240 / 368
番外編3 一番の●●
一番という男(4)
しおりを挟む「でもなぁ……国のために無茶ができて、周囲が支えようと思える魔族ほど、王に向いていると思う。一人で頑張るんじゃない、周囲も巻き込める王がいい」
目の前の男も、こうやってすぐに相手の懐に潜り込めるあたり、周囲を巻き込む求心力はありそうだが……。
「そうか? そんな奴に振り回される方が国民は苦労する。私は……お前が王になる方が良いと思う」
私の言葉に、一番は目を大きく開いて驚いた後、なぜか朗らかに笑った。
「嬉しいことを言ってくれるな。だが、王になると遊べないだろう? それに、書類仕事も多い。俺は……遊びたい」
本音ではなさそうだな……まぁいい。
「はっ! そんなことを聞くと、ますます王にしてやりたい。俺は国民ではないから投票権はないが……そうだな、投票の際に国外の有識者として応援演説をしてやろう」
「他国の次期王が応援か……まずいな、当選してしまう。今のうちに素行不良なところを国民に見せないと」
冗談っぽくそう言いながら、一番はずっと話に集中して見ているのか見ていないのか解らなかったアクセサリーの棚から、革のブレスレットを二本、手に取った。
「土産はこれにしよう。あいつがまた魔力切れを起こさないように……あと、俺がとばっちりを受けた時用に」
ブレスレットは黒系統の魔物の革を編んでできたものか。同系統の素材を身に着けると魔力循環が良くなるときくからな……え?
「っ……!」
「ん? どうかしたか?」
「いや、何でもない……」
今、一瞬みえた値札……いや、まさかな……。
「こちら二つで金三〇と銀五〇になります」
店員がブレスレットをそれぞれ薄い皮袋に入れて、一番に渡す。
金三〇……先程の値札、見間違いではなかった。導王の国であれば、一般的な四人家族が三ヶ月は衣食住を賄える金額だ。
「質が良い物はやはりそれなりにするな」
そう言いつつ、一番は金の入った皮袋から軽々と言われた額を出して、店員の差し出すトレーの上に置いた。
袋の膨らみ具合、重く沈んだ感じ……まだ袋の中に二倍以上残っていそうに見える。
「俺の買物は済んだが、お前は?」
「私は……今日の目的は魔導書なんだ」
「そうか。この街なら有名なものから僻地のマイナーなものまで何でもそろうらしいからな」
一番の言葉にすました顔で頷いたが……少し気持ちは複雑だった。
私は次期王なのだから、自由に使える金は、同年代に比べれば多い方なのだと思っていた。
だが今、ローブの内ポケットに入れている袋の中には……城から持ってきた自分の金、導王様から頂いた小遣いが入っている。両方合わせて、金が一〇あるかないか。
いや、気にすることではない。一番の方が先に成人しているようだし、どういう経緯で手持ちが多いのかは解らないじゃないか。
「では、次王は魔導書店か? 俺は武器屋に行かなければならないからここでお別れだな。と言っても、夕方のパーティーでまた会えるか」
「あ、あぁ。そうだな」
魔物素材のギャラリーを出て、もう解散と言う時だった。
「あ、うちの騎士だ。おい、ウエンダ!」
「あ! 一番様!」
一番が顔を向けた方を見ると、騎士らしい屈強な体つきで、濃い青髪を後ろに流した男が駆け寄ってきた。服装は、一番の後ろにいる騎士のような甲冑ではなく軽装の黒い部分鎧だ。
「お使いの品が無事に購入できましたので、武器屋へ向かう所でした」
真面目そうな騎士が、一番の前に跪いて濃い茶色の紙袋に入ったものを手渡す。
……何か、自分や「騎士」らしい格好では買いにくい物を頼んでいたのか?
「助かった。……あぁ、これだこれ。これが欲しかったんだ」
なんだろう? 袋の形から言って薄い本のようではあるが……。
「気になるか?」
「え? あ、まぁ」
ついジロジロ見てしまっていると、一番が俺の隣にやってきて、こっそり袋の中身を覗かせてくれた。
「国内では買いにくいだろう?」
「……」
「それに、俺は肉付きのいい柔らかい子が好きなんだが、国内ではスレンダーな子が人気でな?」
「……」
「あ、悪い。初対面で下ネタは流石に……」
袋の中身は、セクシーな人間の男の子の写実画集だった。俗にいうエロ本だ。
こういう本の話は、若い男が集まってする話としてはおそらく当然で、普通なら盛り上がるところかもしれないが……。
「最悪だ」
「すまん……」
本当に最悪だ。
「私の気に入りの本だ。全く同じだ。これからその本で楽しむ時にお前の顔がチラつきそうで、最悪だ」
なんでこんなところまで気が合うんだ? 思わず舌打ちをしてしまったが……一番の方は思い切り驚いた後、なぜか楽しそうに笑いだした。
100
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。