、騎士や兵士に多い短い髪型で、私と近い竜角、背は同じくらいだが彼の方がはるかにガタイが良い。
黒の詰襟に金の装飾が沢山着いた服、後ろに二人並んでいる護衛らしき騎士の黒い甲冑……どこの国の装いだったか……。
「自分以外の若い黒髪に会えるなんて珍しいだろう? 声をかけずにはいられなかったんだ!」
満面の笑顔を向けてくる彼の方が五〇ほど若いか?
だが……そうだな。
私も、自分と導王様、式典でお会いした他国の黒髪の王様以外の……王様よりも若い黒髪に会うのは、初めてだった。
「魔王の国の者だ。一番目の次期魔王候補。一番と呼ばれている」
「あ……魔王の……私は導王の国の次期王、次王と呼ばれている」
「あぁ、導王の! 最近成人されたと聞いた。おめでとう!」
「……ありがとう」
この大陸で一番面積が広く、人口が多い魔王の国の次期王か。
おおらかで……悪く言えば平和ボケした国民が多いと聞いているが、目の前の一番も、他国の次期王に対してあまりにも警戒が無さ過ぎる。
だが……
「なぁ、もしよければ昼食でも共にどうだ? 成人祝いにおごるぞ?」
「そんな……初対面なのに」
「初対面だからだ! 同じ若い黒髪、同じ次期王同士、仲良くなりたいがこんな機会はなかなかない。今、距離を詰めないでどうする? チャンスを逃すのは嫌いだ」
図々しい奴だ。
しかし……チャンスと思ってすぐに行動できるところは、どちらかと言うと腰の重い私にとって魅力的に見えた。
なるほど、魔王の国はこういう者が王に立つのか。
「祝いと言うなら、私の食べたいものでいいのか?」
「あぁ! もちろんだ!」
街には魅力的な物が溢れていた。
しかし、目の前の男……一番はそれに負けないくらい魅力的に見えた。
◆
一番とは性格や好みは合わなかったが……考え方と言えば良いのか、感覚は合った。
「そうなんだ! 俺も経済学が一番苦手だ。あれは経済学者を宰相に置けばいいと思うのに!」
一番の大きな声に、私も深く頷く。
「その宰相の考えた策に最終決定を下すのが王の仕事だから、ある程度知識が必要……と解ってはいるが、どうにも苦手だ。王には『苦手』も許されないのか?」
「な? 王だからといって何でもできないといけないのは辛いよな? 作文や歌の授業も好かない。ずっと剣の練習と攻撃魔法の訓練をしていたい……筋トレでもいい」
「私もダンスや歌は苦手だ。ずっと魔法の練習と魔法薬や魔法道具の研究をしていたい……読書でもいい」
自分の国ではなかなか食べられない海鮮料理を出すレストランの個室で、思う存分海鮮を味わいながら、次期王同士らしい話……主に愚痴に近い話を沢山した。
「なぁ、俺たちの代では、国際会議後のパーティーでダンスや歌の時間を無くさないか?」
「それは名案だな。乗った。ダンスも歌も形骸化していて、楽しみのためにやるというよりは、仕来りだからなんとなくしているだけのようだし」
「無駄な物は省いて合理的にいこう。その分、別の……すぐには思いつかないが、何か開催国の利益になるようなイベントを盛り込めばいい」
「そうだな」
最初は多少警戒もしていたが、前菜を食べ終え、メインが腹に入った頃には、あまりにも話しやすく、距離を詰めるのが上手い一番のペースにすっかり乗せられていた。
……それが、とても楽しかった。
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「いや、同じ境遇の者同士でしかできない話ができてとても楽しかった。誘ってくれてありがとう」
「そうか、では、また機会があれば誘ってもいいか?」
「ぜひ。これから国際的な場に出ることが増えるから、きっと顔を合わせることも増えるだろう。よろしく頼む」
私が右手を差し出せば、ずっと笑顔だった一番は更に笑みを深めて固く握手を交わしてくれた。
初めて、対等な「友だち」と呼べる存在ができた気がした。
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