243 / 368
番外編3 一番の●●
二番
しおりを挟む
一番と「友だち」関係を続けて五〇年近くが過ぎたころ、また東の国で国際会議が行われることになった。
「次王!」
「一番!」
ほぼ恒例になっている会議前の一番との会食。
待ち合わせていた東の国の城のエントランスホールにいたのは一番と護衛の騎士が二人と……黒髪の若い魔族がもう一人。
一番より五〇歳ほど若いか?
まだ幼さが残るものの、整った男らしい顔で、一番よりやや背は低いがよく鍛えられた体躯。真ん中で分けた黒髪は、一番よりは長いが、耳を隠す程度にしか伸ばしていない。
服装は黒い詰襟に金の装飾が付いた、魔王の国の魔王や次期王が着る衣装。
……目の前にいるのはつまり……。
「やっと二番が成人したから連れてきたんだ!」
一番がよく「血の繋がらない弟だ」と言っている「二番」か。
「あぁ、成人おめでとう。私は導王の国の次王だ」
「一番様から噂はかねがね……二番目の次期魔王候補、二番と呼ばれている。よろしく頼む」
「こちらこそ。これからは私たちの時代だ。長く顔を合わせることになるだろう。よろしく」
軽く握手をした「二番」は、真面目で優しすぎると聞いていたが、思ったよりも落ち着いてしっかりとしている印象を受けた。
しかも、手が触れただけで感じるこれは……。
「聞いてくれよ、次王。最近結界魔法の能力も二番に負けたんだ。俺が勝てるのは武術と身長、顔の良さくらいになってしまった」
あぁ、やはり。
かなり魔力に恵まれている。
私には劣るが……王として平均的であろう一番に比べればかなり恵まれている。
それにしても一番は……本当に自分が王になる気は無いんだな?
「顔の良さ? どう見ても……いや、否定してはいけないな。好みによるものだから、そう感じる奴もいるか」
「次王……お前、自分が美形だからってなぁ……。まぁいい。それよりもこいつがお前に聞きたいことがあるらしい」
「私に?」
初対面で何を聞くというのだ?
訝しんでいたが……二番はまだ幼さの残る瞳をキラキラと輝かせた。
まるで、憧れの存在を見るかのように。
「先日、貴方が発表され、国際特許を申請された新しい構造の魔法陣、とても素晴らしかった! 魔法陣の構造を変えることで、魔法石の消費を抑えるなんて、考えたことも無かった! なぜあのようなことを思いつけるんだ?」
「あ……」
一〇〇歳ほど年下の王候補……言ってみれば、後輩のような存在に褒められて、悪い気はしない。
あの魔法陣は、魔法研究家としても、次期王としても、素晴らしい物が作れたと思っている。
しかし……
「あの新構造で国民の暮らしはもっと豊かになる。魔法技術としての素晴らしさと、民を豊かにすることの素晴らしさ……技術も、考え方も、次期王候補として見習うことばかりだ。貴方のような魔法の才があれば、俺ももっと、国民全員を幸せにできるのに……」
素直に喜べばいいのに。
豊かな国の王候補を目の前にして、どうしても矮小で貧しい自分がいる。
あれは……あの魔法陣は……「国民の生活を豊かにする」ためではない「国民の生活を最低限整える」ためのものだった。「国民全員を幸せにする」ではなく、「不幸になる国民をなんとか一人でも減らす」ものだった。
我が国は年々魔法石の採掘量が減っている。
魔法石を手に入れにくくなった国民のために、少しの魔法石でも今までの暮らしが維持できるように必死に考えて生み出したものだ。
導王の国の国民や国内の役所、商会、工場が自由に使えるように国内特許は取ったものの利用料はゼロに設定してある。
国際特許についても、世界的に魔法石の需要が減れば、輸入価格も落ち着くかもしれないから利用料を取らないという考えもあったが……やはり取ろう。そして、益は国民に還元しよう。
貧しい考え方かもしれないが、豊かな国にとってあの魔法陣がそう見えるなんて……どうにも悔しかった。
「二番は最近、次王の話ばかりして……すっかりお前のファンだ。少し前までは一番様、一番様となついてくれていたのに」
「あ、そ、そんな、一番様のことも、もちろん尊敬しています! ただ、魔法技術に関しては……次期王としてのお勉強も沢山あるはずなのに、素晴らしい研究成果をいくつも発表されているところが尊敬しかない」
次期王としての務めより、魔法の研究を優先させてもらっているだけだが……次期王としての勉強はして当たり前とでも言うような口ぶりだな?
……いや、違う。
素直に褒めてくれているはずだ。
嫌なことは言われていない。
私が、一方的に悪く受け取っただけだ。
悪気が無くこちらが引っかかることを言うのは一番だってある。
それでも……なぜだろう?
この二番と言う男は、どうにも好きになれる気がしなかった。
数年後には平和ボケしたこいつが王か……。
こいつと国際会議で話し合うことになるのか……。
やはり一番が王になればいいのに。
それに、一番が二番の話ばかりするのが気に食わなかった。
初めてできた友だちに対しての……幼稚な嫉妬だった。
「次王!」
「一番!」
ほぼ恒例になっている会議前の一番との会食。
待ち合わせていた東の国の城のエントランスホールにいたのは一番と護衛の騎士が二人と……黒髪の若い魔族がもう一人。
一番より五〇歳ほど若いか?
まだ幼さが残るものの、整った男らしい顔で、一番よりやや背は低いがよく鍛えられた体躯。真ん中で分けた黒髪は、一番よりは長いが、耳を隠す程度にしか伸ばしていない。
服装は黒い詰襟に金の装飾が付いた、魔王の国の魔王や次期王が着る衣装。
……目の前にいるのはつまり……。
「やっと二番が成人したから連れてきたんだ!」
一番がよく「血の繋がらない弟だ」と言っている「二番」か。
「あぁ、成人おめでとう。私は導王の国の次王だ」
「一番様から噂はかねがね……二番目の次期魔王候補、二番と呼ばれている。よろしく頼む」
「こちらこそ。これからは私たちの時代だ。長く顔を合わせることになるだろう。よろしく」
軽く握手をした「二番」は、真面目で優しすぎると聞いていたが、思ったよりも落ち着いてしっかりとしている印象を受けた。
しかも、手が触れただけで感じるこれは……。
「聞いてくれよ、次王。最近結界魔法の能力も二番に負けたんだ。俺が勝てるのは武術と身長、顔の良さくらいになってしまった」
あぁ、やはり。
かなり魔力に恵まれている。
私には劣るが……王として平均的であろう一番に比べればかなり恵まれている。
それにしても一番は……本当に自分が王になる気は無いんだな?
「顔の良さ? どう見ても……いや、否定してはいけないな。好みによるものだから、そう感じる奴もいるか」
「次王……お前、自分が美形だからってなぁ……。まぁいい。それよりもこいつがお前に聞きたいことがあるらしい」
「私に?」
初対面で何を聞くというのだ?
訝しんでいたが……二番はまだ幼さの残る瞳をキラキラと輝かせた。
まるで、憧れの存在を見るかのように。
「先日、貴方が発表され、国際特許を申請された新しい構造の魔法陣、とても素晴らしかった! 魔法陣の構造を変えることで、魔法石の消費を抑えるなんて、考えたことも無かった! なぜあのようなことを思いつけるんだ?」
「あ……」
一〇〇歳ほど年下の王候補……言ってみれば、後輩のような存在に褒められて、悪い気はしない。
あの魔法陣は、魔法研究家としても、次期王としても、素晴らしい物が作れたと思っている。
しかし……
「あの新構造で国民の暮らしはもっと豊かになる。魔法技術としての素晴らしさと、民を豊かにすることの素晴らしさ……技術も、考え方も、次期王候補として見習うことばかりだ。貴方のような魔法の才があれば、俺ももっと、国民全員を幸せにできるのに……」
素直に喜べばいいのに。
豊かな国の王候補を目の前にして、どうしても矮小で貧しい自分がいる。
あれは……あの魔法陣は……「国民の生活を豊かにする」ためではない「国民の生活を最低限整える」ためのものだった。「国民全員を幸せにする」ではなく、「不幸になる国民をなんとか一人でも減らす」ものだった。
我が国は年々魔法石の採掘量が減っている。
魔法石を手に入れにくくなった国民のために、少しの魔法石でも今までの暮らしが維持できるように必死に考えて生み出したものだ。
導王の国の国民や国内の役所、商会、工場が自由に使えるように国内特許は取ったものの利用料はゼロに設定してある。
国際特許についても、世界的に魔法石の需要が減れば、輸入価格も落ち着くかもしれないから利用料を取らないという考えもあったが……やはり取ろう。そして、益は国民に還元しよう。
貧しい考え方かもしれないが、豊かな国にとってあの魔法陣がそう見えるなんて……どうにも悔しかった。
「二番は最近、次王の話ばかりして……すっかりお前のファンだ。少し前までは一番様、一番様となついてくれていたのに」
「あ、そ、そんな、一番様のことも、もちろん尊敬しています! ただ、魔法技術に関しては……次期王としてのお勉強も沢山あるはずなのに、素晴らしい研究成果をいくつも発表されているところが尊敬しかない」
次期王としての務めより、魔法の研究を優先させてもらっているだけだが……次期王としての勉強はして当たり前とでも言うような口ぶりだな?
……いや、違う。
素直に褒めてくれているはずだ。
嫌なことは言われていない。
私が、一方的に悪く受け取っただけだ。
悪気が無くこちらが引っかかることを言うのは一番だってある。
それでも……なぜだろう?
この二番と言う男は、どうにも好きになれる気がしなかった。
数年後には平和ボケしたこいつが王か……。
こいつと国際会議で話し合うことになるのか……。
やはり一番が王になればいいのに。
それに、一番が二番の話ばかりするのが気に食わなかった。
初めてできた友だちに対しての……幼稚な嫉妬だった。
97
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。